学校からの拒絶
初心者で拙い文ですが、頑張ります。アドバイス等がありますと励みになります。
「2年2組」。ここが、武重貴弥のクラスである。
いつも通り、従者を頑なに名乗り続ける刀葉凜華を後ろに引き連れて教室の戸を開ける。
その瞬間、教室の中の活気が一気に冷める。貴弥が来るまでは生徒たちは席を立って、友人たちと話していたり、戯れあったりしていたのが、まるで嘘であったかのように。
もちろん、貴弥は教師ではない、一般の生徒である。そして、朝のホームルームまでは5分も残っている。
しかし、これが日常であった。転校してから、3か月の間、毎日、貴弥が来ると教室は静まり返った。10秒後には全員が着席している。
そして、異常な緊張の中5分経った時、チャイムがなり。担任の教師が教室に入ってくる。
「起立、気をつけ、礼」
「「おはようございます」」
「着席」
学級委員の号令でホームルームが開始される。
教師の話はいつもと変わらない、事務連絡だけだった。
何の冗談もひとつ言わない。高校のホームルームにしては異質な環境。しかし、誰も疑問に思わない。これもまた、この3か月間の日常であるのだから。
「たっ、武重さん、刀葉さん。こっ、こ、校長先生がお話をしたいとのことですが、ご足労願えますか?」
唯一、いつもと違うのはホームルーム終了間際に担任からの呼び出しがあったことぐらいだ。
「わかりました」
「同じく、了解しました」
「あっ、ありがとうございます」
貴弥と凜華の二人は素直に応じる。それを、見てふうと緊張を解くような仕草をする教師。
ちなみに、この教師は他の生徒相手にはここまで低姿勢ではない。というよりは、むしろ、他の生徒にはかなり偉そうな態度を取っている。しかし、貴弥と凜華にはまるで暴君の機嫌を損ねまいとするかのごとくである。
「凜華、行こうか」
「はい、貴弥様」
二人は揃って教室を出て、校長室に向かった。去った教室からは遠慮がちながらも活気のある声が上がり始めていた。
コンコン、と貴弥がノックをすると校長が部屋の戸を自ら開ける。
「わざわざ、お越しいただきありがとうございます」
担任と同じく低姿勢な校長に促されて、二人はソファに腰をかける。
「急に呼び出してしまい、申し訳ございません」
「お気になさらないでください。それで、ご用件は?」
貴弥が本題に入るように促す。
二人には何か呼び出しをされるような素行は一切取っていない。しかし、呼び出された理由は見当がついていた。
「そのことなのでが...。えーっと、本校は、えーっと、そのー、学生の、えーっと、自主性と言いますか、ねぇ、学生たちの活気のある、まぁ、そのー、伸び伸びとした校風を大事にしようとしておりまして...」
「何が言いたいのか、はっきり言え」
曖昧に、ごにょごにょ喋る校長に苛立ちを覚えたのか、凜華が強い口調で続きを促す。
「はっ、はい。すみません。えっと、ですので、...」
結局、なかなか本題に入ることなく、前振りを長々と校長は話した。その間、貴弥は文句を言うことなく黙って聞いていた。
「そういうことでして、お二方には、もっと相応しい学校がありますので、本校からは、そのー、去っていただきたく思いまして...」
用件は退学勧告だった。
「何故だっ!。私たちが何かしたのかっ!」
もちろん、凜華は黙ってはいない。
「いえっ、お二方が悪いわけでは、決して、決してございません。ただ、他の生徒は、その...、お二方に対して、尊敬の念を抱いておりまして...、もちろん、私ども教員もお二方には尊敬の念を抱いております。しかし、あまりにも、お二方の存在が大きいがために、えっとー、生徒たちが萎縮しておりまして...」
「尊敬などと、思ってもいないことをっ!」
凜華は校長の言葉に憤慨する。
事実、生徒も教師も貴弥と凜華の二人に対して尊敬の念を抱いてなどいない。ただ、恐怖しているのだ。目を付けられたら合法的に殺される、と。
「ひっ。お許しください」
凜華の怒りに触れて縮こまる校長。彼もまた、殺されはしないかと恐怖していた。
「凜華、落ち着いて。校長先生、話はわかりました。しかし、この学校を退学した後、どこの学校に行けばよろしいですか?」
「えーっと、貴族や士族の方々が行かれる学校に行かれては、と思いまして...」
「平民の学校に行きたいのですが」
「それは、そのー、私どもも努力したのですが...」
次の学校の用意はないらしい。
「貴様っ!」
「ちょっと落ち着いて。仕方のないことだから」
貴弥は従者の怒りをなだめる。
何てことはない、初めから予想していたことだった。
転校当初は学校側もある程度は受け入れていた。もともと、荒れていた高校だったが、貴弥たちが来たおかげで、不良は全くもっておとなしくなり、遅刻する者は始業までに来るようになり、授業中は全生徒が寝ることなく教師の話を聞いている。しかし、それは全て、二人に目を付けられまいとしたからに過ぎない。
凜華は貴族である。この国では貴族は警察権、捜査権、処刑権が認められている。そのため、貴族に逆らえば、場合によっては適当な理由をつけてその場で死刑にされることもある。
そして、貴弥はもっと厄介だった。貴弥自身は士族であり、貴族ほどの特権は持っていないが、彼の怒りを買えば、従者の凜華の怒りを買うことになるのは勿論のこと、何よりも、貴弥は「紛い者」であるために、関わると碌な目に合わないことが目に見えていた。
「仕方がないですね。僕たちは退学いたします。今まで、お世話になりました」
「貴弥様っ。」
「ほら、凜華も挨拶して。」
「うっ。しかしっ。...どうも、お世話になりました」
主に促されて凜華はいやいや、礼を述べる。
「ご期待に添えず、申し訳ございません」
深々と頭を下げる校長を一瞥して、二人は退室した。