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新生活を異世界で。  作者: 凍々
街へ連れて行って貰った時のお話……です。
31/114

今一度、外へ。その3

 慣れないパンプスと長いスカートに苦戦しつつも、二人で草原を歩く事暫く。

 途中で歩き辛そうなのを見かねて、獏くんが抱っこしようか?って言ってくれたけど、それは恥ずかしいから丁っ重にお断りしました。獏くんめっちゃがっかりしてたけど、ごめんね。

 ……でも今、若干後悔してる私がいるけどね……。

 元々スカートが苦手で、主にズボンしか履かなかったから、正直凄く歩き辛い。捲り上げて良いなら今すぐ走るけど、流石にそれをやっちゃったらおしまいだよねー。女子として。


 そうこうしている内に、目の前に見慣れない建物が見えてきた。あれが目的地かな?

「まずの目的地はあれだね。もう少し頑張ってね、ひぃちゃん」

 う、うん、と辛うじて返事を返して、また歩いた。

 近付くと見えたのは、煉瓦造りの頑丈そうな建物。山のように丸い屋根は3つ。その下には柱が幾本も立ち並んでいる。中央にはアーチ状の入口があって、その向こうには、空が見えていた。

「もしかして……駅?」

 ふと思った事を口にすると、そうそう!と彼が嬉しそうに頷いた。

 連れられて、その入口をくぐると、駅のホームのように広々と横長に開けた場所が広がり、真正面にはやはり空が見える。多分、浮島の端にこの建物が作られているって事だよね。って事は落ちたら大変って事だ。

 背筋の凍る思いがして、軽い目眩がした。

 と、同時に駅舎を横切るように大きな影と強い風が吹き、思わず飛ばされそうになった所を獏くんが後ろから抱くように支えてくれた。あ、危なかったぁ……。

「……うん、丁度来てくれたみたいだ」

 あまりの風に目が開けていられなかったんだけど、彼の言葉が気になって、おずおず目を開けてみる。

 ホームに停車していたのは、電車ではなくて……。

「……え?ど、ドラゴン!?」

 山のように大きな巨体。私の顔より大きな赤い瞳。全身には、幾重にも積み重なる黒光りする刺々しい鱗。牛でも一口で飲み込めそうなぐらい大きな口には鋭い牙がギラギラ光っている。岩でも砕いてしまいそうな鋭い爪が両手、両足に付いているのも見える。

 とにかく圧倒されてしまい、身がすくんでしまう私。

 安心させるようにか、彼はそっと手を握ってくれた。少しだけ、怖くなくなった気がした。

「転移してもいいんだけど、ひぃちゃんとのお出掛けにそれだと風情がないかなと思ってさ、折角だから呼んできたんだ。今回はこれで街に降りるよ。歩かせちゃってごめんね」

 ん?降りるって?どういう事??

 獏くんが教えてくれたけど、今、私達がいる所は実は浮島で、殆どの人達は、更に下の広い浮島に暮らしているんだって。

 クロム国の国土は基本的にいくつもの浮島で構成されていて、それらを繋ぐように交通機関が敷かれているんだそう。でも、交通機関っていっても、電車とかバスとか飛行機とかじゃなくて、大きい鷹みたいな生き物や空を飛ぶ馬みたいのが代わりにいるんだって。

 そっかぁ……とそこまで聞いてから、急に意識が遠退いて、私は意識を失ったらしい。

 ……うん。久々の遅れ気味な気絶でございますよ。

 色々と覚悟はしてたけど、これはね……パンチが効きすぎだったかな……。


 気絶自体はほんの数分だったらしい。

 意識が戻ると、獏くんにまたもお姫様抱っこされてた。

「ああ!ひぃちゃん!良かった!驚かせたみたいでごめん!」

 心配したよー!と彼は涙混じりに頬擦りしてきた。

 ちょっとくすぐったい……なんて思ってたら、視界の端に先程のドラゴン。

 先程のショック再びですわ。

 夢じゃなかったのね……。ま、また意識が……。

 ……い、いや堪えるのよ私!気絶ばっかりだと話が進まないよ!

「え、え、えっと……こ、これに乗るの?」

 何とか離れそうな意識を気合いで止めて、言葉を絞り出す。

 少しは安心できたのか、獏くんは少し苦笑いしながら、

「いやいや、この仔は、王家しか乗れない竜騎車(りゅうきしゃ)を牽くドラゴンだよ」

 この国でドラゴンを扱えるのは王家だけ。元の世界でいう、御用列車みたいな感じかな。

 ちなみに、名前はアリーナって言うんだって。なかなか強面な外見からは想像もつかないわー。しかも女の子でした。マジか。

 俺達が乗るのはあっちだよ、と彼が指差す方へ顔を向けると、ドラゴンの胴体部分にに太い鎖が架かっていて、その鎖の先に馬車のような車両が繋がれていた。遠目からだから良くは見えないけど、車両にはクロム国の紋章が金色で描かれているようだった。

 な、何だ……ドラゴンに乗るんじゃないのね?安心したわ……!

「あ、もしかしてひぃちゃん、アリーナ(ドラゴン)に乗りたかった?良かったらそっちにも乗れるけど……?」

 違う!違うから!と全力でお断り致しました!

 そんな事したらまた気絶コースだからね!


「……バクゥ陛下、ヒカゲ妃様!ご出発の準備が整いました!」

「ああ……ご苦労。間もなく向かう」

「はっ!お待ち申し上げております!」

 駆け寄ってきた駅員さんらしき人が私達にそう告げると、獏くんは片手を上げて意を伝えた。獏くんの言葉を受けて、彼は敬礼後に私達に深々と礼をした後に、また車両に向けて駆けていった。

 おお……ヒカゲ妃様だって!初めて呼ばれる敬称にむず痒い思いがした。

「アリーナの準備も出来たようだね。じゃあ行こうか、ひぃちゃん!」

 私を抱いたまま、獏くんがゆっくりと歩き出した。心なしか足取りが弾んでいるように思えたのは気のせいじゃないね。

 一体何処に連れて行かれるのかな……。不安は多いけど、ちょっと楽しみになってきたかも!

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