ジャック・オ・ランタンとの出会い 前編
回想編入ります。
ジャック・オ・ランタンがテーブルいっぱいのお菓子を食べている姿を、近くで見ていた魔女のおばあさんは、昔のことを思い出していました。
ジャック・オ・ランタンと初めて出会った時のことを――。
数年前のハロウィンの夜。
魔女のおばあさんは、いつものようにお菓子を作って、誰も来ないことに悲しんでいました。
ポーン……チクタク、ポーン……チクタク。
床に置かれた、古びた振り子時計がハロウィンの夜が終わったことを鳴り告げます。
「……毎年、誰も来ないねぇ。……来年も再来年も、ずっと来ないのかねぇ……」
魔女のおばあさんは、ため息を混ぜながら愚痴ります。
子供たちに笑って欲しいだけなのに。
子供たちは来てくれなくて。
毎年毎年、ハロウィンの夜は魔女のおばあさんが一人ぼっちで泣いています。
心を悲しみでいっぱいにして、泣いています。
【美味しそうなお菓子だね。食べる人はいないのかい?】
魔女のおばあさんが泣いていると、不意に誰かの声が聞こえました。
「……その声は誰だい? 子供たちじゃないね。
子供たちはお化けの国に行きたくないから、もうベットの中で寝ているはずだよ。
ヒッヒッヒ、姿を見せたらどうなんだい!?」
魔女のおばあさんは、声だけで姿が見えない相手に言いました。
【おやおや、これは失礼。空腹だったので、気を急いでしまったんだ】
声はそう言うと、魔女のおばあさんの前に姿を現しました。
「その姿……もしや、ジャック・オ・ランタンかい?」
【そうだよ? ハロウィンの夜だけに現れる、お化けのジャック・オ・ランタンさ。ところで、そのお菓子たちは食べる人はいないのかい?】
穴あきカボチャを被った黒い服の男性――ジャック・オ・ランタンは、テーブルの上のお菓子を見ながら答つつ、先ほどと同じ言葉を言いました。
「……ハロウィンの夜ならもう終わったよ。さっさとお化けの国に戻ったらどうなんだい?」
【確かに、ハロウィンの夜なら終わったね。でも、ハロウィンの深夜は始まったばかりだよ?】
魔女のおばあさんは呆れながら、ジャック・オ・ランタンの故郷であるお化けの国に帰るよう言いましたが、ジャック・オ・ランタンは屁理屈で返します。
【それに、ボクは夜明け前に帰ることにしているんだ。イヴェールが目覚める前までいたいから】
ハロウィンの翌日の朝日は、冬の聖人イヴェールが目覚める時と言われており、ジャック・オ・ランタンにとってはお化けの国に帰らなければならない時です。
「ヒッヒッヒ。屁理屈をこねるのは、聞き分けのない子供がするもんだよ。まぁいいさ。気がすむまでゆっくりしておいき。ああ、そのお菓子なら食べてもいいよ。子供たちはもう寝ちまっているだろうしね」
魔女のおばあさんはジャック・オ・ランタンの屁理屈に呆れながら、テーブルの上にあるお菓子をすすめました。
子供たちのために作って、子供たちに食べてもらえなかった哀れなお菓子たちを。
【それじゃあ、いただきます】
ジャック・オ・ランタンはそう言うと、カボチャの口元らしきの穴にお菓子を放りこむようにして食べ始めました――。




