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新生活を異世界で。  作者: 凍々
式終わって……また一難あった時のお話……です。
112/114

心を開け、されば結ばれん事を。

 突如聞こえてきた獏くんの声に、ぐだりきっていた心身が急激にシャッキリした私であります。

 そ、そ、そりゃそうだよね!ここに入って来るとすれば、もう獏くんしかいない訳なんだから!

 以前、お義父さんがいつの間にか入ってらした事はあったけど……あの後私達以外が入れないようにしたって獏くんが言ってた気がするし……何故気づかないの私ぃ……!?

 それにさ、私が獏くんに一緒に入ろうって誘ったんだからさ!?そりゃ入ってもくるさね!?

 えっと……えっと……どうするの私!?

「あ、あの、ひぃちゃん?聞こえてるかな……??」

 テンパっていて返事が出来ていなかったのだけど、不思議に思った彼からもう一度声が掛かった。

「は!はいぃ!!聞こえてますぅ!!」

 と、無理くり裏返った声で返事。慌てていたとはいえ、恥ずかしい限りです……うぅ。

 私の妙な返事を聞いて、湯気の向こうで若干吹き出している彼が見えたし……本当恥ずかしいったらない……もう沈んでしまいたい……!

「えっとさ……入っても大丈夫かな、一緒に……」

 ……そうだった!獏くんをそのまま待たせてしまってるんだった!沈むなら後、後!!

 室内はそこそこ暖かくなっているとはいえ、入らないままだと冷えちゃうよね!?

 でも、至近距離で獏くんの体を見るには……ちょっと今は心穏やかじゃなさ過ぎる……!


「……ど、どうぞ」

「ありがとう!じ、じゃあ、失礼するね……」

 自分で呼んだにも関わらず、顔を合わせづらくなってしまったので、私は後ろを向いて獏くんへ返事をした。

 返事を聞いた獏くんは、嬉しそうな様子で湯船へ入ってきたみたい。

 ちゃぷんと入る音が背後から聞こえた。チラッと背後を確認したら、やや離れた所に入っている獏くんの姿が見えた。

 慌てて前を向き直してしまった私。ほほほ本当に……一緒に入っちゃった……あばばば!?

「あ、お湯加減とか、感じはどうかな?結構調合とか頑張ってみたんだけど……?」

「う、うん。とっても気持ち良いよ!元の世界で入ってたのより、ずっとずっと癒やされる感じ……」

「本当に?それは良かった!!ひぃちゃんが喜んでくれれば何よりだよ!!」

「う、うん。本当に色々……ありがとう……」

 いつもより話す量が多いのは、緊張しているからと沈黙が怖いから。多分獏くんも同じだと思う。


 暫くしてお互いに話題もなくなって、何とも言えない沈黙が流れてしまったよ……辛い……!

 いっその事早くこの場を離れてしまった方がいいかもと、湯船を立ち上がろうとしたその時だった。

「……ひぃちゃん、その……もう少し近くに行っても……いいかな!?」

「え!?」

 私の返事を待たずに獏くんはすすっとお湯をかき分けて進んできて……お互いの手が触れて、そして後ろから抱きしめられた。ジャバっと激しく水音が立って……収まった。

 ええええええ!?い、今背中に触れてるのって……ば、ば、獏くんの身体って事よね!??

「ふふ、やっと捕まえた……なんてね?」

 顔は見えないけど、多分微笑んでるって分かる。でも、背中から伝わってくる鼓動は獏くんの心中が穏やかじゃないって証拠だよね……私もですけどね!!?

「ごめん……俺ってばいつも肝心な所で駄目になっちゃって……ひぃちゃんには迷惑かけてばっかりだ……本当に情けない男でごめんよ……!!」

 獏くんが今まで以上の勇気を出してくれたなら……ここは私も……やるべき……よね!?


 私は意を決して振り返ったのです!!

 けど、勢い余って突き飛ばしてしまって、しかもそのまま押し倒すような体勢に……どうしてこうなった!?

 ついでに湯船の角にぶつかる鈍い音がしたけど、多分それは獏くんの頭か何かです……ごめんね!!

「痛っ……え!?えっと!?ひぃちゃん!?」

「獏くんは……情けなくなんかない!!情けないのは私……いつも何もかも獏くんに任せてばっかりだし、私は何にも出来なくって、助けてもらってばっかりで……!!」

「ひぃちゃん……」

「大事な所ですぐ気絶するし……すぐお腹空いて食べてばっかりだし……迷惑しかかけてないし……!!だから!だからぁ……!!」

 最後の方はもう泣いてて、自分でも何言ってるかもよく分かんなくって……癇癪起こした子供みたいに叫んでた。でも心に溜まってたモヤモヤしてた何かが出てってるような感じがあった。

 獏くんは……そんな私を見ても引かずにまっすぐ向き合ってくれた。私の背中を抱きながら、とんとん優しく私が泣き止むまでずっと撫でてくれた。


「……うん、ひぃちゃん、良いんだよ。君は何かと溜め込んでしまいがちだからさ、この際全部出しちゃったらいいよ。そういう控えめな所も、感情を顕にしてくれた所も、俺に頼ってくれる所も、沢山食べる所も、いざって時に勇気を出してくれる所も、全部、全部大好きなんだ。俺達気持ちはあってもお互いになかなか先に進めなくって、でもようやくここまで来れて、本当に、本当に幸せだよ、ひぃちゃん、愛してる……!」

「……うん、私も幸せ、だよ。愛してるよ……獏くん」

 私達はそのまま長い時間抱き合ったままだった。距離が近いとか、裸同士で恥ずかしいとかいつもだったら邪魔する理性とかもどっかいったみたいにずっと……ね。

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