失われた街
日暗が目を覚ますと、暗い洞窟の中にいた。
「大丈夫ですか?」
その声は穴の中で反響した。声の主は捜し続けていた佳宮だった。
それは日暗が地上に降りて1ヶ月後のことだった。
日暗は地上に降りた3日後、白爆が落とされた佳也の故郷に向かった。
道の途中、被害者の治療をする救済所と巡り会った。数十個のテントは、治療を待つ人や寝転がる重傷患者でいっぱいだった。異様だったのは、誰もが顔を隠し、下を向いていることだった。今だから分かるのは、白爆に晒された人たちは光を怖れるのだ。
その1つ1つを覗き、佳也の妹、加角佳宮を捜し回った。
丸1日掛かって、ようやく同じ街に住んでいた一家と出会えた。偶然にも遠出していて助かったそうだ。布を被った彼らはささやくに会話した。
「カヅノの娘さんね。あの後、誰も姿を見ていないわ」
「母親を診ていた医者に付いて、戦争で独りになった老人や子どもたちの世話をして歩いていたらしいねえ」
「家族を亡くなってしまった代わりに、みんなに親切だったそうだ」
出向いていた遠い山奥の村にいたなら、生きているかもしれないと言う。日暗は礼に水を渡し、教わった村を目指した。
その夜、日暗は救済所へ避難する人々の行列とすれ違った。中には足をなくした男性や背中全体に火傷を負った子どももいた。痛々しい身体を見続けることはできなかった。
目的の村の人にも出会い、佳宮のことを尋ねた。しかし、佳宮はその日訪れなかった上、村はすでに灰地となったという。確かめに行くと、山の岩壁も人家も削られていた。
それから白爆投下地に辿り着くのに2日掛かった。最初は佳也が余程、慎重な性格なのだと思っていたが、それだけ脅威の兵器なのだと今なら分かる。
街だったはずの土地は、見渡す限り目に焼き付くような白い灰と化していた。訪ねた村と違って、形があるものはほとんどない。どこにも音がなかった。最後には塵が落ちる微かな音さえなくなった。
行く先に全身真っ白な人物が立っていた。近付いて肩に手をかけると、目の前でばらばらと崩れ落ちた。一瞬の出来事だった。
「何するのよ!」
背中を泣き叫ぶ女の声が突き刺した。日暗が触れたのは、彼女の大切な人の亡骸だったのだ。
その後、日暗は周辺の地をさまよった。白爆の被害者は夜に活動すると分かり、昼と夜と同じ土地に足を運ぶことにした。闇夜に出会う生存者の目には、舞い降りる白い灰が映っているように生気がない。見上げた空はこの静かな地に関係なく、移り変わっていく。自分がいたはずの天上の存在が遠い。
これが地上の現実か。
白爆を知らないで生きていたことが何より恐ろしく感じた。
日暗は川の音、風で揺れる葉の音が聞こえると、そちらに足を向けた。普段、耳にする音にどれだけ安心することか。その夜、初めて耳にしたざざあという雨のような音に引き寄せられて歩くと、目の前に月の光を映した水面が広がっていた。
最後の記憶は近くの洞窟へ入ったことだった。




