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異世界ギルド飯 ~最強メシでまったりスローライフ~ 作者:白石 新
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魔王とおでんと自衛隊 その8

「良し」
 鍋の中のツユも良い感じだ。
 仕込み自体は30分程度で終わった。
 後は煮込んで具材から出汁が出るを待つばかりってところだな。
 時計を確認してタイマーのアラームをセットする。
 そうして、俺は缶ビールと乾き物を手に取って客席に戻る。
 客席では食い入るようにコーネリアが画面を眺めていた。
「何故にこの連中はここまで飢えておるのじゃ? お主等の世界はそれこそ捨てるほどに……食物に溢れておったじゃろう?」
 彼女が見ているのは4時間ほどの長編ドキュメンタリーだ。
 世界中の色んな社会問題のレポートとなっている。
 そして、今見ているのはアフリカの飢餓問題だ。
「確かに食い物には溢れている。実際に気の遠くなるような量の食材が捨てられているよ」
「じゃが、こやつらは飢えておる。何故じゃ?」
「色んな問題があるからだ。主な原因は争い事だな」
「何故に仲良くできんのじゃ?」
「国も違えば皮膚の色も違えば宗教も違うからな」
「愚かな事じゃ。生まれた所や信じるものや、皮膚の色が……どれほど重要だと言うのじゃ?」
「そんな些細な事で喧嘩をしたがるような好戦的な人も、中にはいるって事だろうな」
 むぐぐ……とコーネリアは悲し気な表情を作る。
「ほんに愚かじゃ……それは良いとして食物が捨てるほどに余っている国があれば……助けてやれば良いではないか」
「各国から救援は行っている。現地での中抜きがあったり、現地に届く前に中抜きがあったり、あるいはそもそもの救援物資や義援金が不十分だったりしてこうなっている訳だ」
「じゃったら、もっと支援してやれば……」
「向こうの世界の人間だって必死に生きているんだ。自分の生活もあるし物資は無限には送れない。それに一説には支援のやりすぎで「どうせ誰かが助けてくれる」って、ダメになった地域もあるって話もある。そんなに簡単なもんじゃないんだ」
「どうせ誰かが助けてくれる……という理屈で駄目になるじゃと?」
「自助努力の放棄だよ。全員がそうじゃないが、そういう連中はどんな国でも人種でも一定割合存在する。それに、軒先貸せば母屋を乗っ取られるという言葉があるくらいだからな。支援されることが当たり前になれば不平不満を言い出して……まあ、とにかく複雑なんだよこういう問題は」
「やはり人間とは罪深き生き物……なのじゃな」
「確かに人間は神とは違う。神と言うよりは明らかに動物に近いな。私利私欲、嫉妬、くだらないことばっかりで揉めて、くだらないことで笑えない数の戦争が起きて、笑えない数の人が不幸になってるよ」
 うむ、とコーネリアは頷いた。
「やはり我は魔王としての職責を全うせねばなるまい」
「だがな、コーネリア?」
「……なんじゃ?」
 ここで、俺は初めて声色に怒気を混ぜた。

