今一度、外へ。その1
先の唐揚げショックから一時空いて、
「ひぃちゃん、今日は外に行かない?」
と、ご機嫌な獏くんにお出かけに誘われた。けど、何か既視感を感じた。
ん?デジャブかな?つい最近、同じ話があったような気が……?
そこで、はたと思い出した私。
……そうだ、あの日だ!
外に出ても平気なんだろうかって悩んでたら、既に獏くんが大々的に公開プロポーズもどきをやらかしてて、恥ずかしさの極みに達した私が獏くんを思い切り投げ飛ばしてしまったあの日だ!
思い出した今でも恥ずかしさが込み上げてきて、動悸が激しくなって顔が熱くなってくるぐらいだよ……。
よく今まで忘れてたのが不思議なくらいの出来事だね!
忘れてたというか、他に色々ありすぎて、考える余裕がなかったとも言えるかもしれないけども。
でも、やっぱり人の多い所に行くのはまだちょっと抵抗がある。
「まだ不安?」
私の気持ちを見透かしたように、獏くんはそう言った。
ちょっと考えて、私がこくりと一つ頷きを返したら、そうか……と彼は少し困ったような表情を浮かべた。
「この間も言ったけど、ひぃちゃんは大丈夫。俺が皆に知らせておいたから。ひぃちゃんは目立つのとか嫌いだと思ったけど、あれだけ知らせれば、下手に手も出せないからさ」
その言葉に私は気付いた。いくら私が余所者でも、王様である獏くんが公示した、つまりお墨付きがあるから、そうそう手は出せないって事か。私に危害を加える=王様に反逆する事になるって事だよね?思ったより怖い怖い!
そんな獏くんの真意なんて全く読めてなかった……!
なのに、恥ずかしさに任せてあんな酷い事を……申し訳ない気持ちで一杯だし、気不味さに身が縮む思いです。
「本当に、何も、ない、よね?」
おずおずとそう尋ねると、獏くんは勿論!と笑顔とガッツポーズで答えた。
「……もし、もしね?そんな不届者がいたら、必ず俺が守るし、そいつはもれなく血祭りに上げるから安心してね!」
なかなかのパワーワードを含みながら、いつもの笑顔で言う彼に、私は内心引きつつも頷く事しか出来なかった。
血祭りと安心って単語、あんまり同じ文章で使わないと思うんだけど……。気合いは伝わってくるけど、違和感MAXなんですが。
まあ、俺的にはまだひぃちゃんの魅力を伝え足りないと思うけどね……と小さい声で続けて言ってるのが聞こえた。
いやいや!あれだけやってまだやるか!気持ちだけもらっておくね!
「確かにね、俺も心配に思ってる事があるんだよ……」
獏くんが心配?何だろう?
1つため息をついて、悩ましげな表情で彼は口を開く。
「俺、国民の前でひぃちゃんを紹介しただろ?あれを見てさ、ひぃちゃんの虜になってしまう奴が出てくるんじゃないかって」
……は?真顔で何を言ってるのか、このお人は……!
「だってさ!写真だけでもこんなに可愛いのに、直に見たらもっと魅力的で可愛いんだよ?ひぃちゃんファンが増えちゃうじゃないか……!」
うっとりした顔でこちらと手に持った写真を交互に見つつ、そう宣う彼。
ファンて。私はアイドルでなく、ただの一般人ですよ?
って!どこから出したの、その写真!初めて一緒に旅行行った時のじゃん!まだ持ってたのね……!
ま、まあ、ファン云々の件は兎も角として。あり得ないし。
この間の自称許嫁さんの襲撃もあった事だし、用心するには越した事はないよね。
それに、何かあればきっと獏くんが助けてくれる。それは確信できてるから。
少しでもこの世界の事を知りたい。知るには本も役立つけど、それだけじゃ駄目だもの。不安もあるけど、引いてばっかりは進歩がないし。
聞いて、見て、触れて、感じて、理解していくのが大事。
亡くなったおばあちゃんもよく言ってた。勉強も大事だけど、それだけでは世の中やっていけないよ、直に感じたり、取り組んでみないと本当の所は見えてこないからね、って。
うん。ここはおばあちゃんに倣って、いってみよう!
「獏くん……お出掛けの事だけど、連れて……」
私の言葉に彼は少し驚いた表情をしたけど、すぐにパッと明るい表情になりながら、私の手を取って、
「勿論!ひぃちゃんの行きたい所なら、いつでも、何処にでも案内するよー!」
流れるような即答だった。笑顔と一緒に八重歯がキラリと光ってたよ。むしろ、被せる勢いで答えてた気がするのは気のせいかな?
流石と言うか、何と言うか……呆れを通り越して、逆に尊敬する。そういう真っ直ぐな所も好きなんだけど、ほんのちょっと周りを見れると良いかなぁ、なんて思ってはいるけどね。
そして、はたと思った。
一緒に居てくれるだけでも嬉しいし、私を気に掛けてくれるのは有難いんだけど……王様としてのお仕事は大丈夫なのかしら……って。
獏くんがいないことで、今頃誰かが困った事になってないかが心配だな……。




