第八話「森の姉妹」
ティルダの魔力の壁、それを突破するには、強力な魔力の一撃が必要。
デスタリア姉妹に協力を求める為、俺達は二日かけてアリヘウスの森まで引き返してきた。
「ごめんだけど、王国にちょっと用があるから、あたし達はここで一旦別れさせてもらうわ」
マリンがそう言って、レクスと手を繋いで歩き出そうとする。
「おい待て、どこに姉妹が居るかもわかってないんだから案内してくれよ!」
俺はそう言って、歩いて行こうとしていたマリン達の横に回り込む。
するとマリンはため息をついて、俺の脳天ににチョップをかます。
「ハァ……馬鹿言ってんじゃないわよ、自分達でそれぐらい探しなさいよ。あたし達の名前を出したら、協力して貰えると思うから。じゃあね!」
そこまで言うと、二人はそのまま去っていった。
遺跡の入り口でぽつんと佇んでいる俺とゲルニカ。
とりあえず、早くデスタリア姉妹を探し出さないと、また野宿することになる。
「さて、どうやって探すかね。こんなだだっ広い森の中を、むやみに歩いたところで見つからないだろ?」
頭を掻きながら、俺は周囲を見渡す。
どこを見ようと木が生い茂るばかりで、人の住んでそうな場所なんて見当たらない。
「人探しなら大人数でした方が捗ります。それが、この森で良かったです。みんな、来てください!」
ゲルニカが大声で叫び、誰かを呼んでいるようだ。
すると、遠くから多くの鳴き声と、足音が聞こえてくる。
「……グアォォォォン!!」
茂みを突っ切り、獣型の魔獣が飛び込んでくる。
その両脚には赤黒く跡が残り、赤い体毛が短くなっている、この前の魔獣だった。
それに続いて、魔物達がゲルニカの周りに集まってくる。
「……すみませんが、皆さんに頼みがあるんですが、この森にデスタリア姉妹という人が住んでいるらしいのですが、その人を探して欲しいんです」
ゲルニカがそう呼び掛けると、魔物達の表情が凍りつく。
「クァァン!!」
魔物達はそれぞれ叫びながら、散り散りに逃げていく。
そんな中、魔獣だけが一匹その場にとどまっていた。
しかしその魔獣でも、歯を食い縛り、ガクガクと震えていた。
「その反応、知っているようですね、無理強いはしませんが、方向ぐらいは教えていただけませんか?」
ゲルニカが魔獣の肩に手を置き、静かに語りかける。
魔獣は目を閉じて静かに息を吐いた後、覚悟した顔でしゃがみこむ。
「ガァウ!!」
自分の背中に向かって、顎で指示をする。
すると、ゲルニカは遠慮もせず魔獣の背中に飛び乗った。
「グゥガァ!」
どうすれば良いのかわからないでいる俺に向かって、魔獣は一吠えする。
「ほら、ハルトさんも一緒に!」
そう言って、ゲルニカが俺に手を伸ばしてくる。
俺はその手を掴んで、一気に魔獣の背に飛び乗った。
ふわふわの体毛、心地好い暖かさだ。
「しっかり毛を掴んでくださいね!」
ゲルニカに言われて、俺は魔獣の毛をがっしりと掴む。
その感触を確かめて、魔獣は立ち上がり、ゆっくり歩き出す。
魔獣は徐々に加速してゆき、木々の間をすり抜けるかのように進んでいく。
風圧で後ろに飛んでしまいそうになるほどの勢いまで加速し、森を駆け抜けてゆく。
そのまま五分ほど走り抜けると、魔獣はゆっくりと減速していく。
俺達が落ちないようにする配慮なのだろう。
完全に止まると、そこには蔦が生い茂った、レンガ造りの家が一軒立っていた。
「ここがデスタリア姉妹の住む家なのか? 確かに、蔦のわりに建物自体は綺麗に残っているが」
俺は魔獣から降りて、家の周りを確認する。
地面には扉を開けた跡があり、近頃使われたであろうことを示していた。
「どうでしょうかね、とりあえずノックしましょうか。魔獣さん、ここまでありがとうございました」
