ジャック・オ・ランタンと約束
【なんならボクが、そのテーブルいっぱいのお菓子を食べようか?】
不意に声が聞こえました。
魔女のおばあさんの家には、魔女のおばあさん以外いません。
「ヒッヒッヒ、この声はジャック・オ・ランタンかい? まぁ、子供たちに食べてもらえないお菓子なんて虚しいものさ。あたしゃ作るのは好きだが、一人でこんなには食べれない。お前さんが食べてくれるなら、虚しさはなくなるだろうね」
魔女のおばあさんが笑いながら、ジャック・オ・ランタンに勧めました。
すると、穴あきカボチャを被った黒いマントの男性――ジャック・オ・ランタンが現れ、テーブルいっぱいのお菓子を口の中に入れ始めました。
ジャック・オ・ランタンの食べ方を見ていると、噛んでいるというより、流し込んでいるように見えます。
【もぐもぐ、ごくごく。ゴックン。ふぅ、魔女のおばあさんのお菓子は、いつも美味しいね】
「ヒッヒッヒ。そりゃあそうだろうね。子供たちが笑顔になるよう、心を込めて作ったからねぇ……」
魔女のおばあさんは、涙をうっすらと浮かべて言いました。
どんなに心を込めて作っても、子供たちに食べてもらえないことに悲しくなって。
これからもずっと、食べてもらえないお菓子を作って悲しい思いをし続けることを思って。
【……お詫びと言ってはなんだけど、魔女のおばあさんにプレゼントしようかな】
「どんなプレゼントだい?」
魔女のおばあさんの悲痛な顔を見たジャック・オ・ランタンは、辛いことを感じさせて申しわけなく思ったのか、お菓子をくれた魔女のおばあさんにプレゼントをすることにしました。
【冬至の日の夕暮れに、都外れにある丘の頂上にいてね。その時に得られるのが、ボクからのプレゼントだよ】
「おやまあ、そりゃあずいぶん先で、しかも寒い時に渡すのかい。あたしゃ、もう年だから、風邪は引きたくないんだけどねぇ」
魔女のおばあさんは、プレゼントが渡される時を聞いて、おどけたような口調で言いました。
ただでさえ寒い日に、寒さが強まる時間にプレゼントをもらうため待つというのは、下手をすれば風邪を引いてしまいそうです。
【直接渡せないプレゼントだから、これしか方法はないんだよ】
ジャック・オ・ランタンは泣き笑うような声で言いました。
「ヒッヒッヒ。それなら、仕方ないねぇ。プレゼントをくれるのに、わがままを言うもんじゃないからねぇ」
魔女のおばあさんは笑いながら、ジャック・オ・ランタンの頼みを聞きました。
【それは良かった。それじゃあ、冬至の日を楽しみにしていてね】
ジャック・オ・ランタンはそう言うと、テーブルにまだ残っているお菓子を再び食べ始めました――。