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クレイジーフルムーン  作者: もやし騎士ヴェーゼ
第一章 魔神姫の乱
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第十八話「漆黒の槍」

 ゲルニカの描き出した地図を見つつ、真っ白な通路を全速力で走り続ける。

 そして地図を凝視して、現在地を確かめる。

「この通路、目に来るんだよなぁ……地図が見づらいったらありゃしないっての!」

 俺は声を荒げで愚痴りながら、角に手を当ててくるりと回った。

 すると白色の中にぽつりと浮かび上がる、灰色の階段が見えた。

「やっと階段に辿り着きましたか。さて、今回は上に敵はいないのでしょうかね?」

 ゲルニカは階段の先を見上げて、目を凝らしながら呟いた。

 するとマリンが俺の横をすり抜けて、ノコギリの先を階段の上へと向けた。

「じゃあ今度は、あたしが確かめようかしらね――ブレイクアイスバーグ!」

 マリンが素早く呪文を唱えると、ノコギリの先端から冷気が漏れ出してくる。

 そして氷の粒が一つ一つ纏まっていき、巨大な氷塊がその前に現れる。

 マリンがノコギリで押すとゆっくりと動き出し、階段を埋めつくしながら氷塊は進んでいく。

 俺達は隊列を元に戻しながら、その後ろを追いかける。

 灰色に続く階段を上り続けていると、氷に透けて向こう側が見えてくる。

「よしよし、そろそろぶっ放してもいい頃合いかなっ!」

 マリンはノコギリに小さい氷を作り出し、それを氷塊へとぶつける。

 その瞬間氷塊はどんどん加速して、階段を突き抜けていった。

 そして階段を突破すると、氷塊は空中で爆散した。

 砕け散った氷は一つ一つが尖っており、次の階層の地面へと激しく叩き付けていく。

 それが止んだのを確かめて、俺達は上層へと飛び出していった。

 階段から赤い絨毯が真っ直ぐに伸び、それが巨大な扉へと繋がっている。

 それ以外には規則的に柱が立っているのみ、何も無い大広間となっていた。

「……敵はいないのか? まあ聞いたところで、はいそうと出てくるわけねえだろうがな」

 俺は剣を抜いて、一番近くの柱をぐっと睨み付ける。

 そしてゆっくりと柱に近づきながら、柱の陰へと目を落とした。

 しかしそこには誰もいなかった、それどころか続く柱に人影すら見当たらなかった。

 それを見たゲルニカは杖を振って、無言で魔力の塊を飛ばす。

 魔力の塊はカーブを描いて、対面側の柱の裏へと回っていった。

 柱の隙間から見える魔力は、素通りしてそのまま扉へとぶつかって散っていった。

「こちらの柱の陰には誰もいませんね。さて早速、先へと進みましょうかね」

 ゲルニカは軽快な足取りで、そびえる扉の方へと進み出す。

 俺もその横へと並び立ち、真っ直ぐに進み始める。

 剣を鞘に突き刺したその直後、真っ赤に染まる閃光が俺の背中を照らした。

「……この凄まじい熱気、ゲルニカ君にハルト! 背後に気を付けなさいっ!」

 マリンの鋭い声が後ろから響き、同時に熱風が吹き荒れる。

 俺が振り返るとそこには、巨龍が口を開いて炎を吐き出していた。

 マリンはノコギリを地面に刺し氷柱を地面から突き立て、その炎を切り裂いていた。

 俺達の脇を通る炎の熱気に汗をかき、それを軽く拭う。

 巨龍は口を閉じて炎を止めると、巨大な翼をはためかせる。

 すると炎が消え去り、巨龍の姿が明らかとなっていく。

 マリンの描いた絵なんて比較にならないほど、身体中から刺を生やしていた。

 そして伝承と大きく異なる点、それは緑青色に全身を輝かせているところだ。

 その姿に違和感を覚えつつも、俺は再び剣を抜こうとした。

 しかしそれは巨龍の咆哮によって、制止されてしまった。

「そこの剣士よ、我はお前達と戦う気は無い! 我はティルダ様の右腕、龍族最後の一体その名をゴルトス!」

