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魔女のおばあさんととあるお化け  作者: キオ・ノアルド
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後日談2

長らくお待たせしてすみませんでした。

 それからしばらくして、ガチャッという音がすると、薬草を採りに行ったノエルが戻ってきました。

「……お帰りノエル。……薬草は見つかったかい?」

「ええ、数日分だけ採ってきたわ」

 ノエルは採ってきた片手一杯分の薬草を、魔女のおばあさんに見せながら言いました。

「……そうかい、お疲れ様……」

 魔女のおばあさんは微笑むように、ノエルに感謝しました。

どこか、泣き笑うみたいな感じになりましたが。

「……ノエル。お前さんに……伝えたいことがあるんだ……聞いてくれないかい?」

「? 伝えたいことってなに?」

 ノエルは首を傾げてました。

ですが、心では覚悟をしていました。

魔女のおばあさんが伝えたいことが、わかっていたからです。

「……この十年間。お前さんと過ごして……わたしゃあ幸せだったよ……ありがとう」

「どうして、そう言うことを言うの? おばあさんの病気は治るんでしょう?」

 ノエルは魔女のおばあさんの言葉を否定します。

いつか、魔女のおばあさんの不調が治るものだと信じていたからです。

「……わたしゃあ病気じゃなかったんだよ……ただ、寿命が尽きようとしていたのさ」

 魔女のおばあさんは現実をノエルに言います。

心苦しく思いながらも、精一杯ノエルに伝えます。

「……なら、あたしの作った薬湯は……むだだったの?」

 ノエルは泣きながら魔女のおばあさんに聞きます。

自分のやっていたことが、なんにもならなかったことを否定したくて。

「……お前さんの作った薬湯は……むだじゃなかったよ……。でも、寿命をほんの少しだけ……延ばしただけだったのさ。……最後に、お前さんと……話せるためにねぇ……」

 魔女のおばあさんは、自分に遺された時間を使って、ノエルへと言葉を紡ぎます。

「……おばあさんを喪ったら……あたしはどうしたらいいのか……わからないよ……」

 ノエルは泣きながら言います。

「……ノエル。わたしの愛しいお前さんを……遺してしまうわたしを許しておくれ……あとのことは……ジャック・オ・ランタンに伝えてあるから……」

 魔女のおばあさんに遺された時間は、もうわずかしかありません。

「……ノエル。……悲しみに打ちのめされても……強くお生き…………」

 魔女のおばあさんは最後にそう言うと、眠ったように息を引き取りました。

「……おばあさん? おばあさん!?

う……うゎぁぁぁ……!?」

 養母であった魔女のおばあさんの死に、ノエルは泣きました。

 あまりにも悲しくて。

 喪失の痛みが辛くて。

 真っ赤に腫らした目から、涙がどんどん出てきます。

まるで、止まることを忘れてしまったように。


 しばらくすると、ノエルの流した涙は収まりました。

きれいな顔には涙のあとがあります。

ですが、ノエルの心は喪失の悲しみに覆われたまま。

どんよりとした厚い雲に遮られた太陽のようです。

【……やぁノエル。涙は止まったかい?】

 そんなノエルに声をかける者がいました。

 ノエルと魔女のおばあさんを引き合わせた存在――ジャック・オ・ランタンです。

「……ジャック・オ・ランタン……おばあさんが……おばあさんが……死んじゃったよ……」

 涙が収まっていたノエルの涙腺は、言葉を発する度に、ヒビが入っていきます。

それでも、決壊することはありませんでした。

 そんな様子のノエルに、ジャック・オ・ランタンは言います。

【ノエル。人はね、永遠には生きられないのさ。生まれて老いて死んでいく。その繰り返しなんだよ】

「……じゃあ……あたしは……これからどうすればいいの……?」

【……そうだね。魔女のおばあさんの分まで、ノエルが生きていく。それしかないんだよ】

「……喪失の悲しみのなかで?」

【いいかいノエル。明けない夜はないのだから、悲しみという永い夜も、いつかは明けるんだ。その時まで、耐え忍んでいけばいいのさ】

 ジャック・オ・ランタンは言います。

彼なりにノエルの悲しみを癒やそうとして。

「……あなたはいつも優しいよね……」

 ジャック・オ・ランタンの優しさに触れられたノエルは呟きました。

 孤独だった自分を、同じ孤独だった魔女のおばあさんに引き渡したきっかけを作ったりしたことに。

 あのままだったら、遠からず親の後を追いかねなかった自分を、救ってくれたことに。

 心の中で感謝しました。

【……君たちが悲しむ顔を見たくないからさ】

 ジャック・オ・ランタンは、悲しげに答えます。

【さぁ、ボクたちが魔女のおばあさんのためにできる、最期の仕事をしよう】

 遺されたノエルたちが、最期に出来る仕事。

それは、亡くなった魔女のおばあさんを、お墓に入れることでした。

「……うん。物置からスコップを持ってくるわね」

ノエルはそう言うと、スコップを持ちに行きました。

【それじゃあボクは、魔女のおばあさんを外に運ぼうかな】

 ジャック・オ・ランタンはそう呟くと、魔女のおばあさんをお姫様抱っこをするように持ち上げて、外に運びました――。



次で完結します。

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