人間の愚かさ
“終わらせるんだ、彼等の戦いを”
2136年、人は過ちを繰り返した。世界は3つに分離し、野原は焼け、都市は瓦礫の山となり、極めつけは兵器による無秩序な汚染。後の第三次世界大戦と呼ばれる戦いだ。
そして、この戦いの要であり発端になったある兵器がある。この戦争において唯一他の国と共闘せず自身の持つ軍事力のみで二つの勢力と対等以上に渡り合う強さを誇った極東の島国『日本』で造られたそれは既存のどの兵器よりも強く、速かった。人型汎用殲滅兵器『ペイルライダー』、一世紀前までは実現不可能と言われていた人型の兵器を日本は製造することに成功。しかし、これをよしとしない国々が日本に攻撃したが、試作型ペイルライダー5機により殲滅した。世界が震えた。国々はそれを恐れ、欲した。世界は力を有する者と恐れる者、欲する者に分かれ、戦いを始めた。日本が圧倒的な力で勝利するはずだった。しかし、ペイルライダーの設計図の流出。世界中でペイルライダーが増産され、第二、第三世代のペイルライダーが生まれた。まず狙われたのが日本。日本こそペイルライダーを大量に抱えていたが小さな島国がペイルライダーの燃料を保持できるはずもなく敗戦。その後二つの勢力が潰しあったがペイルライダーによる汚染で草木が育たず、人も防護服無しでは地上を出歩くことが出来なくなった。かくして両勢力とも自滅という形で第三次世界大戦は幕を閉じた。
そしてそんなことも忘れ去られた時代。残り少ない資源を使って生み出した地上の生存可能地域『エデン』。そこでは支配者による資源の平等に分配し、統治していた。しかし、その中には例外も存在する。人の住める場所が増えれば人も増える。エデンの支配者は人々を選定し、一部のものに無能の烙印を押し付け、地底へと追いやり、そのもの達を侮蔑を込めて『地底人』と呼んだ。
地底人達は怒り狂った。「こんなことがあってたまるか」と。その矢先、地底人は見つけてしまった。第三次世界大戦を引き起こしたあの兵器を、『ペイルライダー』を。地底人達はすぐに修理に取り掛かった。これで奴らを殺せると。
ペイルライダーを修理した頃には彼等は老いぼれていた。ペイルライダーの解析に時間をかけすぎてしまったのだ。戦うには体力が足りない。困り果てていた彼等だが、一人、誰かは分からないが呟いた。「勝つために体を捨てればいい」。それは名案であったが、同時に生へと冒涜でもあった。だが、彼等はそれを実現する。生体情報と脳をコンピュータに移植。コンピュータの演算能力によってペイルライダーのパイロットとして、彼等はもっとも優秀な『物』になった。殆どの者が復讐心を滾らせるが中には反対派もいた。しかし、彼等は止まらない。ペイルライダーに搭乗した彼等はまず地底人の中の反対派を殺した。しかし、何も感じなかった。機械になった我々にとって人間とは呆気ないものだと認識した。
彼等は侵攻する。エデンの支配者の元へ。
だが、彼等の期待を裏切るように奴はそこにいた。『第四世代』のペイルライダー。エデンの差し金だった。数十年の年月によって新しいエネルギーが生まれ、エデンは劇的な進化を遂げていた。
彼等にとってエデンのペイルライダーは計算外の出来事だったが、彼等は自分達の力を確かめるのには丁度いいと判断した。高度な演算能力を持った自分達の敵ではないと判断した。相手はたったの一機。全員が一斉に戦闘を始めた。勝負はすぐに決着がついた。彼等のペイルライダーは半壊。対してエデンのペイルライダーは全くの無傷。理由は至って単純。彼等が見くびっていたこと。そして性能が違いすぎた。エデンのペイルライダーは彼等の5倍の速度で空を舞い、こちらの攻撃をもろともしなかった。更には謎の粒子で出来た剣で機体を切り裂かれ、地に落とされた。
エデンのペイルライダーは無力化を確認するとすぐに飛んでいってしまった。戦場に静寂が訪れる。彼等は考える。「何がいけなかったのか」、「どうすれば正解だったのか」。機械になった彼等にも分からない。勝つために、取り戻すために人であることを捨てたのにこの醜態。彼等は考えているうちに自分の自我が溶けていく感覚を覚える。コンピュータの自我データが破損したのだろう。破損したデータをコンピュータは不要と判断し、データを削除していく。彼等は決して朽ちる事は無いが、彼等には分かる。これが『死』なのだと。だがまだ、まだ死にたくない。せめて、せめてエデンを一目見なければ……。
彼等の意識はここで途絶えた。しかし、最後の願いをコンピュータが聞き届けたのか、ペイルライダーは破損した部分を引きずりながらも動き出した。方角は、エデンのあった場所。彼等が裏切られた今は亡き故郷へと。