第六話「溶岩の巨人」
その火山は、今だ煙を上げ続けながら俺達の前にそびえ立っていた。
夕焼けを浴びて真っ赤に染まるその山を見て、俺は圧巻された。
「……しかし高ぇな、ここを越えるのは骨が折れそうだ。ところで、もうすぐ夜になるが、この辺の魔物は大丈夫なのか?」
俺は周りを確認しながら、そう言った。
この辺りは小さな盆地になっていて、特に隠れられるような場所は無い。
見たところ、魔物の気配は無いように思えるが。
「この盆地には、魔力に変えられる食物が少ないため、魔物はいません。とりあえず一晩休んでいきますか、ペインショットスロー!」
ゲルニカはそう言って、魔力の塊を地面に向かって飛ばす。
すると地面がゆっくりと盛り上がり、小さな空洞を作り出す。
「あとは炎で焼き固めるだけで完成、ファイアストーム!」
ゲルニカが再度呪文を唱えると、空洞の中に炎の渦が巻き起こり、土の水分を飛ばしていく。
渦が収まると、しっかりと固まった、塒が出来上がっていた。
「すげぇ、ゲルニカってやっぱり何でもできるんだな」
俺は思わずそう呟いてしまっていた。
純粋な尊敬と、酷く醜い妬みが心の中で渦巻いていた。
握りこぶしに力が入っている、俺もこんなに強くなれればいいのに。
「いえ魔法も万能ではないです、できる事を応用して、結果を増やしているだけですよ」
ゲルニカは目を細めて、塒の中に入っていった。
その目には俺への優しさと、悲しみのようなものが伺えた。
俺は塒の中に入りながら、自身の力不足をただただ恨んでいた。
中は思っていたよりも広く、荷物を置いて三人寝転がっても、スペースが空く程度だった。
俺は早速、昨日の内に森で回収しておいた野菜と、包丁を取り出し、晩飯のサラダの準備に取りかかった。
軽快に包丁を叩きつけていると、自然に鼻歌を鳴らしてしまっていた、いつもの癖だ。
適度に切り終えて、そのまな板の上で調味料と絡めていく。
「ほら、簡単だがサラダの完成だ。ゆっくり食べろよ」
それを皿に盛り付けて差し出すと、ゲルニカが素早く受け取り、一気に貪る。
「おいおい、そんなにがっつくなよ。逃げるわけでもないんだしさ」
俺がそう言い終えた時には、ゲルニカは完食してしまっていた。
「すいません、お腹が空き過ぎてたもので。美味しかったです」
そう言って笑いながらゲルニカは早速寝転がってしまった。
「おいおい、食ってすぐ寝たら、牛になっちまうぞ。まあ、明日は朝っぱらから出発するんで、構わんのだがな」
「はーい……」
ゲルニカの眠そうな声を聞いてから、自分のサラダに手をつける。
俺も疲れたし、早く寝たいからな。
ああ言ったが、俺もがっついてしまっている、やっぱだめだな……
と思ってる間に、俺も食べ終わってしまった。
「がーっ、満腹だっ!」
俺は一人そう言って、壁を背にして、もたれかかる。
だんだん微睡みが頭の中に広がっていく。
魔物が邪魔をするわけでも無いし、ゆっくり眠れるな。
……遠くからゆっくりと足音が聞こえる、魔物だろうか。
あれ、瞼が重くてなかなか開かない、目の前が青い……
青空が見える、確か塒の中で寝たはずだよな。
とりあえず立ち上がって、周りの状況を確認しないと。
くそっ、動けない、手足がまるで一本の棒みたいだ。
「……あらあら、起きたの坊や?」
目の前に女性が立っている、見覚えがある、母さん!!
無事だったのか、そうだとしてもこんな所にいるはずが無い、ならば夢の中なのか?
