表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「空色の授業」  作者: 翠野希
Ⅲ.白の追求
40/74

再出発

 コツコツコツ。

 窓をたたく音がした。

 誰だよ? おれは寝ぼけたままカーテンを開けようとして、ハッと手を止める。

 2階の窓をたたくやつは誰だ?

「青人」

 身構えた瞬間、よく知った声がした。みどりだ。カーテンを開けると、みどりが側のブナの木から手を振った。懐中電灯の灯りが枝の間を照らしている。

「何やってんの?」

 普段は慎重に行動するのに、時々、思っても見ないことをする。予定では8時にみどりを迎えに行くことになっていたが、念のためにと渡しておいた住所を頼りに来たらしい。

「あんまり早いから、ご家族を起こしちゃいけないな、と思って」

 時計を見たら、早朝4時だ。

「青いカーテンが見えたから、ここが青人の部屋だって分かったわ」

 そう言えば、前に青空が好きだという話はした。

 だからって木に登るか? みどりの言い分を聞いても、よく分からなかった。一見気を遣っているように聞こえるが、おれに気遣いはないようだ。呆れるのを通り越して、なんだか愉快だ。

「とにかく、こっち来な」

 いつまでも木の上にいられたんじゃ、心配だ。

 みどりは木の枝を力一杯に蹴って窓に飛び込んできた。手を広げてみどりを受け止めたが、勢い余って2人とも仰向けに倒れた。かっこ悪わりい。

「わっ、ごめんなさい!」

 みどりは慌てておれの上から避けた。

「大丈夫。おかげで目が覚めた」

 みどりは瞬きをした後、声を立てて笑い始めた。良かった、昨日とは打って変わって元気だ。

「それで、どうしてこんな朝早く来た訳?」

 大胆にも木の上からやって来た女の子は、急にばつが悪そうな顔をした。

「親の顔を見ると出られなくなりそうだから」

「無理して行かなくていいよ」

 最初からみどりは家族の元に置いていく気だった。だけど、みどりはすぐに首を横に振った。

「わたしは地上の人間として、黒い空の犯人を捕まえたいの」

「どういうこと?」

 うぐいす色の目が力強く光る。地上の人間としてとは、どういう意味だ?

「地上の戦争で使われている白爆という爆弾が関係しているみたい」

 白爆......? 知らない言葉だ。地上については知る術がない。地上から来た人は素性を隠す。天上から地上へ行った人は少なく、会ったことがない。

 みどりは白爆について語った。落とされた白爆は眩しい光と激しい爆風を放ち、街も人も飲み込む。散らばった破片は触れたもの全てを白い灰と化す。そして、跡には白い灰の山が積もるだけだ。

 想像しただけで、寒くなる。

「白爆を受けた人は白を怖れて、黒に安らぎを求める。夜や洞窟の中で活動したり、黒い服を着たりして。だから......」

 みどりは一瞬ためらったが、はっきりと口にした。

「灰谷さんと地上に来た誰かが空を黒くしたのよ。白爆を受けた人に違いないわ」

 だけど、疑問が残る。

「どうしてそいつは、空の描き方を知ってたんだろう? 地上の人は何も知らないはずだ。それに、初めて天上に来て、すんなり最上層に行けるか?」

 となるとやっぱり......。

「灰谷さんが教えたのか?」

 自分で答えて嫌になる。親切な人だから、あり得る。おれにだって空の描き方を教えてくれたんだから。

 灰谷さんは白爆の被害者を哀れんで脅威のない天上に連れて来たのかもしれない。その間に天上に色々について話をした。着いた途端、相手は一変、黒い空を描く異端者になってしまったのか?

「あの黒服の女の人が教えたのかもしれないわ。うぐいす色の目を持つのは地上の人間なの」

 みどりに言われて、どきっとした。確かに、あの人は白爆の被害者の特徴によく当てはまる。地上出身で、黒い服。それと、顔半分の火傷。

「後から冷静に考えれば、あの人、自分の都合の良いことだけ沢山話してた。もしかしたら、あの人が犯人なのかもしれない」

 辻褄は合うが、真実かどうかは分からない。2人で黙ってしまった。

「それからお父さんが言ってたんだけど、地上の人が天上入りを許可されるのは、事故かなにかでやむなく来てしまった場合だけだって。だから、灰谷さんと一緒に来たのが戦争被害者だとしても、天上に入ることができないんじゃないかって言ってたわ」

「それで日暗さんは記録に残さなかったのかな?」

 次々と疑問が出てくるが、答えは見つからない。それを知っているのは、日暗という人だ。

 窓の外を見ると、黒い空の片隅に白い靄が漂っている。あの向こうに、空のために闘っている人たちがいる。おれはみどりに視線を戻した。

「行くか?」

「もちろん」

 力強く頷く後輩を見て、立ち上がった。

 

 

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