さあ……追求のお時間です。
獏くんは目の前のラッチさんを睨み付けたまま。
そのラッチさんは驚愕の表情を浮かべて固まったまま。
そして私は……大いに戸惑ってるよ!!!
全く展開が分からない……どうしてこうなったの……??
さっき獏くんが一瞬だけ驚いたように見えたのは……見間違いじゃなかったって事……なのかな……?
「わ、私が、フロン国の国王……そ、そ、そんな訳がないではないですか……!!いくらなんでも、ば、馬鹿げています……!!」
と、上ずった声と必死の形相で否定する彼だけども、獏くんは応じなかった。
「ほ、本物の陛下なら、貴方様が仕掛けた戦で負傷されて今も王城で静養中のはずです……!」
彼の言葉に獏くんはフッと笑ってから、テーブルの上の足を下ろして席に着き直した。
「俺は確証もなくこんな事は言わないさ。お前は間違いなく本物だよ?証拠ならいくつかあるが……」
まずは……と獏くんは話し始めた。
「第一にお前には奴隷の印がない。第二に他の者は鞭を打たれていたり暴力を振るわれた傷が付いている。だがお前は身なりこそボロだが傷も痣の一つも全くないようだが?第三に戦の件だが、我が国からではなくお前達から仕掛けてきたんだろうが……!」
「し、印や傷の件は……奴隷落ちしてから間がないからで……、戦はクロム国側から仕掛けられたと公示がたったのです……」
若干苛立ちも混じった獏くんの言葉に改めて目の前の彼を観察してみると……確かに格好は奴隷と呼ばれた人達のそれと同じだったけど、印や傷とかそういった跡はないように見えた。
戦の件に関しては、自国民にクロム国が悪者だと信じ込ませる為の公示って可能性もあるから何とも言えない感じかも……。
でも、私は彼の奴隷の印の話に関しては違和感を感じているのです……。
なんでかって言うと……昨日の式の後に獏くんが奴隷と呼ばれる人たちの事を話してくれて聞いてたから。彼が言うには突然の事だったし、ひぃちゃんには聞き覚えのない事だろうし、本当は聞かせたくはなかったけど立場上知っておいてほしいからって。私は獏くんがそう切り出さなくても聞くつもりではあったけどね。
この世界でいう【奴隷】っていうのは、過去に何らかの罪を犯してしまった人々の事。
余程の重罪でない限りは無償での労働や罰金、魔力の減算等々で罪を清算する事になるけれど、通常の懲罰では清算できない、反省が認められない等の人もいるらしくて、そういった人々が【奴隷】に落ちてしまうんだとか。さっきラッチさんが言っていた【奴隷落ち】ってのはこの話。
この制度を大いに悪用していたのが件のフロン国で、国王や貴族に歯向かったりした人は勿論、罪と言うにはほんの些細な事でも極刑として【奴隷】として貶める事を続けていたんだって。
【奴隷落ち】してしまった際には、まず国王の命を受けた執行人から【印】を付けられてその他の人物が分かるようにするそうだけど、その印は魔力を込めた儀礼用の刃物で喉元から胸元にかけて刻まれ、相当の痛みを伴う上に隠す事が出来ない(印を遮ると更に激痛が走るとか)し、治癒魔法でも決して消すことはできないんだって。
この奴隷印ってのは各国共通らしいけど、聞いてしまった時に思わず血の気が引いたよね……悪い事したのがいけないんだと思うけど、かなりの厳罰だよね……怖すぎる……!!
で、昨日と今の獏くんのお話を信じるならば、このラッチさんは本来奴隷じゃなくって、国王様が奴隷になりすました|って事になるけれど……どうにも真意が見えてこないんだけどな……。
わざわざ立場を偽ってまで、彼が達成したい事は何なんだろう……??
私がふとそんな考えに至っていた時だった。
どうにも認めようとしない彼に向かって、獏くんがため息混じりに手を翳した。
「……先の戦でもう懲りたと思っていたんだがな……念にはと思ったんで保険を掛けておいて正解だったよ……」
負けたのは誰だ?と一言唱えると、あら不思議!
ラッチさんの顔全体にかけてボヤボヤと模様が浮かび上がってきたのですよ!!
最終的に浮かび上がってきたのは、最近よく見るクロム国の紋章だった。
何処から出したのか分からないけど、獏くんは彼に向けて手鏡を差し出して不敵に笑う。
「これは敗者の印。戦の勝者が敗者に対して自身の紋章を刻める慣習があって、大体は敗者の代表に刻む感じなんだよ。先の戦は俺VSフロン国だったからさ、相手方の代表は……国王って訳♪」
と私に向けてだと思うけど説明してくれる獏くんであります。な、なるほど……!
「恐らく傀儡だった、お飾りの国王のお前では戦のルールや敗者の印の件は知らなかった事だとは思うが……その顔の紋章が証拠……観念したらどうだ?」
鏡に写し出された自らの顔を見て、さらに驚き挙動不審になるラッチさん。冷や汗が滝のように溢れて流れていくのも見える。
「い、いや!こんなのは……こんなのはでっち上げだ!!」
結構確信を突かれているのは私でも分かるけど、まだ認めないらしい彼に対して、獏くんは大いに不機嫌な表情を浮かべていた。マジでキレそな5秒前的な。
「往生際の悪いのはあの女譲りか??……面倒だなぁ……!」
と、ため息混じりにまた一つ何かの呪文を唱えると、目の前の彼からボフンと何か煙が出て、彼をすっぽり包み込んでしまった。
そしてその煙が晴れると……枯れ木のような体型とは真逆の肉々しい人が出てきたんですけどぉぉぉ!?
「そ、そんな……!俺の変装は完璧だったはず……!?」
顔に現れた紋章はそのままに、お相撲さんを2〜3人合体させたような体格の肉々しい彼。一応ラッチさんじゃなくってアビーズ国王って言った方が良いのかな……???
裸かと思ったけど何とか大事な所は隠れているっぽい。体全体の肉を震わせて、脂汗を撒き散らしながらあたふたと慌てまくっているよう……あ、圧が……目の前の風景の圧が凄いよ……!!!!
ちょっとぉぉぉぉ!?へ、変装って段階じゃなくもはや別人ですけどぉぉぉぉぉぉぉ!?