「おお、起きたのか、お前の名前を神様がお与えくださったぞ、ハルトだ!」
そう言って駆けはじめた男性、こいつも知っている。
俺が子供の時に失踪した、俺の親父だ。
そうだとすると、これは俺の赤ん坊だった時の夢か……
ならば、中々目が開かなかったのも、体が動かないのにも説明がつく。
「じゃあ、誕生パーティーの準備をするから、ここで寝ててね」
そう言って母さんは親父と手を繋ぎ、家の中に入っていった。
まだ若いとはいえ、仲の良い夫婦なものだ。
空を見上げて、ゆっくりと目を閉じる。
退屈だ、独り言を呟けるわけでもないし、動き回ることもできない。
言われた通り、寝たら元に戻れるだろうかな。
「……こいつだな、我が無の力を阻止すべく、行動をする者は」
不意に俺の隣から、幼さの残る声が聞こえてくる。
目線を動かしそちらを見ると、黒髪の少年が俺を睨みながら立っていた。
よく思い出すと彼は、遺跡の白い空間で出会った少年だった。
その横には、少年より少し背の高い少女が本を持って寄り添っていた。
少女の背中からは天使を思わせる、純白の翼が生えていた。
「はい、この赤子で間違い無いです。名前はハルト、不屈の者」
少女が手に持っている本を見て、静かに淡々と言った。
二人とも、見た目に似合わない冷酷な瞳、自分が赤ん坊だからか凄まじい恐怖に見舞われる。
「我が付けた名だ、それぐらいわかっている。生まれた直後で悪いが、非常時の保険を掛けさせてもらう。痛いとは思うが、許せよ……」
少年がそう言って、人差し指を俺の腹の辺りに突き立てる。
ゆっくりと爪がめり込んでゆき、幼い俺の敏感な痛覚を抉っていく。
痛みが強すぎて息ができなくなっていく、泣き叫ぶことすらできない。
口から息が洩れていき、顔を歪めて耐え続けるのみだった。
「――狂いの光を浴びし聖水よ、その血と絡み合い力を縛れ」
少年はそう呟いて、息を長く吐き出していく。
それと同時に、爪が当たっている位置から、熱い液体が体内に入っていくような感覚を覚えた。
その熱い感覚が止まる瞬間、少年は静かに爪を抜き取った。
すると、少しずつ痛みが和らいでいく、これなら助けを呼べる!
「あぎゃぁぁぁぁっ!!!」
力の限り泣き叫ぶ、母さんでも親父でも誰でもいい、早く助けに来てくれ。
そう思っていると、すぐに家の扉が開いて母さんが出てくる。
「あらあら、どうしたの? このお腹は、虫にさされてるみたいね。この程度なのに、大袈裟ね」
母さんは俺を抱き上げて撫でながら、微笑みかけてくる。
目を横に移すと、あの二人はどこかに消え去ってしまっていた。
自分でもよくわからないが、大丈夫だったようで安心した。
あれ、安心したら眠たくなってきた、瞼が自然に塞がっていく。
目が閉じられると、また真っ暗な闇の世界に戻っていく。
そして意識も、また消え去っていった。
――起床、塒の中には朝日が注ぎ込んできていた。
俺も元の姿に戻っていた、普通に手足も動く。
あの少年は一体誰だったのか、そんな事を考えると、ため息が出てくる。
少し横に目をやると、ゲルニカがまだすやすやと眠っていた。
さあ、こいつが起きるまでに、朝飯でも作っておくか。
朝日が昇りきり、空が青く染まるころには、俺達は火山の麓に到着していた。
近くの岩からは蒸気が吹き出し、この火山が生きていることを証明していた。
火山の外側は切り立っており、生身の人間にはそうそう登れないようになっていた。
「こんな急なのを登れるものなのか? 考えただけでもぞっとするが」
俺は上を見上げながら苦笑いを浮かべる。
子供の頃から、様々な特訓を受けてきたが、ここまでの高さの山を登ったことは無かった。
ゲルニカは首をかしげながら、近くの山肌をぺたぺたと触っていた。
その中で一つだけ不自然に盛り上っている岩を触った瞬間、周囲に地響きが起こった。
それと同時に、壁が岩戸のように開き、洞窟の入り口が出来上がる。
「まさか、洞窟の中から突破するのか!? 中は凄まじく熱いもんじゃないのか?」
俺が頬を引きつらせながら、そう聞くとゲルニカが笑顔でうなずく。
「はい、そうです。体温の変化などは、回復魔法の応用で何とかなりますよ」
そう言ってためらい無く突入していくゲルニカの後を、俺も追っていった。
ほとんど整備のされていない、でこぼこの道が続いている。
ゲルニカの言った通り、蒸気の充満する洞窟内でも外と同じように感じる。
結構奥まで進んで、頭の中に一つの疑問が浮かんできた。
「しかし、何で入り口が塞がっていたんだ? わざわざ塞ぐ必要性が感じられないんだが。」
