とりあえず成功のようです?
喜び勇んで獏くんを起こしに行ったら、何とベッドがもぬけの殻だった。
毛布をめくってみたり、ベッドの下も覗いてみたけど、何も見えない。
え?ええ??どこ、どこに行ったの……?
はっと背後に気配を感じて振り返ると、テーブルに影が。
そこには獏くんが既に着席済でございましたよ。ワクワクした様子でこっちを見てる。
しかももう着替えてるし。コーヒーかお茶か飲んじゃってるし。優雅な朝を演出してるし。
な!?い、いつの間に……!!さっきまで寝てたはずじゃ……?
驚き、戸惑う私に、いつも通りの調子で、
「ん?何かひぃちゃんが面白そうな事してたから起きて待ってたよ?あ!ひぃちゃん、そのエプロン着てくれたんだ!良く似合ってるよー!」
と、満面の笑みで返された。
……ま、まあ予定が若干変更になったけど、とりあえず進める事にしよう……。
片付けは後にする事にした。料理も冷めちゃうし、なにより待ってる獏くんがいるし。
「今日、獏くんの誕生日……でしょ?だから……」
ドン!とテーブルに唐揚げを置いたら、向かいからわぁと歓声が上がった。
それから、彼の隣に立って、モジモジしながらも、
「作ってみたの……。良かったら、食べて、くれる、かな………?」
視線に恥ずかしくなってしまって、言葉が上手く出なかった。
獏くんは両手を口の前に、頬を赤くして、ふるふると震えている。感極まってるのかな?
「……え?早起きもして、わざわざ俺の為に?そんな……ひぃちゃん……!」
あらら。獏くんの目がうるうるしてる。泣くほどじゃないと思うんだけど……。
「ありがとう!覚えててくれて!凄く、凄く嬉しいよ!」
と、勢い良く抱き付かれた。
ちょっと苦しかったけど、喜んでくれたなら良かった。
さて、お待ちかねの実食でございます。
本当は起こしに行く前に少し試食してからって思ってたんだけど、その前に獏くんが起きちゃってたから、まだ自分でも食べてないんだよね……。味はどうかな……。
あと、見た目が……!唐揚げの体は成してるけど、大丈夫だろうか……。
「……それじゃ、頂きます!」
挨拶もしっかりしてから、唐揚げの山から1つ、獏くんが摘まんで、食べてくれた。
彼の向かい側に座って、不安な気持ちで動向を見守る。
「……ん?」
モグモグと咀嚼していた獏くんがピタリと止まった。
あ、あれ?どうしたかな?
「ど、ど、どうかな……獏くん?」
声を掛けたけど、獏くんからは反応なし。
やっぱり久し振りに料理したから、駄目だったのかな……。それか、食材の選び方を間違えちゃったかな……。獏くんの口には合わなかったのかな……。得も言われぬ絶望感と後悔の念が、頭の中をぐるぐる廻る。
折角のお祝いだったけど、台無しにしちゃったよね……。うぅ、もう泣きそうだよ……。
ぐすりと鼻を啜ったその直後だった。
「……美味しい、美味しいよ、ひぃちゃん!」
「……へ?」
それからの獏くんの食欲は凄まじく、次々と唐揚げを取っていき、5分も掛からずに山盛りの唐揚げはなくなってしまったのでした。
フードファイターも真っ青ですわ。
唖然とする私の目の前で、獏くんは上品に口を拭き拭きしてる。
ま、まさかこんなに無くなるのが早いとは……恐るべし!!
「ふぅ、ひぃちゃんの手料理なんて本当に久し振りだったから、つい一気に食べちゃったよ!美味しかったよ、ひぃちゃん!」
獏くんの話では、懐かしさとあまりに美味しすぎて時が止まっちゃったんだって。マジか。
「あ!でも、折角作ってくれたんだから、少し大事に食べれば良かった……失敗したなぁ」
がっくりした様子の彼。
それに苦笑いしか返せない私がここにいます。
毎日作ってくれても飽きないよ、なんて言ってますよ。
いやいや……毎日はない。流石にない。
確実に胃もたれコースじゃん。アラサー人間の胃袋にはキツいなー。それに女子としては賛同しかねるわー。
「朝からこんなに良い気分になれるなんて……今日はとても良い日だ!今までで一番嬉しいお祝いだったよ……!」
ありがとう、と上機嫌な様子で向かいの獏くんがそう微笑んだ。
彼の笑顔と言葉に私は心がほっと暖まる。
すっごく癒された。ときめいた。
獏くんみたいに気の利いた事も出来ないから、こんなこじんまりとした事をやるのが精一杯。
だけど、それでも、些細な事でも嬉しいって、ありがとうって言ってもらえる、そんな旦那様で私も嬉しい。
また、料理してみよう。料理と言わず、苦手だからとか逃げないで色んな事やってみよう。
そしたら……また喜んでくれるかな。
今回、唯一心残りがあるとすれば、自分の分確保するの忘れてた事かな……。
うぅ、お腹空いたよ……ぐすん。




