乱入者は迷惑です!その2
見ず知らずの他人、しかも子供にいきなり、泥棒猫!って言われました。
初対面の人にいう台詞じゃないよね……。
自己紹介すっ飛ばしての罵倒とか、実に斬新なアプローチですなぁ。
驚き過ぎて返す言葉もない。
「この国の王に娶られるのはアタシ!このルリィしかいないんだから!とっととこの国から失せなさいよ、このブス!!」
またもズビシっと指差しながら凄まれた。
自分の容姿にはまるで自信ないですけど……他人から、まして子供から言われると傷つくよね……。
無邪気って残酷よ。
「おい……俺の大事な人に向かって何て口の聞き方してんだ……!」
隣から凄まじいオーラ的なものを感じて、恐る恐る見ると、そこには眼光鋭く、ギリっと歯軋りをする彼の顔が。まるで般若。
あ、これは怒ってる。獏くんお怒りでいらっしゃるよ!
さっきのでれでれモードが嘘みたい……。本当に別人みたい。
その表情のまま、彼はゆっくりと立ちあがり、真っ直ぐに彼女を睨み付けた。獏くんの視線に彼女は怯えたようにその場で少し後退った。
「……謝れ、今すぐ彼女に謝罪しろ……!」
優しい口調とはまるで逆の重々しく冷たい、怒りの籠った言葉を静かに放つ。
怯えを隠すかのように、彼女は両手を振りながら、
「だ、だってぇ!許嫁はアタシでしょ?!あ、分かったぁ!アタシを嫉妬させる為にこんな大掛かりな嘘までついたのね?もう、バクゥったら……お茶目さんなんだから!」
と、途中から前向きに捉えたようです。ウィンク付きで。
うわぁぁぁ……。
何だろうこの感じ。モヤモヤっていうか、ゾワゾワっていうか、とりあえず見るに耐えないこの気持ち。
さっき初対面であの言い分って言ってたけど、私も言うわ。
ウザい。もうさぁ……この子大分面倒くさい……!!
あれだ。回りがイエスマンばっかで花よ蝶よで、我が儘放題で育っちゃった感じの子でしょ?見た目からしてね?
ガツンと一発噛ましちゃっていいかな?駄目?
ちょっとウズウズしていた私を制するように獏くんが手を前に出してきた。やっぱり実力行使は駄目ですか……残念。
聞くに耐えないと言った風に大きくため息をついた彼。
「……俺は前々から言ってるが、お前の事は何とも思ってはいない。興味も一切ない。これからもそう思う事はない」
「そ、そんなはずない!お母様だって、バクゥは貴女が大好きだけど恥ずかしくって言えてないだけ、両思いだって言ってたもの!そうでしょ??もう!早くそこの邪魔者どっかやってよ!部外者がいたらバクゥも本音も言えないでしょ?ねぇったら……」
彼女の独りよがりで縋るようなその言葉にプチっと何かの切れる音が。
「……馬鹿野郎が!勘違いもいい加減にしろ!!お前はただの迷惑だ!!!」
ビリビリと鼓膜が震えた。
初めて聞いた獏くんの怒声。自分に向けられたものじゃないって分かってはいるけど、隣にいるだけでも怖い。さっきから肝が冷えっぱなしなのです……。
普段優しい人は怒らせると怖いっていう典型だよ……!
彼の怒声に驚いたのか彼女はその場で尻餅をついた。
「彼女は、緋影は俺の最愛の人だ。公示した通り、俺は彼女を妻として迎える。異論は認めん。特にお前は……邪魔だ」
突き放す言葉に彼女の顔色がより蒼白になっていく。
「何で……何でよ……何でこんな余所者に……!」
歯噛みしながら涙目で悔しがる彼女。相変わらず冷たく怒りの視線を向ける獏くん。
……ここまで聞いてて逆に辛くなってきちゃったのは私だけ?
でも……過去の事があったとはいえさ、何でここまで獏くんは冷たい態度を取るんだろう……?
「……アタシ、認めないから!バクゥに相応しいのはアタシ!アタシだけなんだからぁぁぁぁぁ!!!」
彼女は部屋を震わせるほどの絶叫を上げた。それと共に彼女の全身が膨れ上がり、姿を変えていく。絶叫は獣の咆哮へ変わり、何かの裂ける音や砕ける音が響く。
理解を超えて混乱しきった私はその場から動けなかった。そんな私を庇うように獏くんが私の前に出た。
「大丈夫……ひぃちゃんは俺が守るから!」
こちらを少し振り返りながらニッと笑顔で彼は言う。
やだ!格好いい!状況が状況じゃなきゃ抱き付いてる所です!
……咆哮が終わった。
あの小柄で可愛らしい彼女は見る影もなく、目の前には顔は猪、体は熊、背中には蝙蝠のような翼、彼の背越しにも見えるほどの巨体で、両腕には鋭く長い爪を持った豪腕を持つ怪物が表れた。グルゥゥゥ……と低い唸り声を発し、怒りにギラギラ光る赤い目は私を捉えているようだ。思わず身が竦んでしまう。
「あ、あれは……な、な、何?」
「あれがアイツの本性だよ。見た目は子供だけどね、あのババアに造られた魔獣の混合体、キメラさ……」
え?キメラって……あの子、人じゃなかったの?
「グルゥアアア!!!!」
一際大きい咆哮を上げながら、彼女だったものはこちらへ突進し始めた。立ちはだかる獏くんを避け、私の方へ真っ直ぐに向かってくるようだった。
逃げなきゃ……!でも、体が動かない……!!
もう目の前にはあの両腕が振り下ろされていた。その瞬間がスローモーションのように映る。
もう駄目……!!と顔を伏せ目をぎゅっと閉じた。
獏くん……ごめんね……。
……そう身構えたけど、その衝撃はやって来なかった。
恐る恐る目を開けて顔を上げると、獏くんがその両腕を受け止めている所だった。両手首をがっしりと掴んで、まるで動かない。
キメラ側も予想外だったのか、焦っているように咆哮と共に力を入れて押し返そうとしているようだったけど、獏くんはまるで涼しい顔で立っている。
「獏くん!?」
私の言葉に反応して振り返ってニッとまた笑顔を返す彼。
「……ひぃちゃん、ちょっと目を閉じててもらえるかな?」
ついでに耳も塞いどいて、と穏やかな口調で言う彼。私は激しく首を縦に振り、獏くんの言う通りにした。
「おい……お前の相手は俺だよ」
耳を塞いだ同時にバキリ!と骨の砕ける音がした。多分獏くんが掴んでた手首を握り潰したっぽい。耳塞いでたけど結構なエグい音が聞こえちゃったよ……怖いって!
「……グルゥ!?」
……ここからは見てないし、耳も塞いでたから詳細は分からない。
でも、うっすら聞こえた声や床の揺れとかから考えるに結構激しい事になってたんじゃないかなぁ……。多分一方的な蹂躙みたいな?
少なくとも、話し合いなんて穏やかな感じではないよねー。
何が起きてるかなんて考えるだけでも怖いよねー。
触らぬ神には祟りなし。これからは獏くんだけは怒らせないようにと誓った日でありました。
もうちょっとで20話になりますが、まだまだ二人の様子を書いていきたいと思っております。
拙い文章ですがお読み頂き、またお気に入り登録も頂きありがとうございます!
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