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新生活を異世界で。  作者: 凍々
異世界に来る事になったお話……です。
23/114

サプライズは突然に。

 あの後獏くんにめっちゃ笑われますた。

 そりゃあ、あの状況で盛大にお腹が鳴ればね!仕方がないね!


 今は晩御飯の最中ですたい。

 今日のメニューはカレーです。カレーって名前ではないけど、タイタン族の郷土料理なんだって。

 獏くんって物知りだし、料理上手で本当憧れるよ……。

 テーブルの上には色とりどりのカレーが沢山。どれも食欲をそそるスパイスの香りが鼻を擽る。お腹の虫さんも騒ぐ騒ぐ。

 野菜カレー、シーフードカレー、チーズがたっぷりトッピングされて焦がしてあるもの、ビーフカレー、バターカレーなんかもあって、好きなものをかけて食べられるように用意してくれた。

 更に嬉しいのはナンもあるし、ドリンクはラッシーもある。

 どこぞのカレー料理店に来たみたいな豪華さですよ。

 わぁぁぁ!と子供の喜ぶような私の反応に、彼はふふと小さく微笑んだ。

「ひぃちゃん、カレーも好きだったよね?辛いの苦手だから辛味は控えめにしといたよ。でも、熱いから気を付けて食べてね」

 至れり尽くせり、味の好みもしっかりで把握で……!

 本当に出来た旦那様!……惚れ直しちゃうね。涙出ちゃう。

 しっかり手を合わせてからご挨拶。……いただきます!

 お昼を食べてなかったせいか、ご飯が進む進む!

 どれも美味しかったけど、一番好みなのはバターカレーだったかな。凄くマイルドなお味で食べやすかったです。お代わりもしちゃったぐらいです。

 え?ご飯は勿論特盛だよ?

 ……例の如く、あっという間に完食でした。

 ごちそうさまでした!


 お腹も一杯になった所で、もう少しお勉強してみようかなと。

 え?片付けはいいのかって?

 いざ手伝おうと思ったら、もうすでに終わってたし……。

 手際良すぎてついていけないのです。うぐぐ……。

 本棚へ移動しようと席をたったと同時に、片付けを終えたのか、ニコニコ顔の獏くんが戻ってきた。

 手には細長い瓶と二人分のグラス。瓶の中には赤紫の液体。多分ワインとかのお酒みたいに見えた。

 いつもなら食後にはお茶を持ってきてくれるんだけど、今日は何かあったのかな?

 でも確か……獏くんはお酒が飲めないはず。舐めるぐらいの少量でも酔えるぐらいの下戸さんだった。

 同棲してた時に一度宅飲みしてみたら、ほんのちょっと飲んだだけで酔うわ吐くわで大騒ぎになった記憶がある。

 私は全然飲める方なんだけど。仕事終わりのビールとか最高だよねぇー。


「ひぃちゃん、今日は何の日か分かる?」

 再度テーブルを挟んで向かい合って、第一声、獏くんがそう尋ねてきた。

 え?今日は何の日かって??

 何の日と申されましても……まるで思い当たらないぞ……?

 これは……カップルにありがちな記念日問題かな?

 目の前にはワクワクした視線を送る笑顔の獏くんが見える。早く答えが来ないか待っているようだった。

 その視線に、内心、いや顔にも出てると思うけど、大いに焦り出す私がいます。

 これは不味い……!落ち着いて、考えて、思い出すのよ、私!

 付き合った記念は違う。あれは入籍しようとした日だもの。

 獏くんの誕生日……も違う。初デート記念?同棲記念日?

 あれ??今日って何の日だっけ……!?


