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コミュニティー(2)

 「事情は大体わかった」


 久仁雄は街から出た理由までは聞かなかったが、居づらさを感じていただろうことは想像できていた。


 「人が足りないのはここのコミュニティーも例に漏れずだ。しかも、気術や魔法が使える人間がいるというなら心強い。少なくともわしは(・・・)歓迎する」


  「どういう意味ですか?」


 久仁雄がわしはと限定をつけたことに貴弥(たかみ)は問う。


 「それを説明するにはまずはここの体制を説明しないといかんな」






 コミュニティーは主に平民たちが街の外という過酷な環境を生き抜くための集団であるが、そのような小さいながらも社会が存在する以上、統率が必要となる。その形態は様々であり、一人が専権を握っているところもあれば、構成員全員での合議制で運営されるところもある。


 久仁雄が代表を務めるコミュニティーは全世帯主による合議制によって運営される場所である。久仁雄は代表ではあるが特に権力を握っているわけではなく、会合の進行をしたり、その資料を作ったり、コミュニティーの状況を調査し報告し、簡単な作業の指揮をしたりするような裁量のあまりない仕事であった。

 そして、ここのコミュニティーでは新たな人間を入れる際には会合にかけることになっている。いくら久仁雄が歓迎しても他の人間が受け入れなかったらコミュニティーには入れない。


 「ここには、街で貴族や士族に難癖をつけられたりして追い出された者もいれば、比較的に貴族や士族と交流があった者もいる。彼らが承認してくれるかはわしにもわからん」


 街の外には身分がない、そう言われていた。それは平民しかいないからである。だから、自分が何者であろうと受け入れてもらえるのではないかと貴弥は思っていた。しかし、それは間違いであることに気づく。

 街の外とは言え、元は街に住んでおり、文化も街のものを色濃く残している。だから、街で忌避されるものは外でも忌避されるのは当然でった。


 「貴弥様。もし、会合で首を横に振るものがいたら力づくで縦に振らせます」


 「それやったらまずいでしょ」


 嘘か本当かわからない凜華(りんか)の言葉が陰鬱な気持ちを少しは和らげてくれた。が、冗談を言うということは受け入れが保障されるような要素が全くないという意味でもあった。






 夕方になると集会場に人々がやってきて食料が分配されていく。配給を受けるのは女性が多かった。彼女らが家に戻ってしばらくすると、うっすらと料理の匂いがした。

 夕食が終わると今度は男性が集会場に集まってくる。夕食後に会合が行われるらしい。会場はホールだった。数百年前は大勢を呼んで観劇などをやっていたのだろう、今は70人ほどしかいないためホールはスカスカである。


 「人も集まったようだから会合を始めたいと思う」


 久仁雄が壇上に立ち進行をする。

 畑の状況、本日の収穫、獲物、化け物の被害の有無、食料の備蓄。そういったことを報告していき、決定しなくてはならないものを多数決で決めていく。途中で議論が起こるような議題もあったが、それでもすぐに決着がつき、ほとんどの議題がスムーズに処理されていった。

 そして、最後の議題となった。


 「本日、新たに街から出てきたものがここにやってきた。紹介しよう」


 貴弥と凜華の受け入れの可否についての議題である。

 二人は久仁雄に招かれて壇上に上がった。


 「こっちが刀葉(かたなば)凜華だ。A級気術使いだ」


 会場がどよめく。なぜ、貴族がいるんだという声が聞こえる。

 昔の個人主義を中途半端に残した日本では身分が家ではなく個人の階級で決まるという制度を取っているがために、家と縁を切ろうが、大罪を犯そうが、親の身分が何であろうが、いつまでも貴族は貴族で、平民は平民である。

 凜華も街を出たと言っても、身分法に定められた『S級もしくはA級』という貴族の定義に当てはまる以上、貴族であることにはかわりはなかった。


 「それでこっちが武重(たけしげ)貴弥で、C級の気術使いであり、魔法使いでもある」


 今度のどよめきは凜華のよりも大きかった。もちろん、そこには『B級、C級、D級、もしくはE級』に当てはまる士族であることも原因の一つであろうが、それだけではないのは明らかだった。

