ちょっとした裏話的な事と結構嬉しい彼からの言葉。
「うん……本当に、本当に面倒かけて申し訳ないよ……」
獏くんも御披露目の儀の際に側室候補を探す慣習があるのは知っていたんだって。
理由は先に獏くんが国民の方々の前で話した通り、種族としての繁殖力の低さが上げられるって話で、特に王族なら尚更考えなければならない問題だからだって。
でも、あくまで暗黙の了解的な話で、これまでの王は大々的に公示する事はなかったらしい。あれだけ女癖の悪いと聞いているお義父さんですら秘かに事を進めていたらしいし、国民の方々ももしかしたらぐらいの考えを持っていたそうだけど。
それと、ここ数十年王家関連で浮いた話の一つもなくて、やっときたチャンスと思ってしまったのもあるみたい。
まあ公示してしまったのは獏くんではなくてナナヤさんな訳だけど、この度はその内容に触発されてあんな露骨にアピールしてくる輩が増えてしまったという事でした。
んで、あまりに酷かったので彼はプッツンしちゃったと。
なるほどなぁ……そういう背景があったって訳なのね。納得だわ。
「その……後継ぎというか種族の存続に関しての話は本来はもっと早くに伝えるべき事だったんだけど、つい先伸ばしにしてしまったのは俺の責任だ。今回の事もそうだけど、本当に、本当に申し訳ない……!」
そういうと獏くんはその場で顔が床にめり込みそうな勢いで土下座の体勢を取った。
え!?ちょっとちょっとちょっと!?
そんな、王様がそんな簡単に土下座なんてしちゃ駄目だって!!
獏くんの妙な奥手さは十分存じておりますとも!!
今回の事は確かに驚いた事だったし、ちょっと嫌な事もあったけど……でもでもそれはそこまでの事じゃないよ!?
戸惑いながらも獏くんに大丈夫だからと何度も話すと、獏くんはゆっくりと顔を上げた。
彼はうっすら涙ぐんでいたけど、顔は真剣そのものだった。
いつもの笑顔ではなくて凛々しい視線に、私は思わずドキッとしてしまった。やだ……獏くんカッコいい……じゃないか!!
「ありがとう……ひぃちゃん!」
ほぅっとしてしまった私をぐっと抱き寄せた彼は、耳元でそっと囁いてくれた。
「君の優しい心と寛大さにはいつも救われるよ……。本当に君が俺の嫁で良かった……!前々からも言ってるし、さっきも話したし、これからも何度でも言うけど……愛しているのは君だけだよ……!俺は生涯ひぃちゃん以外の嫁をもらうつもりはないから!ひぃちゃん一筋だから……!!」
囁かれた耳元が熱い。てか全身が沸騰しそうなくらい熱くなってる。あわわ……!
妙に奥手な割にこういう事は平気でするし、恥ずかしい言葉も沢山くれる彼って本当に不思議な人だよね。
まあ……そんな所も好きですけど!!
こんなに愛してるなんて言われ慣れてないから、どうしても恥ずかしさが勝ってしまうけど……でも心から嬉しいって思ってるよ。
私だって獏くん一筋なんだからね!!
口下手だから言葉で言うのは恥ずかしいけど……その分態度で示したいって思った。
おずおずと彼の背中に手を回してぎゅっとしながら、肩に当たる頭を優しく撫でてみる。
すると彼は嬉しそうにえへへと笑ってた。
その様子を聞いて私もふふっと笑ってしまった。
私達って今はこのくらい触れ合いが丁度良いんだと思うのよ。
ほら、お互いに変な所で恥ずかしがり屋だし?
でも……一緒に暮らしてるし、挨拶回りもしたし、式も挙げたし、以前よりも関係は前進しているよね?
私達のペースで進めていったら良いんだよね?
普通の夫婦とはちょっと歩みがゆったりかもだけど、私達は私達だもの!
大事な事かもだけど、後継ぎの話とかそんな話は後でも良いんだって。
だってさ、お互いに愛し合っているなら……その結果は絶対現れるはずだから……ね。
……って、結構恥ずかしい事考えてるのは私も一緒だったわ……えへへ。
……で、例の彼女の話に戻ったりするんだけども。
張り切るのはいいのよ。私も同じ立場だったら彼女と同じ様になるかもだしね。
けども……どうなるかまで考えてから行動しないとこうなっちゃうんだよね。
まあ……俗に言う忖度があったって事よね?
ナナヤさんからすれば、主の晴れの舞台を如何に盛り上げるか、ってその一心だったんだと思うけど、獏くんからの指示がちゃんとあったならそれを前提に運ばないと……だよね?
報連相は社会人の基本なのですよ!これ大事!!
サプライズもしたい気持ちもあったのかもだけどね、それはもう昨日まででお腹一杯なんだってば!!
獏くんもそうだけど、どうもこの国の方々は何かとサプライズがお好きよね。そういうお国柄なのかな?
別に嫌がらせとかじゃないみたいだから、とりあえず素直に受け取っておけばOK……かな?
「ああ、今回の件は彼女にしっかりみっちり話しておくから……ね?」
そういう彼の顔は今日一の笑顔に見えたよ……逆に怖いって!
今年も宜しくお願い致します!