ゲルニカも魔獣から飛び降りて、扉の前まで歩いてくる。
魔獣はそれを聞いて頷き、その場から立ち去ろうとする。
その時、扉が内側から、音を立てて開き放たれる。
「むっ、この足音はまた魔獣かぁ!? 何度近づくなと言えばわかるのだ!」
家の中から、左目に包帯を巻いた、緑髪緑眼の少女が、鬼の形相で出てくる。
魔獣はびくりと退いて、少女に向かい跪く。
初めてデスタリア姉妹の名前を出した時のように、ガクガクと震えていた。
「……えっ男の子、ひゃあああっ!!」
少女は俺達に気付き、先ほどの形相から、恥ずかしそうな顔へ変わっていく。
その様子に俺も、どうすればいいかわからなくなる。
「え、えっと、デスタリアさんですか? ちょっと用があるんですが」
俺は、軽いパニックになりながら、敬語の成り損ないで話しかける。
少女は顔を真っ赤にしながら、深呼吸をしようとしている。
やっと落ち着いてきた少女は、再び鬼の形相で俺に向き直る。
「そうだが、我ら姉妹に何の用じゃ。この魔獣に案内させたようだが、魔物の仲間か?」
少女はできるだけ低い声で話そうとしているのだが、女の子ゆえに全然怖く無い。
いや、表情の変貌ぶりには驚いたので、それは嘘になるか。
「この魔獣には、ここまで連れて来てもらっただけだ。ところで、マリンとレクスって知ってるか?」
威圧感に負けじと、俺も敬語をやめて話しはじめる。
すると、マリンとレクスの名が出た瞬間、少女が目の前から消える。
そして俺の目の前に現れ、首元にナイフを当ててくる。
「また我らを実験台にするつもりか……何度言えばわかる、貴様らに協力はしないと!」
鋭い右目と歪めた口は、俺達に対する明らかな拒絶を示していた。
動けば斬られる、逃げることはできない。
「……実験台、そんなこと言われてもよくわからない、俺達は王国を助けるため、マリン達に紹介されてここに来た」
俺はそう言って、両手を上げる。
すると、少女はあっさりとナイフを引き下げて、玄関の方へ戻る。
「王国、ねえ……よくわからないけど、こっちについて来なさい」
少女はそう言って、家の中へと入っていった。
魔獣はその隙を突いて、森の中を逃げていった。
「……魔獣さん行ってしまいましたね、ではあの女の子について行きますか」
ゲルニカは少女の後を追って、家の中に突入する。
俺も、周りに警戒をしながら、家に入っていった。
蝋燭が壁に並ぶ薄明かりの中、深紅の絨毯が敷かれた廊下を俺達は進んでいく。
その廊下の一番奥、また真っ赤に塗られた扉があった。
「この中にお姉ちゃんがいるわ。疑わしい行動なんかしたら、あたい以上の容赦無い攻撃が来ると思っててね」
少女はそう言って、扉を軽く押した。
扉は蝶番を軋ませながら、ギシギシと音を立てて開いていった。
その扉の中には、紫色の煙が立ち込める小部屋となっていた。
部屋の真ん中には机とその上に水晶玉、それに向かって女性が座っていた。
「……あら、お客さんですね。こんな辺鄙な所まではるばると、よくいらっしゃいました。何の用かはもうわかってますよ」
女性はこちらを向いて、ゆっくりと立ち上がる。
綺麗な緑の髪に青い目、右目に包帯を巻き、ふんわりとした笑顔を見せてくる。
俺達の横にいた少女は、その女性に向かって走って抱きつく。
「お姉ちゃん、こいつら自分の国を救いたいらしく、あのバカップルに紹介されて来たとか言ってるんだけど」
少女は俺達を睨み付けながら、足をじたばたさせて言った。
この子は表情がコロコロ変わりまくるので、性格が全然掴めない。
「ティーレ、この人達、ハルト君とゲルニカ君の言っていることは真実よ。どうやら、二千年前の魔物達に、拐われたみたいね……」
