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新生活を異世界で。  作者: 凍々
異世界に来る事になったお話……です。
28/114

とりあえず成功のようです?

 喜び勇んで獏くんを起こしに行ったら、何とベッドがもぬけの殻だった。

 毛布をめくってみたり、ベッドの下も覗いてみたけど、何も見えない。

 え?ええ??どこ、どこに行ったの……?

 はっと背後に気配を感じて振り返ると、テーブルに影が。

 そこには獏くんが既に着席済でございましたよ。ワクワクした様子でこっちを見てる。

 しかももう着替えてるし。コーヒーかお茶か飲んじゃってるし。優雅な朝を演出してるし。

 な!?い、いつの間に……!!さっきまで寝てたはずじゃ……?

 驚き、戸惑う私に、いつも通りの調子で、

「ん?何かひぃちゃんが面白そうな事してたから起きて待ってたよ?あ!ひぃちゃん、そのエプロン着てくれたんだ!良く似合ってるよー!」

 と、満面の笑みで返された。

 ……ま、まあ予定が若干変更になったけど、とりあえず進める事にしよう……。


 片付けは後にする事にした。料理も冷めちゃうし、なにより待ってる獏くんがいるし。

「今日、獏くんの誕生日……でしょ?だから……」

 ドン!とテーブルに唐揚げを置いたら、向かいからわぁと歓声が上がった。

 それから、彼の隣に立って、モジモジしながらも、

「作ってみたの……。良かったら、食べて、くれる、かな………?」

 視線に恥ずかしくなってしまって、言葉が上手く出なかった。

 獏くんは両手を口の前に、頬を赤くして、ふるふると震えている。感極まってるのかな?

「……え?早起きもして、わざわざ俺の為に?そんな……ひぃちゃん……!」

 あらら。獏くんの目がうるうるしてる。泣くほどじゃないと思うんだけど……。

「ありがとう!覚えててくれて!凄く、凄く嬉しいよ!」

 と、勢い良く抱き付かれた。

 ちょっと苦しかったけど、喜んでくれたなら良かった。


 さて、お待ちかねの実食でございます。

 本当は起こしに行く前に少し試食してからって思ってたんだけど、その前に獏くんが起きちゃってたから、まだ自分でも食べてないんだよね……。味はどうかな……。

 あと、見た目が……!唐揚げの体は成してるけど、大丈夫だろうか……。

「……それじゃ、頂きます!」

 挨拶もしっかりしてから、唐揚げの山から1つ、獏くんが摘まんで、食べてくれた。

 彼の向かい側に座って、不安な気持ちで動向を見守る。

 「……ん?」

 モグモグと咀嚼していた獏くんがピタリと止まった。

 あ、あれ?どうしたかな?

「ど、ど、どうかな……獏くん?」

 声を掛けたけど、獏くんからは反応なし。

 やっぱり久し振りに料理したから、駄目だったのかな……。それか、食材の選び方を間違えちゃったかな……。獏くんの口には合わなかったのかな……。得も言われぬ絶望感と後悔の念が、頭の中をぐるぐる廻る。

 折角のお祝いだったけど、台無しにしちゃったよね……。うぅ、もう泣きそうだよ……。

 ぐすりと鼻を啜ったその直後だった。

「……美味しい、美味しいよ、ひぃちゃん!」

「……へ?」

 それからの獏くんの食欲は凄まじく、次々と唐揚げを取っていき、5分も掛からずに山盛りの唐揚げはなくなってしまったのでした。


 フードファイターも真っ青ですわ。

 唖然とする私の目の前で、獏くんは上品に口を拭き拭きしてる。

 ま、まさかこんなに無くなるのが早いとは……恐るべし!!

「ふぅ、ひぃちゃんの手料理なんて本当に久し振りだったから、つい一気に食べちゃったよ!美味しかったよ、ひぃちゃん!」

 獏くんの話では、懐かしさとあまりに美味しすぎて時が止まっちゃったんだって。マジか。

「あ!でも、折角作ってくれたんだから、少し大事に食べれば良かった……失敗したなぁ」

 がっくりした様子の彼。

 それに苦笑いしか返せない私がここにいます。

 毎日作ってくれても飽きないよ、なんて言ってますよ。

 いやいや……毎日はない。流石にない。

 確実に胃もたれコースじゃん。アラサー人間の胃袋にはキツいなー。それに女子としては賛同しかねるわー。

「朝からこんなに良い気分になれるなんて……今日はとても良い日だ!今までで一番嬉しいお祝いだったよ……!」

 ありがとう、と上機嫌な様子で向かいの獏くんがそう微笑んだ。


 彼の笑顔と言葉に私は心がほっと暖まる。

すっごく癒された。ときめいた。

 獏くんみたいに気の利いた事も出来ないから、こんなこじんまりとした事をやるのが精一杯。

 だけど、それでも、些細な事でも嬉しいって、ありがとうって言ってもらえる、そんな旦那様で私も嬉しい。

 また、料理してみよう。料理と言わず、苦手だからとか逃げないで色んな事やってみよう。

 そしたら……また喜んでくれるかな。

 

 今回、唯一心残りがあるとすれば、自分の分確保するの忘れてた事かな……。

 うぅ、お腹空いたよ……ぐすん。

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