理由を知っているかどうかはわからないが、ゲルニカに質問をする。
するとゲルニカが、近くの手頃な岩に座って、鞄の中から一冊の本を取り出す。
「……この山には、溶岩を操ることができる魔獣、キラトルというのがいるらしいのです。あの岩戸は、それに近づく事のできないようにしているらしいです」
そう言ってゲルニカは、その本の一つのページを見せてきた。
洞窟内の広間、溶岩の巨人が佇んでいる絵が描かれていた。
「また魔獣かよ、でも最強の魔人形を倒した俺達ならきっと大丈夫だな。蹴散らしてやろうぜ」
俺は笑顔で鞘に刺さっている剣を揺らす。
しかしゲルニカが苦笑いをしながら、俺を見上げてきた。
「やる気を出しているところ悪いですが、キラトルは三百年ほど前に倒されちゃってますよ……」
ゲルニカの発言で、俺はがくっとしゃがみこんでしまう。
肩透かしを食らってしまった、ああ恥ずかしい……
まあ、この旅の真の目的はそれじゃないから問題は無いんだがな。
そう心の中で、自分を励ましつつ、再び立ち上がろうとした。
「あれ、そこにいるのははハルトじゃないの!」
通路の奥から俺を呼び掛ける声が聞こえてくる。
その声の方に向くと、水色の髪で白い魔法使いの帽子を被った少女が歩いてきていた。
「お前は、マリン! 姿が全く変わってないから、すぐわかったぜ」
俺もそう言って、マリンに駆け寄っていく。
それを聞いたマリンは、むっとした顔で俺を見てくる。
「あんたこそ、すっかり成長したじゃないの。正直誰かわからなかったわ。ついに身長で負けちゃったし……」
むっとしたまま、俺の目の前で飛び上がり、脳天にチョップをかましてくる。
懐かしいこの感覚、十年ぶりぐらいになるのかね。
「えっと、ハルトさん、知り合いなんですか?」
ゲルニカが近づいてきて言う。
ぎりぎりだがゲルニカの方が、マリンより身長は高いようだ。
「ええ、あたしはマリン、昔ハルトの両親にお世話になってね。その時からの知り合い、って感じかな」
俺の代わりにマリンが大体の説明をしてくれた。
俺に向けた表情から一転、正直言って可愛らしい笑顔になった。
「そうでしたか、では僕も自己紹介を。僕はゲルニカと申します。ハルトさんのお供をさせてもらってます」
ゲルニカも、笑顔で話している。
そこでマリンが、怪訝そうな顔で首を傾げてき。
「お供ってあなた達、何か用事があってはるばる来たってことよね?」
マリンが首を傾げながら、俺達に尋ねてくる。
事の始まりを思い出し、絶望的な状態を再び噛み締めて目を押さえる。
「実は終戦記念日に、うちの国が魔物達にさらわれた。場所については、ゲルニカの魔法でわかっている」
ゆっくりと口を開いて、俺はマリンの方を向き直す。
するとマリンは大きなため息をついて、俺を睨み付けてきた。
「おそらく、二千年前に封印された魔物だと思うわ。で、たった二人だけで戦えるとでも思ってるのかしら?」
マリンは睨んだ赤い瞳を閉じて、冷たくそう言い放った。
俺は歯を食いしばり、唸るだけで、言い返すことはできなかった。
「……だからこそ、俺達と一緒に来てくれないか? お前の実力を見込んでだ!」
俺は力強く、マリンの肩を掴む。
しかし、その手はすぐに振り払われてしまうこととなる。
「残念だけど、それはできないわ。あたしもこの火山に仕事で来ていて、忙しいからね」
そう言って、マリンは通路を進み始める。
しかしすぐに立ち止まって、目線だけを俺に向ける。
「でも、終わらせられれば、協力してあげていいわよ。」
軽く微笑んで、マリンはまたゆっくりと進んでいく。
「……ああ、ありがとな!」
俺は感激して、声を震わせながらそう言った。
そしてゲルニカと共に、すぐにマリンの後を追ってく。
洞窟内は一本道だが、不規則曲がりくねっており、自分が今どこに居るのかさえわからなかった。
自然物がゆえ、遺跡の中よりもたちが悪い。
「そういや、お前の彼氏はどこに行っちゃったんだ? いつも仲良かったじゃねえか」
俺は暇を持て余し、マリンに気になっていたことを聞く。
「レクスは、唐突に岩が降ってきて、はぐれちゃった。こっちから超音波が来てるから、もうすぐ合流できるはずだけどね。」
マリンがそう答えて、得物のノコギリを手入れしている。
そんなことを言っている間に、二手に分かれた広間に到着した。
「こいつはどっちに行けばいいんだ? とりあえずはレクスの居る方向にだけどな」
俺はそう聞いて、二人より先に片方の通路を覗く。
その時、地鳴りが起こって、大量の岩が落下してきた。
俺は素早いバックステップでかわせたが、マリンとゲルニカは無事か?