女性は俺達の名前を言い当て、俺に向かい近づいてきて、額に触れて軽く撫でる。
笑顔から一変、冷酷で下げずむような表情へと変わる。
「だけど、今のあなた達ではティルダに勝つのは不可能、それならば協力する意味は無い」
女性はそう吐き捨てて、部屋の中を歩き回る。
そして壁に立て掛けていたレイピアを取り、俺に向ける。
「ならば特訓すればいいだけのこと、この家に泊まり、強くなればいい」
女性は足に力を込め、レイピアで突撃を仕掛けてくる。
速い、剣を抜けたとしても、それで受け流せるかどうかの所だった。
「ならばぁっ!!」
鞘を掛けている腰ごと捻り、抜き放つ剣に沿わせて、相手を後ろに受け流す。
女性は勢いを止める事無く、レイピアが壁に突き刺さった。
「……あははっ、暗刀流奥義其ノ五、鏡花水月か、あなたベリウスの息子でしょ?」
レイピアから手を離した女性は、俺に抱きついてくる。
苦しいほどではないが、がっちりと首に腕を回してあって、振りほどけない。
「私はレマニア、この家で世界の歴史を集め、まとめています。そして、かつてあなたの父さんの師匠をしてました」
そう言いながら、レマニアは俺に頬を擦り寄せてくる。
鼻に漂ってくる甘い香り、ふんわりとした肌触り。
彼女のあまりの行動に、俺の思考は停止してしまう。
そして意識が浮き上がり、目の前が真っ暗になってゆく。
とろけるような微睡みに、ゆっくりと包まれていった。
暗闇を切り裂く、手を叩く音が頭に響く。
目を開くと、ティーレが怒ったような表情でレマニアを睨んでいた。
「お姉ちゃん、また発動してた……だからあんまり男と会わせたくないのよ」
ティーレがため息をついて、レマニアを俺から引き剥がす。
意識が戻ったばかりで、何が何かわかってない俺は、ふらふらと地面に腰を下ろしてしまう。
「ハルトさん、大丈夫ですか!? レマニアさん、一体何をしたんですか!」
ゲルニカが俺に駆け寄り、立ち上がる支えをしてくれる。
俺は自分の頬をひっ叩いて、正気を取り戻そうとする。
鼻の奥に残る甘ったるい香り、思い出すだけでも目眩がする。
レマニアはそんな俺を見て、クスクスと笑いだす。
「私の身体から放たれる匂いには、いわゆる幻覚作用があってね。普段は出ないようにしてるんだけど、無意識の間に出ちゃってたみたい、ごめんなさい」
レマニアは微笑みながらも、声のトーンを少し落としてそう謝った。
笑っているのに、真剣さも感じられる、そんな不思議な感覚を覚えた。
「……まあ、何事も無いなら構わないんだが。しかし、親父に師匠がいたとは、初耳だ」
意識も大分はっきりして、レマニアの少し前に言っていた事まで頭が回るようになる。
暗刀流を知っていた、それに親父の師匠ともなれば、俺が強くなるための頼もしい仲間となるだろう。
「……でも、ベリウスまでそんな簡単に拐われちゃうなんて、師匠として屈辱的だなー」
レマニアは片腕を頭の後ろに回しながら、レイピアを軽々と抜き取る。
壁にぽっかりと空いた穴、レマニアがそれをなぞると、まるで粘土細工のように塞がっていった。
「……いや、親父はその場にいなかった、というか八年前に失踪したっきり戻ってない」
俺はまた、自ら悲しみの中へ飛び込もうとしている。
顔を歪め、向けるあての無い虚しさを、ため息と共に吐き出した。
それに気付いてか、ティーレがいきなり、俺に抱き着いてきた。
「お前、今日から泊まるんでしょ? 飯の材料採りに行くの手伝うぐらいしなさいよ」
ティーレは、そう言って俺の手を掴んで、廊下へと駆け出そうとする。
喪失感に駆られていた俺は、されるがままに引っ張られていった。
俺は、ティーレに引っ張られて、家の外まで出てきた。