「――人間を舐めんなよ?」

 ギョッとした表情をコーネリアは浮かべた。
「俺らは神とは違う。旧世界の時代に人間を裁くモノとして作られた……完成された生物……裁定神として作られたお前らとは違うんだ」
「どうしたのじゃ急に? 怒った顔を……して……?」
「旧世界よりも遥か昔、人間は気の遠くなるような時間をかけて進化を重ねた。俺たちは成長できる生き物なんだ」
「……その結果が、かたや食料を捨てるような社会と、貧富の差が過ぎて今日食べるものすら困る子供たち……餓鬼の群れを量産しておるのじゃろう? これを悲劇と呼ばずになんという?」
「なあ、コーネリア?」
「……なんじゃ?」
「人間を諦めないでやって欲しいんだ」
「諦める……とな?」
「料理ってのは、食材と調味料を選んだ時点で大体の勝負は決まってくるんだ」
「……そうかもしれんの」
「でも、料理人がダメならどんな高級食材を使って、どんな調味料を作ったってどうしようもねえんだ。人間だってそうじゃないか?」
「……ふむ?」
「俺らは大体のところは動物と一緒だ。基本は本能で動いている。でも、残った少しの領域に……人間の心ってのはある。ただ、そこにある悲劇を救いたいって気持ちはあるんだ。それはどんな人間だって一緒だ」
 コーネリアは押し黙って何かを考えている。
 今までこの店を訪れた色んなお客さんの事を思い出しているようだ。
 そして、彼女は何とも言えない表情で頷いた。
「それはそうじゃろうな」
「料理の話に戻そう。確かに食材や調味料で大体の勝負は決まる。人間でいえば、既にその時点でアウトなんだろう。でも、どんなにダメな食材や調味料でも……逆に言えば料理人さえ良ければ工夫次第では、お客さんを満足させられる料理を作ることができる可能性があるんだよ」
「……」
「確かにあっちの世界では例えば食糧難や疫病で悲劇が繰り返されている。それでも、何かができないかって少ない給料の中から募金をするやつもいる。中抜きする団体もあればしない団体もあるって話だが、全て承知の上でいくらかでも状況打破につながれば……ってな」
「しかし我は……それでも……」
「俺たちは馬鹿だ。馬鹿ばっかりだ。でも、馬鹿だからこそ、みんなに俺の作った料理で馬鹿みたいに馬鹿笑いして欲しいんだよ。ただ……それだけなんだよ」
「……」
「おっと、そろそろ時間だ」
 厨房に戻った俺は深皿を取り出した。
 次に鍋に菜ばしを突き入れて、竹輪、はんぺん、牛スジ、じゃがいも、コンニャクを次々と取り出して盛り付けていく。
 そうしてお玉で出汁をすくって、最後に和からしを皿のフチにこすりつけて完成だ。
 アツアツの深皿をコーネリアの前に差し出して、俺は親指をグっと立たせた。
「おでんだ。アツアツの内に食べてくれよな」
「……ふむ」
 まず、コーネリアはスプーンでおでんの汁をすくって口に運んだ。
「……美味いの。魚と肉と、そして野菜の味がスープに良く溶け出しておる」
「それが……出汁の調和だ。牛スジも練り物も野菜も全て厳選している食材だが、単品だけだと……この味はでない。色んなモノが集まり、調和をなして初めて芸術的なダシとなる。個々では決して出ない味だ。みんなで協力するからこの味になるんだ。個性の強い食材ばかりで、この味を出すのは本当に難しいけど……工夫次第ではできないなんてことはない」
 コーネリアは無言で串にささった牛スジをほおばる。
 次にハンペンにフォークを突きさして口に運び、続けざまにジャガイモにかぶりついた。
「はふっ……! はふっ……! あ、あ、熱いわ……っ!」
「オデンのジャガイモっつったら火傷しそうになりながら食うのが一番美味いんだ」
 そうしてコーネリアが竹輪を口に運んだところで、俺は彼女が涙を流していることに気が付いた。
「……本当にこの料理は熱い。いや……温かい」
「家族の団らんで食べるには一番良い料理だからな」
「のう、お前様よ?」
「どうした?」
「我は……お前様の作る美味い料理がもっと一杯食べたいのじゃ」
「……」
 俺は無言でコーネリアの頭の上に掌を置いて優しく撫でてやった。
「じゃが、人間を滅ぼしてしまっては……お前様の美味い料理が食えんではないか」
 そうして俺はコーネリアの震える肩をそっと抱いてやった。
 どれほどの時間そうしていただろうか。
 ただひたすらにコーネリアを抱きしめる間、カチカチと時計の音だけが静寂の室内にただただ鳴り響いていた。
「我はお前様が好きじゃ。お前様の料理が好きじゃ。滅ぼしとうなんて……ない」
「……」
「どうすれば良いのじゃ? 我では到底決められぬ。のう? お前様が……決めてくれはくれぬか?」
 俺はそこでコーネリアの頭の上から掌を外して、首を左右に振った。
「それは俺が決める事じゃない。お前自身が納得した上で決めなくちゃいけないんだ。それはお前の存在理由の否定にも等しいことで、誰かに決めてもらったり強要されるようなもんでは絶対にないはずだろ?」
「ともかく、我はもうここにはおれぬ」
「どういうことだ?」
「滅ぼすべきか滅ぼさぬべきか、答えを探すために我は旅に出ようと思っておるのじゃ」
 何かを言おうとした俺をコーネリアは掌で制した。
「昨日今日の思い付きではないのじゃ。ずっと考えていた事でもあるのじゃよ。これ以上……ここにいては我は……魔王として弱くなってしまう」
 そのままコーネリアは出入り口に駆け出していく。
「おいちょっと待てよ!」
 俺も追いかけようとするが、相手は魔王だ。
 追いかけっこで敵う道理はない。
「待たぬ!」
「おいっ! だから待てって!」
 そうして、ドアを開いてコーネリアは店から出て行ってしまったのだった。




1月15日ころ書籍2巻発売です。ネット書店さんでも予約開始しているようです。
よろしくお願いします。
書籍用の書き下ろしエピソード【姫騎士とオーク】もありますのでお願いします。
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