 巨龍はそう名乗り、爪を地面に突き立て亀裂を入れながら抉っていく。

 俺はその音を聞いた直後に、剣を抜きゴルトスへと向けた。

「ティルダ様に課せられた使命、我が死すとしてもこれだけは果たさせて貰うぞ!」

 ゴルトスは頬を膨らまし勢いよく首を振ると、上を向いてその口を開いた。

 すると口腔から巨大な炎の玉が、ゆっくりと膨らんで出てくる。

 ゴルトスの身体と同じ程度のその大きさに、俺達は圧倒されていた。

「あれはデストロイフレイム!? それも僕のなんか比較にならないレベルのやつですよ!」

 ゲルニカがそう叫ぶのと同時に、ゴルトスは首をこちらへと縦に振った。

 それに応じるかの如く炎は分裂し、ばらばらとこちらへ降り注いでくる。

「くっ、ブレイクアイスバーグ! こんなところで無駄玉撃たせないでよっ!」

 マリンがノコギリを振ると、現れた氷の刃が瞬時に弾幕を作り出す。

 そして炎とぶつかり合っては、音を立てて相殺し消え去っていく。

 だが巨大な炎から打ち出される炎は、際限無く放たれてくる。

 マリンはノコギリをぶんぶんと振り回し、弾幕でそれを耐えしのいでいた。

 しかし全てを相殺できたわけではなく、いくつかは地面に着弾し、小さい爆発を起こしていた。

「これじゃきりがねえ、ミラジウムよ蹴散らせっ!」

 俺は剣に手のひらを付けて、大声で叫ぶ。

 炎の熱気と緊張で汗はかいている、これならば十分だ。

 すると剣は根本から水を吹き出し、ぐんぐんと伸びていった。

 俺はその剣を勢いよく横に振るい、炎を薙ぎ払っていく。

 そして巨大な炎へと水流をぶつけて、力強く押し込む。

「ここまでが我の役目、これで十分だ!」

 ゴルトスが大きく開いた口を、牙を鳴らして閉じる。

 それと同時に炎はひしゃげてゆき、煙を出したかと思うと爆風を散らしながら爆ぜた。

 ゴルトスはその炎の中に包まれ、姿が見えなくなってしまった。

 俺が剣の水を止めると、マリンがため息を漏らした。

「流石龍族、自爆で終了なんてしてくれないわね……」

 マリンはノコギリを肩に担いで、気だるそうに呟く。

 すると煙の中から青い光が覗き、強風が巻き起こって煙を散らしていく。

 ぼんやりと青緑に光るその姿を睨んでいると、地面が大きく揺れ動く。

「二人とも、今すぐその場から離れなさいっ!」

 マリンの叫びに気圧され、俺とゲルニカは素早く後ろに下がる。

 すると先ほど俺達の居た場所の地面に、長い亀裂が入っていく。

 そして亀裂から光が漏れ出すと、次の瞬間には炎が吹き上がる。

「ゴルトスと言ったっけ。あんたは私達を分断するのが目的だったわけ? それならば随分と回りくどい方法を使ったわね」

 炎の向こうでマリンは苦笑して、ノコギリをゆっくりと構える。

 するとゴルトスは口を歪めて、静かに笑った。

「絶対に誰も殺すな、との命令でな。そしてもう一つ、血の満月の力を持つ者を食い止め、剣士と魔法使いの少年の二人のみを通せとの命令だ」

 ゴルトスは翼を大きく開き、マリンに向かい飛び掛かる。

 鋭い爪をマリンに向けると、強靭な筋肉を使い薙ぎ払った。

 マリンはそれをノコギリで受け止めると、ノコギリに氷を這わせていく。

「こいつはあたし達が目的みたいよっ! ハルトとゲルニカ君は早くティルダを止めに行って頂戴! 時間がもう無いのよ!」

 マリンが叫ぶと、力の弱まったタイミングを見極めたゴルトスが一気に押し込む。

 するとマリンは弾き飛ばされて、一本目の柱に背中から激突する。

「俺ら二人でティルダと戦えるわけないだろが! まずはゴルトスを倒してから……」

「間に合わないって言ってるでしょ、早く行きなさいよっ! あたし達は後から向かうわっ!」

 マリンは柱の根本に舞う砂煙から素早く飛び出して、再度叫んだ。

 その叫びは狂気じみた怒りが感じとれる程に、強く響いてきた。

 俺とゲルニカはその本気さに押されて、後ろを向いて走り出した。

 その先にはティルダが居ると思われる、巨大な扉があった。

