危機は去ったようです……
「……ひぃちゃーん、もう目開けても大丈夫だよー」
獏くんの声がする。いつもの優しい穏やかな声だ。
さっきのから落ち着いてくれたのかな?……良かった……!
でも、目を開けられない私がいるのです。
……獏くんを信じてない訳じゃなくてね?素直に怖いの!
「ねぇ、ひいちゃんったらー!」
……本当に?本当に本当??
目を開けたら回りが地獄絵図になってたりしない?
あれだけ派手にやってたっぽいじゃない?
血がドバーとかさ何かの破片が飛び散ってたりとか……考えすぎかしら?
……もし、そうなってたら確実に気絶コースだけど。
恐る恐る目を開ける私。
どうか何もありませんように!と強く願いつつ。
……目の前はいつもの部屋が見える。何処も壊れてない。何も飛び散ってたりしない。あの変身してしまった彼女もいない。
まるで何事もなかったみたいに整然と部屋はあった。
ちょっと疲れた様子があるけど、ニコニコした獏くんもそこにいた。
あれ?何で?彼女は??
ポカーンと拍子抜けしてしまった私。思わず力が抜けて後ろに倒れてしまった。
そこへ慌てて駆け寄ってくる獏くん。何だかお馴染みの光景だねぇ。
「ど、どうしたの!?お腹でも空いちゃった?簡単なのなら直ぐに作るよ?それか何処か具合でも悪い??寝れるようにベッドも用意してあるけど、どうする?」
心配そうな表情で側に来て、あたふたと矢継ぎ早に問い掛ける彼。まず空腹から心配される所が私ならではだね!
「どうもしないよ……。ただ、ちょっと、疲れちゃったかなぁ……」
心配させないように笑ってみようとしたけど、はは……苦笑いしか出ないや。
それを見て、そうだね、色々あったしね、と彼も苦笑い混じりに言った。
「……あ、そうだ。獏くん、さっきの女の子は……?」
んー?と小首を傾げつつの素敵な笑顔で返された。
……直感で分かった。これは深く聞いちゃ駄目な奴だ……!
……わ、私が見てない内に帰ってもらったのかな?ちょっと強引にかもしれないけど、うっすら鉄っぽい臭いがするけど……きっとそうに違いないよね!
そう思う事に致しましたわ、私。
とりあえず、今日はもう休む事にした。
獏くんはちょっと用事を済ませてくるね、と部屋を出てしまったので今はボッチです。
いつもなら正確に空腹を主張するお腹の虫さんも今日ばっかりは大人しかった。
……そうか、君も疲れてるんだね。仕方ないね。
ベッドに一人、横になり、ボーッと前を見る。眼鏡は外してしまったので、薄ぼんやりとした視界が映るだけ。
全身に気だるさはあるけど眠気は来なかった。
そして、ある程度落ち着いてきた所でふと思う。
……生きてて良かった!って。
獏くんがいなきゃ、私は確実に死んでた。もし獏くんがいない時に来られてたらとか、助けてくれなかったらとか考えたくもないけど。思っただけでも震えが来るよ。本当に獏くんがいてくれて良かった……。
あと、今更だけど、本気の殺意って底知れぬ怖さがあるんだって身を持って実感していた。
思い返せば、彼女は初めから私を殺すつもりで来たんだと思う。
出会い頭から仕掛けてくれば良かったのに、それが出来なかったのは好きな彼がいたからか、あの姿を見せたくなかったからなのか。少なくともちょっとはそんな乙女心があったのかなとか。
そう言えば、私の魂の半分は獏くんらしいから、躊躇もあったのかもしれない。
初めからの殺意を感じていたから、獏くんもあの態度を取ってて、いざという時に備えたのかなとか。
……あくまでも、私が感じた事だけれど。
そして、彼女の変化を目の当たりにして思う。
私は今、異世界にいるんだ、って事を。
夢じゃない。アニメでもない。手品じゃない。CGでもない。
今、現実に目の前で起きていた事だって。
これからも驚く事、怖い事もいっぱいあるんだろうなぁ……。
ついていけるのかなぁ……私。主に精神面がだけど。
獏くんがいれば大抵の事は上手くいきそうだけど、頼りっぱなしも何だか切ないよ。
今の所、私には身を守る術がないんだよねー。
以前思ってたけど、私も魔法みたいなの使えたりしないのかなぁ……。
今度こそ獏くんに聞いてみよう!
二十話到達です。
まだまだ続きます。
頑張ります。




