何事もなく終わる……といつから錯覚してた?
代表として前に現れた男性を見て、獏くんが一瞬驚いた表情をしたんだよね。
そう、ほんの一瞬だけなんだけど……。
もしかして……知り合いだったりするのかな?
でも、彼の方は全くそんな素振りもないし……勘違い……かな……?
彼が、おもむろにその場で跪くと、後ろで整列していたフロンの方々も合わせて跪いた。
一糸乱れぬその体勢は見ててなかなか壮観だったわ……。
少しの間、頭を下げたままの彼等だったけれど、意を決したように代表が顔を上げた。
その表情は固く、何か覚悟を持っているのが視線からは窺えた。
「こ、この度は、国王様、王妃様にご足労を頂き、ま、誠に感謝しております!俺……ではなく私はラッチ、と申します。この場の代表としてお話をさせて頂ければと思います……」
緊張からかあまり話をした事がないからか、言葉運びがたどたどしい感じがする。
仮にも国王様の前じゃ緊張もするよね。私だって同じ立場だったらそうなるだろうし。てか、その前に気絶して話もできないと思う……悲しいけど。
「……そうか、分かった。では代表の君と話をさせてもらおうか……」
その時丁度、ロゥジさんとアリーナちゃんが浮き島に到着したみたいで、ちょっと離れている場所に降りようとしているのが見えた。
アリーナちゃんの羽ばたきからだろうけど、バサリバサリと大きな羽ばたきの音と辺りに強い風が吹いて、フロンの方々からは小さく悲鳴が上がっていた。
その様子を見て、獏くんは少々苦笑いをしてるようだった。
そうね……若干話の腰を折られた感はあるかも。
ある意味タイミング良いとも言えなくない……かな?
「はは……丁度私達の龍騎車も到着したようだ。良ければ中で話を聞こう」
「え??い、いや!?そ、そ、そんな事は……私のような身分の者が足を踏み入れるなど……とんでもないです……!!この場で、この場で十分でございます……!!」
チラチラと背後の仲間と私達を見ながら、恐れ多いと言わんばかりに慌てる彼。
「まあまあ、そんなに恐縮する事でもあるまい。何しろ諸君等にとっては重大な事を決めるのだから、外では逆に失礼だと私は思うのだよ。それにもし何らかの妨害が入っても面倒なのでね」
獏くんの話をそこまで聞くと、彼はおずおずと頷き返した。
私達と代表の彼が龍騎車に移動し、その他のフロンの方々はロゥジさんとアリーナちゃんが今後の事を説明がてら魔法で健康チェックや配給を受けながら待機する事になったんだって。
ちなみに、いつも過ごしている車両には実は別空間があったらしくて、今はそこに移動してます。
獏くんの説明によれば、普段は使わないけど各国の貴賓を乗せる為のお部屋なんだって。
いつもの場所も豪華だと思ってたけど、それより豪華度が違うわ……まるでどこかの王宮みたいな感じだもの……!
そして、そんなお部屋の中、応接間のようなスペースで低めのテーブルを挟んで、向かい合う体勢になった私達。
少しの間、どちらとも無言のままだったけど、意を決したように代表のラッチさんが口を開いた。
「……ご存知かとは思いますが、私共は……本国では人として扱われた事はございません。ただの奴隷として一生を終えるはずの者達でございました。自身の意思なく操られていた、とは言え、侵略行為に手を貸してしまった私共は本来なら全員その場で処刑されていてもおかしくはない立場です。しかし、貴方様は私共を許し、生きるチャンスを与えて下さった……!」
そこで言葉を切って、ラッチさんは立ち上がって床に座り込み、両手を付くと、顔をこちらに向けた。
「……本来の主君を、国を裏切る形になってしまうのは重々承知しております!私共をどうかこの国で使って下さいませんか!どんな汚れ仕事でも辛い仕事でも喜んで受け入れます!」
どうか……!どうか……!と床にめり込む勢いで土下座をしながら、繰り返し願うラッチさん。
声は悲痛に満ちていて、聞いているこちらの胸が痛むほどだった。
そうする彼に、獏くんは静かにもういいと伝えてた。
獏くんは彼にとりあえず席に着いてもらうように促すと、彼は少しの逡巡の後、元の席に戻った。
その表情はまだ強ばったままだったけど、どこかやりきったという達成感と安堵が見えたような気がした。
「……私の心は先だって伝えた通りだ。諸君等に非はない。それを責める気は私にも、妻にもないのだよ。諸君等の謝罪と後悔の念はもう既に伝わっているのだから。生まれた国は違えど、同じ世界に住む者同士ではないか。今までの境遇は察するに余りあるが、これからはこの国で胸を張って生きると良い……」
一つ息をついてから、獏くんは穏やかな様子で彼に語りかけた。
良かった……これであの人達も安心できるね!
私も安心した。獏くんが気にしなくていいって言ってくれてたけど……やっぱり気がかりだったから。
私は何も出来なくて、ただ思いを馳せる事と良い結果を願う事しか出来なかったけど。
本当、良かった……流石獏くんだね!!
これで大団円かな……と思ったのもつかの間でした……。
「……ただ、君以外の者達だけだがね」
……ん??えっと……獏くんてば何を言ってらっしゃるの???
「な、何故です……!?」
自分以外という言葉に狼狽えるラッチさんを前に、獏くんは立ち上がって目前にあったテーブルに片足を激しく踏みつけながら、不敵に笑った。
いつもの穏やかな彼からは予想も付かない荒々しい態度に、私は正直驚きを隠せなかった。
へ?一体何が起きるの!?
固まった私にちょっと目配せをした後、それからヤンキー宜しくメンチを切りつつ、少し意地の悪そうな声色で彼に告げた。
「……この俺が気づかないとでも思ったのか?なあ、フロン国王のオビーズ殿下??」
「!?」
ちょ、ちょ、ちょっと待ったぁ!?
何でそんな……お偉いさんがこの場にいるのよ!?
どういうこと???何なのこの展開は……!?
だ、誰か……説明希望ですーー!!!