「おい! マリン、ゲルニカ、大丈夫か!?」
俺はむせるほどの砂煙を剣を抜いて、振り払う。
砂煙が止み、積み重なった岩が見える。
「あたしたちは大丈夫、そっちの道にはレクスがいるから。後で合流しましょう」
岩の隙間から、マリンの声と足音が聞こえてきた。
レクスがこっちの道にいるのか、一人じゃないなら非常時も問題無いか。
そう思いながら俺は、たった一人で通路を走っていった。
前からゆっくりと近づいてくる足音、それはどんどん速く大きくなっていく。
岩影から覗くぼろぼろの巨大な蝙蝠の翼、悪魔のレクスが現れる。
昔から何故か両目を覆うように包帯を巻いているので、超音波で周りを確認しているらしい。
「久々だなレクス。ハルトだが覚えてくれているか?」
少し距離を空けた状態で、そう話しかける。
レクスは首を傾げてしまったが、すぐに頷いてこちらに駆け寄ってくる。
レクスの首元に痛々しい傷痕が見えた。
「……どうやら、喉を治す方法はまだ見つかってないようだな」
俺は頭を掻きながら、昔のことを思い出していた。
何かは知らんが、事件に巻き込まれて喋れなくなったらしい。
それを治して、喋れるようになるのが、当面の目的だったはずだ。
「マリンに会ったんだが、岩で分断されてな。今は合流しようとしている所だ。」
俺はそう言って、レクスが来た方に歩き出した。
レクスもそれに気付き、元来た道を引き返しはじめる。
「とりあえず、俺が来た道には何も無かったぜ。 俺と合流するまでに、行っていない分かれ道とかはあったか?」
俺がそれを問うと、レクスは頷き、人差し指を立てる。
そして通路の先の一つの横穴を指差した。
「……凄く小さい横穴、あとはこの穴だけなのか?」
そう聞くと、レクスが静かに頷いて、背中にぶら下げていた三叉の槍を手に取る。
そして、片足を下げて構えたと思うと、次の瞬間、その横穴に向かって勢いをつけて投げる。
回転のかかった槍は、凄まじい砂煙を立てて、横穴を削っていく。
そして静かになったかと思うと、また同じように向こうから槍が帰ってくる。
レクスはそれを上手く掴むと、その勢いのまま背中に戻す。
そこには、大人一人が通れるほどの通路が出来上がっていた。
「レクスは翼もあるし、さすがにあの大きさでは通れなかったか。物凄い荒業だが、流石だな」
俺が感心していると、レクスがその通路をずかずかと進んでいく。
俺はそんなレクスに軽い憧れを抱きつつ、通路に足を進めた。
横穴を抜けた先には外に繋がっており、山の中腹に出てきた。
そこは平らな広場のようになっており、岩が五つ、円を描くように置いてあった。
「あら、外に出ちまったか。またどこかから中に戻らないと、合流出来ないんじゃねえか?」
そう言って俺は、周りを見渡すと広場の俺達のいる逆側に、もう一つの入り口が見付かった。
「あっ、あるじゃねえか。早く行こうぜ」
俺はその入り口に向かい、広場を突っ切ろうとした。
すると円を描く岩の内側に入った瞬間、目映い光が地面に走る。
その光は岩を繋ぎ、地面に魔方陣を作り上げていく。
「魔方陣!? どういうことだよ?」
俺は素早く引き下がり、魔方陣の中から出る。
レクスが口を歪めて、その中心をじっと睨む。
そこから地面に亀裂が入り、その穴から一つの光が出てくる。
よく見ると赤い宝石が、空中に浮かんでいた。
その宝石から、何やら赤い液体がどろどろと吹き出す。
そして周りの地面が剥がれて、その液体にまとわりついていく。
その岩は、ばらばらと崩れてゆき、筋肉質な巨人の姿を作り上げていった。
「……ここは、魔神姫ティルダの命により、通すわけにはいかない。この私、魔獣キラトルが全力で相手をしよう」
巨人はキラトルと名乗り、にやけ面を見せてくる。
「……三百年前に倒されたはずのキラトルが何故!? まさか、依頼の内容ってのは、こいつの討伐か!?」
俺がレクスに問うと、彼は深刻な顔のまま頷いた。
ちょっと期待してたから都合が良い、こいつをぶっ倒す!
