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「空色の授業」  作者: 翠野希
Ⅴ.追跡
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時の到来

 佳也から黄土が管理人を定年退職するという手紙が届いた。日暗は1年足らずで霧絵の具製作所を離れ、地上の門に就くことにした。佳也と佳宮が迎え、黄土の姿はすでにいなかった。所長が隠し持っていた「灰化原理」の論文について聞きたかったが、引継ぎの全てを佳也に託し、去っていた。

 日暗は2人に製作所で見た話をした。所長室の設計図に書かれた赤いバツを連ねたマークのことを話すと、兄妹は顔を見合わせた。

「それは白爆所有国の印です」

 所長は白色結晶を密輸し、地上の技術を得ていたのだ。


 これ以上好きにはさせない。

 地上の門の出入りを厳重にするため、警備団管轄にすることを提案した。誰がどのような目的で行き来するか、取り締まりを強化することで、白色結晶の輸送を防ぐつもりだ。誰も通らない門の関心は薄く、実現まで1年の時を費やした。


 同時に、黒色結晶の採集と研究を始めた。日暗は佳宮が記した地図と記憶を頼りに、再び海辺の洞窟へ向かった。黒い霧で眠らなくなるまで、少しずつ身体を慣らし、洞窟の奥に入り込んだ。深層部には想像以上に多くの黒色の結晶があった。100年前の黒い空はここから持ち出された結晶で起こったのではないかと思われるほどだ。


 用意したケースに詰められるだけの黒色結晶を持ち帰ると、佳宮は喜んだ。黒い石を見ると昼間でも落ち着くのだという。佳宮は同じく天上で密かに暮らす白爆被害者にも分けた。彼女のうぐいす色の目からお互いに地上の人間だと分かり、交流していた。

 

 2年間、日暗は地上の門を守るうち、白色への激しい感情は地上での記憶と共に遠退いていた。結晶の航路を断ったことで、目的は達成していた。

 しかし、灰谷が小夜を連れてきたことが眠った怒りを呼び覚ました。2人がかつての自分と佳宮に重なった。あの時から、何も変わっていない。地上にはまだ白爆が存在する。苦しむ人間がたくさんいるのだ。

 白爆の真相を知った日暗は何もせずにはいられなかった。

 

 日暗は最上層の門に辿り着いた。黒い空にしてから2度目になる今、手の中には白色結晶がある。

 ようやくここまで来た。4年間、怠惰に過ごしてきたとさえ思われる。怖れは少しもない。自分が事実を知らせなくてはいけないという使命感に満ちあふれていた。

 自らが書いた告発文を思い出す。


「全ては地上への無関心が招いたことだ。天上は地上の悲惨な戦争から目を背けてはならない。その戦争に天上で造られた白色結晶が使われているという事実からも。

 白色結晶は霧絵の具製作所から密輸され、白爆という恐ろしい兵器になり変わっている。残念ながら、いくつの白色結晶が地上に渡り、いくつの白爆が現存しているのか不明である。

 わたしたちはもっと地上を知らなくてはならない。無益な戦争や自然破壊に晒された人々や生命がいる。地上は天上と同じ世界を共有しているのだ。現実を分かち合うべきである。

 地上と天上の自由な行き来はまだまだ先のことだろう。しかし、天上の我々が開かれた目を持つことが何よりも大切である。天上は地上に目を向ける、新しい時代を迎える時だ」


 日暗は天上で最も重要な門を開いた。

本作を2年間書いてきて、1番変わったのは日暗です。初めは黒色を興味本位で使う自分勝手な研究者だったのですが、もっと切実な理由を抱えた人物ではないか、と考えたのです。白爆という答えは物語全体のメッセージも変えました。

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