「行くぜゲルニカ、せめて限界までティルダを食い止めるぜ……」

 ゆっくりと深呼吸しながら、俺はそびえる扉に手を振れた。

「ええ、皆を取り返す為に頑張りましょう!」

 ゲルニカの力強い声に俺は安心して、ぐっと扉を押した。

 すると扉はその見た目に反し、あっさりと音を立てて開きはじめる。

 俺達は人一人分程度開いた瞬間、その中へと飛び込んでいった。

 玉座の間はがらりとしていて、その先にぽつんと玉座があった。

 そこには座りながら、俺達をじっと見ているティルダが居た。

 彼女は純白のドレスを身に纏い、にっこりと笑っていた。

 だがティルダの姿は前と違い、完全に人間の少女のものとなっていた。

 知らない者が人間だと聞かされれば、それを疑う者はいないだろう。

「ふふふ、ようこそいらっしゃいました。ハルトにゲルニカ……」

 玉座からゆっくりと立ち上がり、笑顔のままスカートをくいと上げる。

「わたくしも望むのならば戦いたくはありませんわ。ここで諦めて頂けるのでしたら、あなた達を無傷で帰して差し上げますわ」

 ティルダは首を傾げて、可愛らしく目を細めて呟いた。

 剣を握る自分の手に、自然と力が入っていく。

 俺は床をなぞりながら剣をティルダに向けて、ぐっと睨み付ける。

「そうはいかない! 皆揃って王国へと帰る、それが目的だからな!」

 そう吐き捨てると、ティルダは少しだけ悲しそうな顔を浮かべた。

 しかしすぐに顔を凍らしてゆき、鋭い瞳で俺達を見た。

 するとその全身から、禍々しい魔力が溢れ出てゆく。

 魔力は止まることも知らずに溢れ、純白のドレスを漆黒に染め上げていった。

「やはり駄目でしたか、彼女らよりは可能性があると思ったのですが……ならば仕方ありませんね。魔神姫ティルダ、魔物の王として、あなた達をここで葬る!」

 ティルダが叫ぶと黒い魔力は波動を放ち、その形を固めていく。

 動きが止まると魔力はティルダのドレスの上に、紫の鎧を造り出していた。

 ティルダは天に手をかざし、手のひらに魔力の玉を作り出した。

 そしてそれを握り潰すと、瞬時に伸びてゆき一本の槍へと変化した。

「二千年間募り募らせてきたこの思い、こんなところで終わらせたくなんかないですわ。何をしようと、絶対に勝ってみせますわ。あなたが思い出してくれるまで!」

 ティルダは後ろをちらりと見て微笑み、こちらをぎらり光る目で睨んだ。

 槍をぐるぐると回転させながら、低い姿勢でこちらへと突撃してくるティルダ。

 床は槍が擦れるたびに、ガキンと音を立てて砕けていく。

 ティルダは俺の目の前まで来て、ぴたりと槍の回転を止めた。

 後ろに下げた腕を振り、槍を俺へ向けて突き出してきた。

 俺の横っ腹へと突き付けられた槍を、剣に沿わせて後ろへと受け流していく。

「鏡花水月、からの渦潮っ!」

 俺は捻らせた身体をそのまま回し、一回転の勢いを付けてティルダへと斬りかかる。

 一瞬驚いたような顔をしたティルダだったが、すぐに鋭い目に戻った。

「そうはさせないですわっ!」

 ティルダは地面を蹴って振り返り、槍の柄で渦潮を受け止めて押し返した。

 そしてにこりと笑って、瞬時に後ろに下げた槍を突き出してくる。

 俺は剣を弾かれたため隙が生じ、そこを突かれそうになっていた。

「まだ終わらせねえよ!」

 剣を指先で軽くなぞって、強く念じた。

 すると剣の根本から水が吹き出して、天井までぶち当たる。

 その水流の勢いに任せて、剣をティルダの槍へと振り下ろす。

 槍は地面に向かい叩きつけられ、バラバラに崩れさっていく。

「ぐうっ……!」

 ティルダは小さく悲鳴をあげ、後ろに下がろうとする。

 その瞬間ティルダの背中へと、炎の塊がぶつかってくる。

「――デストロイフレイム!」

 ゲルニカの声とともに、炎から目映い閃光が放たれる。

 何が起こるのかを察した俺は、剣を地面に向かい振る。

 水流は地面を抉りながら、俺を後ろへと押していく。

