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新生活を異世界で。  作者: 凍々
式終わって……また一難あった時のお話……です。
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時間厳守は社会人の基本だけど、急がば回れとも言うよね??

 そんなこんなで突然の空中散歩はゆるりと進んでおりますよ。

 上空って酸素が薄かったり、強風だったり、凄く寒かったりするのかと思ってたけど、そんな事もないし。

 どうやら獏くんが魔術でどうにかしてくれてるみたいなんだけど、地上で散歩してるのと本当に変わらないのが不思議よね。

 まあ、始めこそ心臓バクバクの動悸激しめで散歩を楽しむ余裕はおろか、回りを見る事もできなかったけど、少し経った今はちょっとだけ見れるようになってきたのよね。

 あくまで真っ直ぐに見るだけね。下は絶っっっ対見ないよ!!

 空は相変わらずの夕焼け模様。所々に静かに浮き島が漂ってる。

「あ!ひぃちゃん、遠くに見えるあれが俺達が住んでる城で……あそこで光ってみえるのがゴルディの辺りで……あの浮き島には俺が昔家出した時によく籠ってた所でさ……!」

 と、歩きながらあちこちを指差して教えてくれる獏くん。

 うんうんと相槌を打つと、彼は嬉しそうに笑って、また違う場所を指差して教えてくれた。

 その様子が好きな事を一生懸命に伝えようとする子供みたいで、いつものギャップと相まって何だか可愛いって思った。

 思えばこんな風に案内してもらったのって久しぶりな気がする。

 二人でこうやって出掛けるのも……久々よね。

 ……切り出し方は大分強引だったけど。

 でも、獏くんなりに気を使ってくれたんだよね?

 とりあえず誰の邪魔も入らない、二人だけの時間を作ってくれたんだもの。

 今は〖皆の王様〗の獏くんじゃなくて、〖私の旦那様〗の獏くんな感じ。

 なら……この時間ってとっても幸せだわ。えへへ。


 それからも暫くはのんびりまったり空中散歩を楽しんでいた私達だけど、はたと思い出した事がある訳で……。

 ニコニコ上機嫌の獏くんに水を指すようで悪いけど……ここは言っておかないと……だよね?

「あ、あの……獏くん……これから行かなきゃいけない所があるんじゃないかな……??」

 私の言葉に少し考え込んだ彼だったけど、すぐに思い出したみたい。

「……あ!そうだね、フロンの彼等の答えを聞きに来たんだった!」

 いけないいけない、と少々慌てる獏くんです。

 何故かてへぺろこっつんが見える……幻覚かな?

「ひぃちゃんとの散歩が楽しくてさ……俺とした事がすっかり忘れてたよ……」

 いやいや……そこは忘れちゃ駄目なヤツでしょ……!!

 一応獏くんから提案したんだからさ?

 正確な時間は分からないけどさ、もう下でお待ちかねなんじゃないのかしら……?

「えっと……悪いけどひぃちゃん、()()()()()()()()!!」

「へ?」

 私の返答も待たずに、彼は私をぐっとしっかり抱き締めると、その場で大きくジャンプした。

 うん……とっても嫌な予感がするよね!!

 これは初めて龍騎車に乗せてもらった時に体験した……あれじゃないの……!?

 それから……そのまま下まで急降下ぁぁぁぁぁ!!!?

 びゅうびゅうと吹き荒れる風をものともせず、真っ直ぐに下へ下へ落ちていく私達。

 ふ、風圧が!風圧が凄いぃぃぃぃ!!

 チラッとだけ回りを見たけど、物凄いスピードで景色が過ぎ去っていってるよ?!まるで新幹線の中から見る車窓状態だね!!ああ、見るんじゃなかった……!

 あの時は車両の中だったからまだ、まだ耐えられる所があったけどさ!

 生身(魔法で強化されているとはいえ)でフリーフォールはキツイでしょうがぁぁぁぁぁぁ……!!!

 ば、ば、獏くんの馬鹿ぁぁぁぁぁ……!!!


 ちょっとどころではなかったけども、急いだ甲斐があったみたいで予定時刻には間に合ったんだってさ、良かったね……!!

 あれだけのスピードが出ていたにも関わらず、着地は本当にソフトだったよ……!

 半ば気絶しかけていたけど、何とか耐えられた……もう懲り懲りなんですけど……うぅ。

「……っと、遅くなったね、フロンの諸君!早速だが返答を頂けるかな?」

 息も絶え絶えな私とは正反対に、爽やかな笑顔でそう宣う獏くんであります。

「あ……!?バクゥ様!?い、一体何処からお出でになったのですか……!?」

 そろそろかと皆整列して待ってたみたいなんだけど、突然空から舞い降りた私達に大いに戸惑うフロンの方々です。心中はお察しします……!!

 敵襲かと思って警戒体制取ってる人までいたみたいだけど!?

 まあ、その人達も獏くんの顔を確認したら、警戒は解いてくれたみたいだから良かった……かな?

「いや、諸君等との対面まで少々時間があったのでね、妻と散歩をしていたよ。最近内外で悩ましい事が多くてね……すっかり気分転換になった!」

「は、はぁ……それは何よりにございます……」

 若干理解が追い付いてない感じはあったけど、整列した彼等の中からすっと一人、男性が私達の前に現れた。

 やつれきっている彼等の中でも、言い方はいけないかもだけど……まだ元気そうな若者だった。ぼろ布みたいな服を身に纏い、金色の髪もバサバサ、フロン族の象徴である背中の羽はパサついて所々毛羽立っているように見えた。

 ただ、眼差しは鋭く、何かの決意を持って臨んでいるのは私でも分かった。


 ……申し訳ないけど、この後の話に関しては私はただ見届ける事しかできない。

 お互いに穏便に済んでくれる事を祈るばかりです……。

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