ティーレが止まり、真剣な顔で俺に振り返った。
「まったく、お姉ちゃんは初対面の人の事情に土足で踏み込むなんて、本当にごめんなさいね」
ティーレが俺の目の前で、深々と頭を下げた。
幼い見た目や、言葉使いと違って、ここまで他人に気を配れるとは驚いた。
「いや、これから少しの間、一緒にいるんだからさ。そういう堅苦しいのはやめてくれよ」
俺はティーレの頭を撫でて、無理矢理にでも微笑んで見せる。
すると、ティーレは俺の手を頭から手を振り払い、やる気満々な顔を向けてきた。
「気合い良し、早速野菜採りに行くよ。絶好の収集場所があるから、ついて来てね。」
ティーレが軽くスキップをしながら、木々の隙間を駆けていく。
すばしっこいその少女を、俺はゆっくりと追いかけていった。
ハルトさんとティーレさんが出ていって、僕とレマニアさんの二人っきりになった。
「……ところでゲルニカ君、あなたの目的は何なのかな? 王国の者じゃないみたいだけど」
レマニアさんは不敵な笑みを浮かべながら、僕へと近づいてくる。
そして腰を曲げて、僕と目線を合わせると、じっと目を覗き込んでくる。
僕の心や力、記憶を全て見られているかのような不安感。
不快とは言わないが、そこからついつい目を反らしてしまう。
「……コントネットの排除、僕の師匠からの指令です」
僕が緊張しながらぼそりと呟くと、レマニアさんが不思議そうな顔をする。
「あんなのを倒しに来たの? 確かに、この森の魔物にまで危害を与えてきてうんざりしてたけど」
左目でぎろりと虚空を睨んで、レマニアさんがすっと背を伸ばす。
「まあ、それをあなた達が倒してくれたみたいで清々したわ、ありがとうね」
レマニアさんが、僕の聞こうとした事を、先回りして言ってきた。
本当に思考を読んでいるのか、それとも偶然知っていたのか。
僕は試しにレマニアさんに向かって、攻撃魔法を放つ事を思い浮かべる。
数秒間の静寂、これでどのような反応をするか、それで見極める。
「……あらあら、そんな固い表情しちゃって。可愛らしい顔が台無しだよ」
レマニアさんは微笑みながら、僕の脇腹をくすぐってくる。
「くぁっ……やめてください、くすぐったいです」
変な声をあげながら、僕は少し後ろに退いてしまう。
レマニアさんは笑いながら、僕に追撃のくすぐりを加える。
「私が何でそのことを知ってるんだ、って思ってたでしょ? 言わなくても、大体想像できるわ」
そう言って、くすぐるのをぴたっとやめたレマニアさんは、机の上にあった水晶玉を手に取る。
透明で、曇り一つも無いその水晶玉を突き出して、レマニアさんは僕の顔の前へと持ってくる。
その中心をよく見ると、まるで意識が吸い込まれるような感覚がする。
「魔法の中でも、心読って言われるのを使って記憶から探ったのよ。疲れるし、むやみやたらと使うのは嫌だけど」
言っていることからすると、予想どうり僕との会話からコントネットとの戦闘を思い出させ、それを読み取ったことになる。
しかし、ハルトさんの父さんが失踪した事は知らなかった、むやみやたらに使ってないのは事実か。
「……ええ、まさか高等魔法の心読を使えるとは、マリンさんが言ってたことは、正しかったようですね」
単純に見ただけでわかる攻撃魔法とは違い、身体強化など直接効果が出ないものは、目で確認するのは難しいものが多い。
その中でも一番強い魔力、鍛練を必要とする場合が多い心読だ。
だが使える者は、その苦労の割に合わず、知らない間に自分の行動が気づかれていると気味悪がられ、虐げられることが多い。
デスタリア姉妹が森の中に住んでいた理由、そういうわけだったのか。
「……へえ、中々賢いのね。でも私達がここに住んでいる理由はそれだけじゃないんだよなー」