 その勢いで俺が後ろに飛んだ瞬間、目の前の炎が広がってゆくのが見えた。

 床が音を立てて割れ、瓦礫が飛び散っていく。

 俺は弱めた水流を後ろに撃ち、速度を弱めていく。

 巻き起こる砂煙の外で、その光景をじっと見つめていた。

 十秒ほど経ち炎がゆっくりと止んでゆくと、砂煙の中に人影が揺らめいたのが見えた。

 砂煙が消え去ると、そこには唖然とした顔で上向くティルダが居た。

 何も言わず動こうともしないティルダを睨み、俺はぼそりと溢した。

「どうなんだ、そろそろ諦める気になったか?」

 俺はゆっくりとティルダへと近づき、その表情を確かめようとする。

「まだです! 近づかないでください!」

 ゲルニカが叫び、杖の先に魔力を溜めはじめる。

 その時、ティルダの方から何重もの魔力の波動が放たれる。

「意味がわからないですわっ……人間にここまで追い詰められるなんてっ……ならば私も本気を出さざるを得ないですわねっ!」

 口を限界まで吊り上げて、静かに笑ったティルダ。

 そしてがくりと腰を前に倒し、床に手を付いた。

「わたくしの命を掛けた技、あなた達に突破できるかしらっ……!? ――スピアレイン!」

 ティルダはそう叫ぶと、地面に爪を突き立てて握り締める。

 そして急に喘ぎ苦しみはじめ、目から血の涙を流していく。

 するとその身体から魔力が溢れ出し、天井へと昇っていく。

 膨大な魔力は天井を包み込み、隙間無く真っ黒に染め上げた。

「っはあ……くっ……これで準備はできましたわ……針串刺しになりなさいっ!」

 ティルダは床を握っていた手を離すと、背筋を伸ばしてその手を天にかざした。

 そして手のひらをくいと下げると同時に、口から血を吐き出した。

「魔力結界っ!」

 ゲルニカが杖を振ると、俺の目の前に黄色い透明な魔力の壁が広がる。

 その直後に天井に張り付いていた魔力がどろりと垂れ下がりはじめる。

 魔力の雫は大量の槍となって、俺達へ向かい降り注ぎはじめた。

 次の瞬間に槍はズカズカと音を立てて、結界に当たってきた。

 槍は結界に当たり弾かれるたびに、粉々に砕け散っていった。

 そのたびにティルダは、口から血をぼたぼたと溢れさせていた。

 そんなティルダの苦しんでいる顔が、少し笑ったような気がした。

 すると結界の一点にひびが入り、そこから槍の先が顔を覗かせた。

 完全に入ってはこなかったが、額を掠った槍に恐怖を覚えた。

 俺は焦りながら剣で振り払うと、槍は真っ二つに割れて、後ろ側まで割れ切った。

 そして安心したのも束の間、絶え間なく降る槍は結界にひびをどんどん入れていった。

 もう少しで壊れるんじゃないかと思われた時、槍の雨はぴたりと止んだ。

 ゲルニカが杖を振るのが見えたかと思うと、結界は消えていった。

 そこに残っていたのは、地面にびっしりと突き刺さった槍と、満身創痍で倒れこむティルダの姿だった。

「耐えきられてしまいましたかぁ……はあ……うっ、もう一発かませる魔力が残っていれば良かったのになぁ……」

 か細い声で呟いたティルダは、ふらふらと立ち上がって、床に刺さる槍を一本抜いた。

 左腕で口に滴る血を拭い、うつろな目でこちらを見た。

「なんでそんな身体なのに、降参してくれないんですか!? もう戦えないですよ!」

 ゲルニカが声を上げて、腕を下に垂らした。

 悲しそうな目をしたティルダは、首を振って歯を食い縛り、目付きを鋭くしていく。

「わたくしはもう二度と離ればなれになんてなりたくないだけですわっ! 邪魔しないでくださいっ!」

 ティルダは覚束ない足で走り出し、俺へと弱々しい突きを放つ。

 そのまま下がるだけでも避けられそうなその突きを、剣で軽くいなした。

「おいもうやめろ! これ以上戦ったところで、お前にはもう勝ち目は無い!」

 今だ睨むのを止めないティルダに、俺は呼び掛けるように叫んだ。

「ぐぅぅっ! うるさい、うるさいっ! 諦めないですわっ!」

