彼に疑いあり…です!その2
……はい!あの後、張り切った様子の獏くんに連れられて、やって来たのはとある部屋の前でございます。
獏くんの空間転移で目的地には秒で到着。まるで■■■■ドア的な展開ですよ。何か前も言った気がするけど。
移動する瞬間の空間が歪む感じには未だに慣れないけど、本当便利だよねー。
「……ここに、ひぃちゃんに見せたいものがあるんだ!」
扉を指しながら、興奮した感じでそう獏くんが言った。
目の前には3~4mはありそうな大きな合わせ扉がある。素材は多分黒壇で、それぞれの中央には何かの紋章が浮かんでいて、鼓動を打つように、青く緩やかに光を放っていた。
え……何か封印でもされてるのかって雰囲気なんですけど。開けて大丈夫なのここ……?
あ、良く見たら、この扉取っ手がない……?
どうやって開けるの?と聞いたら、ここに手を翳してみて、と獏くんに言われて、恐る恐る光る紋章に片手を翳してみた。獏くんは反対側のに手を翳している。
すると、両方の紋章がゆっくりと中央へ動き始めた。獏くん側も同じく中央へ。二つの紋章は丁度真ん中で重なり合って一つの新たな紋章が出来上がった。
え?え?と何が起きたのか分からず、戸惑う私。落ち着かせるように獏くんはそっと後ろから肩を抱いてくれた。
「大丈夫だよ。何も怖い事は起きないから……」
浮かび上がったのは、角をもつ人とそれを取り囲むような蝙蝠の羽の紋章だった。確かこれって……。
「ひぃちゃんも気付いた?これはね、この国のシンボル、クロム王家しか使えないものなんだよ?」
獏くん曰く、認証された二人が同時に紋章に触れる事で開く仕組みの魔術なんだって。凄いなぁ……。
「ここはね、俺とひぃちゃんがいないと開けられないようになってるんだ。あと、他の誰も入ってこられないから安心してね」
二人の秘密の部屋って事かぁ。何かドキドキする……!
さっきの紋章が鍵だったみたい。
カチャリと小さく音がして、扉が内側に自動で開いていった。
ゆっくりと開いていく扉。中は真っ暗で今の所は何も見えてないですが、その向こうには何があるのかな……?
それにしても、ここまでして見せたいものって本当何なんだろう……?あの張り切りようだと、相当気合い入ったものを作ってるんじゃないかな。
でもね、さっき有らぬ疑惑を掛けかけた手前、素直に喜んでいいのか、複雑な気持ちの私がいます……。
部屋にいざ入ろうとした時に、獏くんは私に合図するまで目を閉じててくれる?と言ってきた。
何で?と聞いたら、驚かせたいんだ!ってニッコリ笑顔。
ここまででもう十分驚いてるんだけど……。
まあ……ここは素直に目を閉じてみましょう。
それから、獏くんに手を引かれて、一歩一歩ゆっくりと歩き始めた。
部屋に入ったのだろうか、若干だけど外と空気が変わったように思えた。少しひんやりしてて、埃っぽさがある。
「ちょっと散らかってて……足元に気を付けてね……」
片付けが間に合ってなくてさ……と申し訳なさそうな声が聞こえた。
いやいや……むしろ私の方が申し訳ないのです。獏くんの段取りをぶち壊してしまったようだし……。
目をつぶってるので見えないけど、確かに歩くとちょいちょいぶつかるものがある。避けようもないから、とりあえず慎重に足を進める事にした。
歩いてる最中に回りで何かガチャガチャ動かしてる感じだったけど、もしかすると片付けしてたのかな?
「……うん。ひぃちゃん、目を開けていいよ!」
背後から獏くんの声がする。
その合図で私はゆっくりと目を開いた。
「え……何……これ……!」
目の前に広がったのは、明るい開けた空間。白を基調に、所々には色とりどりの花が飾られている。天井からは柔らかい日の光が降り注ぎ、向かって一番奥にある大きな十字架を照らしている。その手前には一段高くなった舞台があって、そこには牧師台も設えられていた。左右には白一色の長椅子が設置されていて、床には入り口から真っ直ぐ奥まで赤い絨毯が敷かれていた。
これって……教会……だよね?
私は驚き、目を疑ってしまった。
だって、この景色はこの世界にはないはずなんだもの。
結婚しようと決めた時、どうしても式は挙げる程の余裕はなくって、獏くんがそれなら気分だけでもって、一度二人で式場の見学に行ったんだっけ。見学だけだったけど、ドレスなんかも試着させてもらえて、料理の試食もちょっとだけあって、それでも凄く嬉しかったのを覚えてる。
ここはいつか夢見ていた場所。でも諦めなきゃいけなかった場所。
ねぇ、これって……と振り返ると、獏くんは微笑みながら1つ頷いた。
「うん。俺が覚えてる限りで再現してみたんだ、記憶違いはあるかもだけど、そこはごめんね」
え?これ全部獏くんが作ったって事!?
寝る間も惜しんで、こんな凄いものを一人で……?
信じられないけど、彼ならやりそう。益々匠の域に達してるよね……。
驚き過ぎてもう言葉がない。本当……凄いよ、獏くんって。
「俺さ、本当は、式を挙げてあげたかったんだ……。俺のじゃなくひぃちゃんの為にさ。そんなのいいよって言ってたけど……。俺、あれからずっと、ずっと心の奥で引っ掛かってたんだ」
少し憂いを帯びた表情で、すっと遠い目をしながら獏くんはそう話してくれた。
「……だから、内緒で準備してたんだ。こっちの世界になっちゃったけど、式を挙げてひぃちゃんを喜ばせてあげたいって!」
獏くんのその言葉に、私はグッと胸が締めつけられる思いになった。
……そんな、そんな事、気にしなくって良かったのに。
そうやって心配させてたなんて、思いもしてなかった……。
「そ、それで……ど、どうかな……?」
どこか不安そうな表情で、こちらを見つめる彼。私の言葉を待っているようだ。
もう返す言葉なんて決まってるよ。
わざわざ私の為にって、喜ばない訳ないじゃない……!
「……嬉しい、です……!」
感動で胸がつまって上手く言葉が出なかったけど、獏くんは満面の笑みで私を抱き上げた。それから私に頬擦りしながら、良かった!と嬉しそうに何度も呟いていた。
本当……反応が一々大人なんだか子供なんだか……。
そういう所も好きなんだけどね。えへへ。
その後、でも居なくて寂しがらせちゃって、不安にさせちゃった事は本当にごめん、と反省してた。
私も何も知らないでキツく当たっちゃってごめんねと謝ったらきょとんとされた。
え?むしろご褒美だよ?と笑顔で言った彼にやや引いてしまった私。
もう!最後の最後で……ちょっとだけ台無しかも……。




