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「空色の授業」  作者: 翠野希
Ⅰ.空を描く人
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みどりと、あおと

「自由に描けって何よ!」

 わたし、空色職人学校1年生、林野みどりは憤慨していた。空の職人になろうと意気込んで入学した学校の、初めての授業でのことだった。描き方の技術も心得も、何の説明もなく、わたし達一年生は、2週間後に初めて描く空を提出することになっている。とにかく自由にって、無責任にもほどがあるわ。今は何をどうしていいか分からず、近くの森の道を宛もなく歩いている。

「学校ならちゃんと教えなさいよっ」

やり場のない苛立ちが込み上げ、脇に立っていた木を、ドンッと拳で突いた。

次の瞬間、わたしはとして木を仰ぎ見た。微かに、低いうなり声が聞こえた気がする。

 獣がいるの.......?

 しばらく身構えながら周囲を見渡したが、何の気配もない。

 気のせいか......。

「うちの学校は育てるところであって、教えるとこじゃないんだよな」

 わたしはハッと上を向き、再び木の上を見回した。しかし、声の正体は見つからない。今のは誰?

 背後の木がガサガサと音を立て、ひとりの人間を地面に下ろした。見たところ、1つか2つ年上の、やせた少年だった。予想外の場所から現れたから、不覚にも声を立てて驚いてしまった。

「仕事は教わるもんじゃない。覚えるもんだよ」

 少年は驚いたわたしを面白がるように、にっと笑った。ムカッと来て、言い放った。

「じゃあどうやって描けっていうのよ。方法の1つくらい、教えてくれたっていいじゃない」

 腹立たしい顔に背を向けて去ろうとした時、

「おれは刷毛と筆で、霧絵の具を使って描くけどね」

 と彼は言った。思わぬ答えに、わたしは再び驚いて振り返った。

「どうして教えてくれるの? 教えないんでしょ」

「教えないとは言ってないよ」

 彼はまた、にっと笑って答えた。

「黙ってるやつには教えない。だけど、聞いてくるやつには、誰だって必ず答えるよ」

 よく見たら、その笑顔は屈託のない、明るい笑顔だった。

「おれはアオト。青い人って書いて『青人』ってんだ。あんたは?」

しばらく、わたしは彼を見つめたまま、返事ができなかった。彼は一瞬、不思議そうな顔をしたが、時が止まったわたしが可笑しかったのか、いっそう明るく笑い返してきた。気付くと、手まで差し出されていた。

「あんたって、面白いな。よろしく!」


 これがわたしと青人との出会いだ。 


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