 ティルダは槍をもう一本引き抜くと、さらに突きを放とうとする。

 しかしそれでも、その突きに威力があるわけではなかった。

「……ふふふっ、ここまで引き離せばいいですわ。わたくしの一族に伝わる魔法――ディメンションスピア!」

 ティルダが叫ぶと、その身体は魔力に包まれていく。

 そして魔力はすぐに萎んでいき、消え去ってしまった。

 同時に槍が一本だけカラリと、目の前の床に転がった。

 俺は突然の出来事に、一瞬あっけにとられてしまった。

「……どこだ、どこに行った!?」

 俺は叫びながら、周囲をきょろきょろと見回した。

 見当たる死角は全て、スピアレインで破壊されてしまっている。

 隠れられるような場所なんて、どこにも見当たらなかった。

 それと同時に、動いている魔力も全く感じ取ることができなかった。

 ゲルニカもきょろきょろしながら、首を傾げていた。

 その時、ゲルニカの背後に魔力の塊が大きく膨れ上がっていくのが見えた。

 一瞬で肥大化した魔力が弾けると、その中から歪んだ笑みを浮かべたティルダが現れる。

「ゲルニカっ! 後ろに奴がいるっ、気を付けろ!」

 駆け出した俺の叫びは、ゲルニカには届かなかった。

 ゲルニカの腹から突き出してくる、無惨に突き刺さり、血で真っ赤に染まった槍。

 ゲルニカは震えながら下を向き、その意味をゆっくりと理解していった。

「……えっ、あれ……僕、刺されちゃったんですか……?」

 口から血が溢れ出して、紡いでいた言葉を掻き消していく。

 俺の視界がスローモーションになってゆき、槍を抜かれたゲルニカがゆっくりと後ろ向きに倒れていく。

「ティルダァァァァ!! よくもゲルニカをぉっ!」

 俺はやけくそになりながらも、ティルダへと向かい剣を振るった。

 しかしその軌道の先は、二本の槍の柄によって塞がれてしまっていた。

「……その少年、確かゲルニカ君でしたか。今ならまだ助かるかもしれませんわよ。今の内にゲルニカ君を連れて帰った方が良いですわっ」

 ティルダは息を切らしながら、必死に剣を押し返してくる。

 しかしその力は弱々しく、押さえるので手一杯といったところだった。

「へっ、俺は皆と一緒に帰るんだっての! 王様を一人置いて行けるかってんだよ!」

 ティルダの言う通り、このままではゲルニカは助からなくなってしまう。

 ならば短期決着を狙う、いや大丈夫、少し隙さえ作れれば助けられる。

 俺は手だけでなく、胴体を押し付けて前へと進む。

 血が滲み出て、刃を伝って赤く染める。

 痛みなんてものは、もはや感じなくなるほどまで必死になっていた。

 一気に押し込み、二本の槍を真っ二つに切り裂く。

 そして腕を伸ばし、ティルダの左腕を横に薙ぎ払った。

「ぐっ、左腕がぁっ!」

 跳ね飛んだティルダは地面を滑り、槍の一本を背に止まった。

 少しの時間、これで稼ぐことができた。

 俺はゲルニカへと駆け寄ると、その腹の傷口へ剣を当てる。

「どうしたんですの? まさか早く楽にさせてあげようと!?」

 ティルダは口に手を当て、ひっと叫んだ。

「そんなことはするわけねえよ。さあゲルニカ、もう一戦付き合ってくれ!」

 俺が大声で叫ぶと、剣が炎で包まれていく。

 その炎は俺の全身を包み込んでいき、傷を少しずつ癒していく。

 俺はゆっくりと立ち上がると、ティルダへと剣を向けた。

「……お前がまだ諦めないと言うならば、この剣で戦おう!」

 俺の言葉を聞いたティルダは目を閉じて、軽く微笑んだ。

 そして槍を掴んでふらふらと立ち上がり、俺を睨み付けてくる。

「そうですわ、これはどちらかが死ぬまで続く戦い、二千年前から続く未練の戦い……」

 ティルダは寂しそうに呟くと、槍をくるりと回して先端をこちらに向ける。

 こうして始まった第二ラウンド、俺はゆっくり息を吐き出すと地面を蹴った。

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