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新生活を異世界で。  作者: 凍々
街へ連れて行って貰った時のお話……です。
33/114

龍騎車に乗ってどこまでも……その1

 時間としては多分短い、でも随分長く感じる時間を二人で寄り添っております。

 実は止めどなく涙が出てきてしまったり、それで獏くんが慌てふためいたりしたけど、今はもう涙も引いた。

 見れば、空の夕焼け模様が若干青を差し始めている。

 もう夜なのかな。時計がないから分からないけど。

 お腹の虫さんも息を潜めて黙ったまま。いや、こんな時に泣いてくれたら、もうギャグでしかないけどね。

 フラグじゃないからね?ね??

「……どう?落ち着いた?」

 頃合いかと、獏くんが様子を伺うように声を掛けてきた。

 ゆっくりと一つ頷く。それから、頑張って笑顔を作ってみた。

 あまり表情筋が動いた気がしなかったけど。笑顔を作るのは苦手なんだもの。

 それでも、獏くんは嬉しそうに微笑んだ。

「……うん、やっぱりひぃちゃんは笑ってる方がずっといいな……」

 ぼそりと獏くんが呟いた。不意にときめいた私がいた。


 そういえば……さっきから背後に視線を感じてるんだけど……?

「陛下……そろそろ出発しても宜しいでしょうか……?アリーナも待ちくたびれておりますが……?」

 この声はロゥジさん……!?

 二人で振り返ると、彼が入り口で敬礼と共に立っていた。

 表情はないんだけど、若干彼の口元とこめかみがひくついてるのは気のせいじゃないと思われるよ……。

 お怒りですね……これは間違いなくお怒りです……!

 仕切り直すように獏くんは咳払いを一つ。

「……あ、ああ。待たせたな。出してくれるか?」

「……はっ!かしこまりました!」

 バタリとしまる扉。少々乱暴気味だったのはやっぱり苛ついていたからでしょうか……怖い怖い!

 返事するまでの間が気になったけど、今は考えないようにしよう……。


 《アリーナ号、出発致します……!離着陸時は少々揺れますので、座席にしっかりと着席の上、暫しの飛行をお楽しみ下さい。また、動きが止まってからご移動願います……》

 車内にロゥジさんだろうか、注意のアナウンスが流れた。

 何だか飛行機に乗った気分だ。私乗った事ないから想像でしかないんだけどさ。

「ひぃちゃん、そろそろ出発だよ!もし気分が悪くなったらすぐに言ってね」

 うん、と返事する前に、お腹がぐぅぅぅぅぅ……と低い音で泣いた。君が返事しなくてもいいんだよ!

「ははは……実はね……」

 獏くんが苦笑いと共に、よいしょと後ろ手から取り出したのは、抱えるぐらい大きなバスケットだった。

 え?こんなのどこから出したの?

 驚きに目を瞬かせていた私。ふふ、と彼は不敵な笑みを浮かべながらバスケットの蓋を開けた。

 そこには中身一杯、サンドイッチが詰まっていた。個数にして、50個はありそう。タマゴ、野菜、ハム、チーズ、デザートっぽいものも見える。

 なんでも、私がお腹空いた時に出せるように用意してくれてたんだって!淹れたてのお茶までセットですよ!

 い、いつの間に……!?

 相変わらず、用意が良すぎる獏くんであります。

「少し景色でも見ながらさ、食事にしようか」

 うんうん!と首を振って答える私。子どもか!


 揺れもなく、快適な

 モグモグしながら外の景色を眺める。

 やっぱりどこまで見ても夕焼け模様は変わらないんだな……。

 と、思ったら、下から光が溢れて来るのが見えた。

 ん?何だろう……下に何かあるのかな?

 立ち上がって窓越しに外の様子を伺うと、遥か下に湖があって、それが神々しく光を放っているようだった。

「獏くん……何か下で光ってるんだけど……?」

「……ああ、それはミトラの奈落だよ。このテラリアンで唯一平和で不可侵の場所さ」

 ミトラって……確か以前読んだ本で載ってた。

 えっと……テラリアンを作った神々の一柱。自身を巡る争いに心を痛めて、自らの力を全て注いで、争いで傷付いた大地を、命を癒した女神様だったよね。

 今、この下に見えるのが、彼女がテラリアンと融合した場所って事なのか……。

 光は緩やかに伸縮し、揺らぎ、辺りを照らしているようだった。

 あまりに綺麗で吸い込まれてしまいそう。そして、ガラス越しでも包み込むような暖かさを感じる。意識を持ったように揺らぐそのさまには何か意志があるようにも感じる。まだあそこにはミトラの意志が残っているような、そんな不思議な光だった。

 気づけば、隣に獏くんが立っていた。私の肩を抱いて、同じく外の光を見ているようだ。

「本当はすぐに街に降りるつもりだったけど、この景色も見て欲しかったんだ。このテラリアンで一番綺麗な場所だからね」

 ……何か嬉しい。そんな特別な場所をこんな特等席で見せてくれるなんて。凄くロマンチックだわ……。

「まあ、俺にとっての女神(ミトラ)はひぃちゃんだけどね!」

「な?!」

 き、急に何を言うのこの人は……!女神なんて……そんな……!

 そんな満面の笑みでまあ……!

 どぎまぎしつつ照れ隠しに、つい肘鉄が……!

 途端に倒れて、床でもんどり打つ彼。

 そ、そんな、恥ずかしい事言うのが悪いんだからね!?

 でも、ごめんね。嬉しいんだけど、つい手が出ちゃうの……。

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