 あれこれ考えてみたけど、決定打は出ず……。

 誤魔化すとか探りを入れるとか、そんな器用な事は私には出来そうもない。もう、これは素直に聞いてみよう。非常に情けない話だけど……。

「……獏くん、ごめん!」

 テーブルにぶつけそうな勢いで頭を下げた。驚いた彼が慌てて隣へ回ってきてくれた。

 顔を上げてと言ってくれたけど、申し訳無さすぎて無理……。


 事情を理解した獏くんは、何だそんな事かぁと笑い始めた。

 がっかりされる、もしくは怒られると思っていた私は、彼の反応が予想外で戸惑っていた。

「まぁ色々とあったから忘れてたかもだけど……今日はね……ひぃちゃんの誕生日だよ!」

 パチパチと獏くんは拍手してくれました。

 え?ええ?ええええ??

 自分の誕生日なんて逆に考えもつかなかったわ……!

 こっちの世界に来てから、時間や日時の感覚が曖昧だったし、それを考える余裕がなかったというか……。

 でも、確かこっちの世界と元の世界って時間軸がずれてるんじゃなかったかな。

 もしかして、こっちに来た日から数えてくれてたのかな。

 そんな気遣いも出来る旦那様。素敵です。

 ちなみに、持ってきてくれたのはお酒じゃなくて、葡萄のジュースみたいなものでした。

 軽く乾杯をしてから、獏くんに覚えててくれてありがとう、って言ったら、照れ臭そうに笑ってた。


 獏くんがおもむろに立ち上がって私の前にやって来た。

 そして、座ったままの私の前で、片膝をついて私の手をそっと取り、すっと目線を合わせてくれた。

「ひぃちゃん……いや、緋影さん」

 私の名前をいつものじゃなく、ちゃんと呼んでくれた。

 彼の真剣な表情と眼差しに胸が高鳴る。凄くドキドキする。

「……お誕生日、おめでとう。俺は、貴女と出逢えた事を心から感謝しているし、こうして祝える事が幸せで誇らしいよ」

 うん。私も獏くんと会えて嬉しい。こうやって祝ってくれる人がいるって幸せだって思ってるよ。

 彼は私の手の甲にそっと口づけてから、

「……改めて、俺は貴女を心から愛しています、俺と……結婚して下さい。一生幸せに、一生守ります」

 聞いた瞬間に衝撃で意識が飛びそうになった。

 ……プロポーズだ。これはプロポーズだよね!?

 ……そう!そう!そうなの!こういうのを待ってたの!

 これまで何だかんだで邪魔食ってばっかりで上手くいってなかったけど、今回はムードもバッチリ!最高です!

 嬉しい!嬉し過ぎて気絶しそう……!


 これも受け取って、と手渡された小箱。

 それは手に収まるぐらいの小さな軽いもの。

 そっと開けてみると、そこには白銀に輝く指輪が2つ収まっていた。特に装飾はされていないシンプルな指輪だった。

「……サイズは大丈夫だと思うんだ!良かったら……」

 獏くんが指輪を1つ取り出して私の指にそっと通してくれた。緊張からか彼の手が震えている。

 指輪は勿論左手の薬指に。吸い付くようにぴったりと嵌まった。

 その様子を見て安心したように笑う獏くん。私も一緒に笑った。

 私からも獏くんにもう1つの指輪を。こっちもぴったりだった。

「……本当は、あの日に渡すつもりだったんだ。遅くなっちゃってごめんね……」

 そんな事……ない、と首を横に振った。

 色んな獏くんの気持ちが嬉しくて涙が出てきた。涙で滲んでいく視界の中、彼もまた嬉しくて泣きそうな顔をしているみたいだった。


 誕生日……つまりは年を取るって事。

 今まで、嬉しいは嬉しいけど、嫌な気持ちの方が強かった。

 もうアラサーだしね。なかなか複雑ですよ。

 でもね、こうやってお祝いされるのなら誕生日も悪くないって思えた。

 やっぱり、好きな人が居てくれるって幸せだね。

相変わらずの拙い文章で、すみません…

今回は大分長めになってしまいました…

お読み頂きありがとうございます。


まだまだ彼らのお話は続きます。

どうぞお付き合い下さい。




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