街の光
眼下の天上の街は、光の集合となって見えた。それは希望の光にも見えるし、儚い灯火にも見える。始発に乗って来たと言うのに、まるで夜景だ。
隣りにいる青人は、その街を指差して言う。
「駅は中央で、地上への門は西北西...みどりの家はどこにあんの?」
「わたしの家は、真北よ」
天上の街は研究層へ向かう駅を中心に、十六方位に分けて言い表す。
「じゃあ、門に行ってから、みどりの家族に地上の話を聞こう」
「うん。青人の家は?」
「北北東。でも、家には行かないよ」
「良いの?」
「うん。里帰りはまた今度」
今度があるか分からないよ。
と言いそうになったが、やめた。それじゃ、空を取り戻す自信がないって言うのと同じだから。
電車は滑らかに曲線を描き、駅に到着した。
わたしたちは電車を降りると、北西区の地図をもらい、街外れの地上の門へ向かう。
「みどりさ」
青人は街の光を見つめて言った。
「おれも、本当は怖いんだ。灰谷さんがこの事件にどう関わっているのかを知るのも怖いし、空を真っ黒にしたヤツのことも怖い。だけど、おれたちの街をこのままにはできない。朝の街は赤や青や、いろんな色の屋根も見えたし、空に伸びる時計塔や協会もあった。それは、空が見せてくれていたものなんだな。だから怖いけど、立ち向かわなくちゃいけない」
青人はそこで話を切り、わたしの目を見た。
「この先、危険なことがあるかもしれない。その時は自分の身を守ることを優先してくれよ」
「分かったわ。青人もね」
青人は頷くと、にっと笑った。
「約束だぞ。みどりは無茶しそうだからな」
「えっ、そう見える?」
驚いて聞くと、青人はハハッと明るく笑った。
「予想外の行動をしたり、言ったりするから。みどりが大筆を振ったこと、忘れられないよ」
そうなのかな?自分ではよく分からない。でも、空を描いた時の気持ち良さははっきり蘇った。
「青人、空が元通りになったら、描き方を教えてくれる?」
「もちろん」
「これも、約束ね」
それから、わたしたちは仄暗い街外れを目指し、進んでいった。