俺は剣を抜いて、低姿勢のまま駆けていく。
キラトルは岩でできている上に巨体のためか、とてつもなく鈍い。
その内に間合いを一気に詰め、キラトルの身体を切り裂く。
体の岩が真っ二つに割れ、そこから溶岩が噴出する。
「やべぇ、それは聞いてないっての!」
剣で勢いはつけたが、回避が間に合わない、食らってしてしまう。
すると、レクスの槍が飛んできて、俺の服に引っかかる。
その勢いが合わさり、ギリギリ溶岩を避ける事ができた。
「なんだよこいつ、自動でカウンターできるのかよ……」
レクスの隠れている岩まで逃げて、そう呟く。
槍を受け取ったレクスは、冷や汗をかきながら口を素早く動かしている。
おそらく、超音波を出して、マリン達を呼んでいるのだろう。
ともかく、早く何とかしないとキラトルが来てしまう。
魔法が使えれば、氷で冷やすなり、水を使い気化熱で冷やすなりと、方法は考えられるんだが……
氷はマリンの得意魔法だったはずだが、待っている余裕なんて無い。
あれ、水なら俺でも出したことがあるじゃねえか。
そう思った瞬間、俺は岩影から飛び出していた。
「……賭けになるが、これが俺の唯一見つけられた答えだ」
緊張で汗が吹き出す、指先にたまって滴になるぐらいに。
それが逆に好都合、魔法を使えない俺、唯一の方法!
その汗の水滴を刀身に、一滴落とす。
すると触れた所から水は広がり、刃を包み込む水の柱となる。
「やはり、仲間を守る強い意思、それがミラジウムの発動条件! それを使い、汗に含まれていた微量の魔力を増幅させた!」
剣の水流は、俺の意思に合わせて強くなる。
だがあの時とは違い、自分の思うようにコントロールできる。
場所を見定め、キラトルに向かい一直線に突撃する。
「ミラジウムだと!? 最優先破壊対象と認定、排除する!」
キラトルの胸が開き、そこから溶岩が弾幕のように飛んでくる。
俺は剣を横に向けて、強く念じると、水流が強くなり、地面にぶつかる。
その反動を利用して、勢いよく横に跳ねて回避する。
気がつけば、キラトルの足の間まて潜り込むことができていた。
これならば、あの技を使うのが有効か。
「暗刀流奥義其ノ一、渦潮!!」
俺の家系に伝わる剣技の内の一つ、身体ごと剣を素早く回して周囲の敵を切り裂く技。
それに水流が合わさり、威力はとてつもないものとなる。
身体を削ると同時に、溶岩を固めて再度削ってゆく。
「ぐぉっ、そう易々と攻撃を許してなるものかぁ!」
キラトルが自ら下半身を崩れさせ、左右から襲う溶岩で押し潰そうとする。
「それはこっちの台詞だっての! ぞらぁっ!」
俺は地面に剣を叩きつけ、再度勢いをつけて回避する。
キラトルは下半身が完全に液状化してしまい、動けなくなってしまっていた。
「私の捨て身の一撃をかわすとは、君を甘く見すぎていたようだ。奥の手を使わせてもらうぞ!」
キラトルが宣言すると、地面の魔方陣が再発動する。
すると五つの岩がゆっくりと空中に浮き、光を放ちながらキラトルの周りに集まってゆく。
「これが私の魔力の真髄、五弾円舞だ。せいぜい踊り回って避けるがいい!」
そう言うと、キラトルを中心にして規則正しく回転を始める。
それは速度を早めたり、開いたりしながら俺の行動を制限していく。
「私はコアを潰さなければ死なぬ。お前はこれをどう攻略する?」
キラトルはそう言って、速度を上げた岩を俺にぶつけようとする。
「ならば、まずはその岩からぶったぎる!」
こちらからも勢いをつけて、岩に剣で斬りかかる。
水流も加わって、火力は十分、砕けるものだと思われた。
しかし、その斬撃は効かずに、こちらがはね飛ばされた。
「そいつには防御魔法をかけてある。その程度の剣技では私を倒すなぞ、不可能だ!」
その言葉を聞き、俺は一気にキラトルの方へ踏み込む。
岩の破壊が無理ならば、岩から距離を置き、本体を撃破するのみだ!
そう考えて、宝石があったであろう胸へ目掛けて突きを放つ。
「暗刀流奥義其ノ二、雷電!」
俺が最も得意とする、暗刀流の突きの奥義。
捻らせた身体を元に戻し、素早く剣を突き出す。
水の柱は勢い良く伸び、相手への間合いを一気に詰めていく。
そのまま、キラトルの胸に当たる寸前、俺に向かい岩がぶつかってきた。
「くそがぁっ! 速いっての、隙無しかよっ!」
寸前で横に回避したとはいえ、衝撃は少なからず入ってしまった。
チャンスはまだあると考えても、何度も通じる方法ではない。
隙は無く、それと同時に攻撃をしてくる。
そんなこいつを相手にして、どう倒せばいいんだよ!?