 もちろん、圧倒的な実力差がある以上、物を投げつける者はいない。しかし、出席者のほとんどの顔が真っ青であり、「関わったらやばいんじゃねえか」、「というか、武重から追い出された者を匿ったら、まずいだろ」などの声が聞こえる。

 昼間の久仁雄との話から予想ができていた貴弥は表情は変わらない。わかっていたと心の中で呟き、感情を静めていた。


 「静粛に。発言したい者は挙手をしてくれ」


 久仁雄の言葉で場に沈黙が訪れる。誰も手が上がらなかった。

 反対したい、それが顔にはっきりと書いてある。隣に座っているものを肘でつつく者もいる。

 戦力として魅力的ではあった。化け物は魔力や気を持つため、平民では倒すのは命がけであるが、貴士族なら少なくともここらの化け物なら余裕で倒せる。きっと、生活は少しはまともになるだろう。しかし、強力な特権を持つ貴族、そして紛い者では、恐怖や忌避が魅力を上回っていた。

 だが、恐怖が強い以上、反対を述べることもできなかった。

 それを見て久仁雄は口を開く。


 「意見が無いようなので議決に移る。二人の受け入れに賛成の者は挙手を」


 初めは誰も手を挙げなかった。

 しかし、凜華と目が合った者が畏怖で手を挙げるとつられて手が上がっていき、最終的には全員の手が上がった。


 「満場一致で賛成。それではこれから皆で協力するように」


 こうして、会合が終わった。





 



 他の出席者が帰った中、貴弥と凜華は久仁雄と共に残っていた。

 貴弥は久仁雄以外の反対で追い出されると思っていた。しかし、蓋を開けてみれば逆に満場一致で賛成であった。


 「そこまで僕は......」


 コミュニティーに入れてもらえることを喜べばいいのかわからなかった。


 「とりあえず結果よければ、だな。これから、コミュニティーのために頑張ってほしい」


 久仁雄もこんな形で受け入れになるとは思っていなかったらしい。しかし、統率する者としての素質か、いつまでも驚きを感じているなんてことはせず、すぐに現実的な話に移った。


 「それで、住む場所を決めなくてはならん」


 そう言ってコミュニティーの地図を取りだす。


 「中心にあるのが今いる集会場だ」


 地図を見れば、コミュニティーが集会場を中心に円形をなしていることがわかる。ついでに、集落の中に川が流れていることもわかった。


 「もう、中心近くには住める場所が残っていないから、集落の東端のここに住んでもらいたい」


 指をさしたところを二人は見る。東は街から最も遠く、森に最も近い場所である。つまり、化け物は東から来ることが多いので、その分危険であるということだ。


 「まあ、防備なら力になれそうですもんね」


 貴弥の声は弱々しかった。力を振るって皆を守る。それによって周囲の理解を得ることができるわけではないことはよく知っていた。力を振るえば振るうだけ、その力が自分には降りかからないかと平民は恐怖する。それが常であることを街の中で幾度となく経験した。


 住む場所を決めた後は、幾つかの説明を聞いてから夜も遅いということで、続きは翌日ということとなった。


 集会場を出て真っ直ぐ住居に向かう。街ほどは夜に外を出歩くことはないようなので人と遭遇することはなかった。


 広い集落ではないのですぐに目的地に着く。

 割り当てられた建物はもう長く使っていないひどくボロボロの店だった。


 「私が掃除します」


 「いや、僕がやるよ。すぐに終わるし」


 そう言って凜華を下がらせる。


 「生命の礎 なきこと能わず


 形なきこと それぞ理


 流れ 浄め 我に従うことを欲す


   ”操聖水流”   」


 貴弥が詠唱を終えると水が現れて部屋の中の苔などを洗い流していく。こびり付いた付着物が剥がれると床や壁がほんの少しだけ発光した。水属性だけでなく、光属性を混ぜたが故に浄化作用があるからである。もちろん一度光を放っただけで、すでに光らなくなっている。


 「きれいになりましたね」


 「そうだね。布団とかは......なさそうだね。冬じゃなくてよかったよ」


 元が家でない以上、布団など置いてない。もちろん、置いてあったとしても使えるわけもないのだが。


 「今日は疲れたからもう寝るよ」


 「はい。私も休みます」


 仕切りもないワンフロアの建物内で距離を置いて、そのまま二人は雑魚寝した。



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