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「空色の授業」  作者: 翠野希
Ⅲ.白の追求
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街の光

 眼下の天上の街は、光の集合となって見えた。それは希望の光にも見えるし、儚い灯火にも見える。始発に乗って来たと言うのに、まるで夜景だ。

 隣りにいる青人は、その街を指差して言う。

「駅は中央で、地上への門は西北西...みどりの家はどこにあんの?」

「わたしの家は、真北よ」

 天上の街は研究層へ向かう駅を中心に、十六方位に分けて言い表す。

「じゃあ、門に行ってから、みどりの家族に地上の話を聞こう」

「うん。青人の家は?」

「北北東。でも、家には行かないよ」

「良いの?」

「うん。里帰りはまた今度」

 今度があるか分からないよ。

 と言いそうになったが、やめた。それじゃ、空を取り戻す自信がないって言うのと同じだから。


 電車は滑らかに曲線を描き、駅に到着した。

 わたしたちは電車を降りると、北西区の地図をもらい、街外れの地上の門へ向かう。

「みどりさ」

 青人は街の光を見つめて言った。

「おれも、本当は怖いんだ。灰谷さんがこの事件にどう関わっているのかを知るのも怖いし、空を真っ黒にしたヤツのことも怖い。だけど、おれたちの街をこのままにはできない。朝の街は赤や青や、いろんな色の屋根も見えたし、空に伸びる時計塔や協会もあった。それは、空が見せてくれていたものなんだな。だから怖いけど、立ち向かわなくちゃいけない」

 青人はそこで話を切り、わたしの目を見た。

「この先、危険なことがあるかもしれない。その時は自分の身を守ることを優先してくれよ」

「分かったわ。青人もね」

 青人は頷くと、にっと笑った。

「約束だぞ。みどりは無茶しそうだからな」 

「えっ、そう見える?」

 驚いて聞くと、青人はハハッと明るく笑った。

「予想外の行動をしたり、言ったりするから。みどりが大筆を振ったこと、忘れられないよ」

 そうなのかな?自分ではよく分からない。でも、空を描いた時の気持ち良さははっきり蘇った。

「青人、空が元通りになったら、描き方を教えてくれる?」 

「もちろん」

「これも、約束ね」

 それから、わたしたちは仄暗い街外れを目指し、進んでいった。

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