若葉の色
彼女は差し出したおれの手を握り返して、笑った。名前はみどり、と名乗った。
「あ」
思わずおれは声を漏らした。やっと笑ったみどりははてな、と首を傾げた。
「あんたやっぱ力強いな。道理で木が揺れる訳だ」
実際、おれの昼寝していた木は、みどりの拳で揺れ動いた。だけど、女の子には正直に言っちゃいけないことがあると、この後、学んだ。
「悪かったわね。怪力でっ」
と、みどりは言うやいなや、ぐうっと力を込めておれの手を握り締めてきた。
「いってぇ!悪い意味じゃないってば」
みどりはむっとした顔で手を振り払う。むきになったのがまた可笑しくって笑ってしまった。彼女が目を細めたのを見て、慌てて言葉を継いだ。
「ヤな気持ちにさせたなら、ごめん。でも、良い意味で言ってるんだ。力持ちだと、絵の具だのなんだの、いっぱい道具を持ち歩けるから、職人に向いてるんだよ」
そこまで聞くと納得したのか、みどりの細めた目は、もとの丸い目に戻った。よく見ると、みどりの目は鶯色をしていた。それでみどりか。
と、いけない。
仕事柄、といってもまだ修学の身だけど、新しく出会ったモノとか人の色をついつい観察してしまうクセがある。このまま観察していたら、またみどりは眼を細めるだろう。
そこで、おれは本来の話を切り出した。
「じゃあ、アトリエにおいでよ。おれの描き方を参考にしたらいい」
みどりは少し考えていた。たぶん、気分を損ねた相手に教わるべきかしら、などと思ったのだろう。だけど、彼女は頷いた。
「ありがとう。ぜひ見たいわ。何も知らないから、たくさん質問するかもしれないけど、教えてください」
とても素直な返事だ。
みどりの緑は、きっと、大きく育つ可能性を秘めた、若葉のような色だな。
おれは、出会ったばかりの後輩の成長が楽しみでならなかった。