龍騎車に乗ってどこまでも……その2
イケメンのもんどり打つ姿……シュールな光景だね。
誰がこんな酷い事を……って犯人は私だよ……!!
「ば、獏くん……毎回ごめんね……!」
そんなに強く打った気持ちはなかったんだけど、今日はいつも以上に悶えております。
「い、いや?な、何となく来るかなって思ったから、み、身構えてたんだけど……よ、予想以上だったからさ……!」
恐る恐る謝った私に、行きも絶え絶えな風だけど頬を赤らめて返す彼。
……うん。やっぱり彼はMかもしれない。確信できたわ……!
ま、まあ、人には色々と嗜好があるからね。それに関して兎や角言わないけどさ。
ただね……一国の王様である人がそれでいいのかしら……?そこに関してはちょっと思う所があるけど。
それで彼の事を嫌いになるかって言えばそうはならない。
彼が言っていたけど、どんな私でも好きだって言う気持ちと同じで、どんな彼でも彼だし。表裏のない人なんていないからね。
夫婦になろうって思った時から決めていたんだ。相手の色んな事を広い心で受け入れようって。
時々は意見もするし、引くときは引くけどね。
だから、今は思う事にする。
うわぁぁぁぁぁ……ドン引きですよ……!!ってね。
そんな事をぼんやりと考えていたら、再びアナウンスが鳴った。
《ご歓談中に失礼致します……!間もなくステンの街へと降下を開始致します……。かなりの揺れが予想されますので、座席にしっかりと着席の上、もう暫くお待ち下さい……!》
「……おっと、もうそんな時間か……」
足元で悶えていた彼がすっくと立ちあがり、そう呟いた。
アナウンスに促されるように、私達は座席に腰掛ける。
「……時にひぃちゃん、絶叫系は大丈夫だったよね?」
「え?多分大丈夫だけど……何で??」
急に絶叫系とか何の事??聞かれた質問の意味が分からず、戸惑っていると、車両全体が小刻みに揺れ始めた。
……この揺れに似たの知ってる。ジェットコースターが頂上までゆっくりと登って行く時のそれだ……!
え?ええ??も、もしかして……!?
揺れが止まって、それからすぐに、車両がガタリと大きく傾いた。
獏くんを見れば、ニコニコと笑みを浮かべて一言。
「うん!これから降りるみたい。多分、かなりスピードが出るから気を付けてね!!」
……え?何それ?
直後、車両全体が激しく揺れて、思わず座席の端を握り締めた。
窓の外の景色も超スピードで流れていく。新幹線より早いよ!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!な、何!?何なの!!!」
自分でも情けないくらいの女子力ゼロな叫び声が車両に木霊している。
「あはは!アリーナが久しぶりの飛行で張り切ってるみたいだねー」
ゴウゴウと風を切る音の中に、時折咆哮が混じっているように思えたけど……あれは彼女のなのね……!
ちょ!?何でそんなに平然と居られるのぉぉぉ!?
私は座席から落ちないようにしがみ付くのが精一杯なんだけど!?
「ひぃちゃんも楽しんでくれてるみたいで良かったー!」
いやいやいや!!!今の私の様子のどこを見てそう思えるの?!
楽しくない!怖いんですけどぉぉぉぉ…!!
と、思ったら不意に体が外向きに引っ張られる感覚があった。
もしかして……回ってる??回りながら降りてるの??
獏くんが言うには、ドラゴンのアリーナを先頭に、車両は螺旋を描くように下へ向かっているのだそうですよ。
外へ外へと引っ張られるその様はまるで脱水機の中にいる感じ。実際中に入った事ないからね?あくまで想像ですよ?
その過程でスピードを落としつつ、着陸に向かうらしいけど、どうにも速度が落ちてる気配がないんですけど!
ねぇ……このままのスピードで降りてったら不味いんじゃないの?
これってさ、地面に激突エンドじゃないの?ねぇ!?
助けを求めて、獏くんを見るけど、相変わらずニコニコと笑ってるだけ。
「ロゥジの運転だし、アリーナも良い仔だから何もないと思うよー。まあ、もしもの時は俺がひぃちゃんだけは守るから!」
ち、違うよ……そう言う事を聞きたいんでなくて……!
「もういやぁぁぁぁぁぁ……!!!」
叫び声と共に私の意識はぷっつり切れた。
私は意識が途切れる間際に思った。
……もう、二度と、絶叫系マシンは乗らない……!!