レマニアさんは、僕を誉めたかと思うと、馬鹿にするかのように続けた。
「私達は化け物姉妹、不老長寿の狂った存在。それも嫌われている理由よ」
レマニアさんは、ウインクをして、僕に自分達を紹介するかのように言った。
「……まさか、あの伝説の姉妹でしたか、作り話だと思ってましたが、まさか本当の話だとは」
不老長寿の化け物姉妹、噂だけでは聞いたことがあった。
姉はその美貌と、巧みな話術で男をたぶらかし、金品や食料、そして最悪の場合、命を奪うという。
妹はその幼い容姿に見合わない凶暴さで、自分が劣ると思ったものを全て壊していったという。
気づかぬ間に獣の領域に入ってしまっていたかのような恐怖に、僕はただゆっくりと後退りをするしかなかった。
「そんなに怯えないで、私達は何もしない、する理由も無い。ただ、ハルト君に内緒にしといてくれることを条件にだけどね」
レマニアさんは、僕の口に人差し指を当てて、微笑みながら首を傾ける。
僕は息を呑み、怯えながらも首を縦に振る。
そして覚悟を決めて、口を開いた。
「……いいですよ、あなたが何を考えているのか、僕にはよくわかりませんが、ここでむやみに拒否をして、協力してもらえなくなったら、ハルトさんが困りますしね」
そう言い切り深呼吸をして、体に酸素を取り入れて落ち着く。
レマニアさんはそれを聞いて、安心した顔でレイピアを壁へ戻す。
そして水晶玉を机に置いて、椅子へと座った。
「じゃあ、ご飯の時間まで過去を調べてるから、ゲルニカ君は料理を手伝ってきたらどうかな。二人とも、丁度帰ってきたみたいだし」
レマニアさんは、それだけ言うと、水晶玉に手をかざして黙ってしまう。
それと同時に、玄関の方から、扉の開く音が聞こえる。
「ただいまー! 今日はたくさん採ってきたよ!」
ティーレさんの元気な声と、この部屋に向かって走ってくる音が聞こえる。
そしてこの部屋に入ってくると、背負った野菜いっぱいの籠をおろして、その中の野菜を一つ掴む。
「ほら、珍しい食材の黒子茸! 丁度食べ時みたいだったから、採ってきたよ。ゲルニカ君も、一緒に料理しよっ!」
そう言ってティーレさんは、僕に黒子茸を渡すと、また廊下へと向かっていった。
それと同時に、へとへとになった全身びしょ濡れのハルトさんが、背中に巨大な魚を担いで、部屋に入ってくる。
「あいつ……鬼かよ、ろくに泳いだこと無いのに、魚獲ってこいだなんて」
乱れた髪の毛を掻き分けながら、ハルトさんは息を整えている。
「……それは、お疲れ様でしたね。しかし、大きな魚ですね、四人分は軽く越えてますかね」
ハルトさんを労いながら、僕はその魚の大きさに驚いていた。
するとハルトさんは自慢気な顔で、こちらを見てくる。
「おうよ。それぐらいないと、苦労に見合わねえからな。お前も料理、手伝ってくれよ」
それだけ言って、ハルトさんはティーレさんと同じように、廊下に出て行く。
「はい、了解です。ちょっと待ってくださいよ!」
僕は廊下に向かって、そう叫んだ。
そして部屋の出口まで来ると、レマニアさんに顔だけで振り向く。
「約束は守ります。これからよろしくお願いしますね」
僕はそう小さく呟いて、不恰好な笑顔を見せる。
完全に振り向けなかったのは、彼女が怖かったからなのかもしれない。
そしてレマニアさんの反応が無いのを見て、廊下へと進む。
キッチンはどこなのかを聞くのを忘れてしまっていた。
仕方がない、手当たり次第探していくか。
そう考えながら、一つ目のドアを開いて中を見ると、たくさんの本棚が立ち並ぶ書斎だった。
一つ目は外れだったが、少し楽しくなってきたかもしれない。
そんなことを心の中で思いながら、僕は二つ目の扉へと駆けて行った。