疑いのグレイ
「君が青人くんか?」
おれを呼び止めたのは、上空警察の2人組だった。数秒黙っていたが、素直に答えることにした。
「はい」
「君の先輩の、灰谷について聞きたいんだ」
「灰谷さん、ですか?」
おれが聞き返すと、警官はちらりと周囲を伺い、
「別なところで話を聞こう。一緒に来てくれ」
と歩き始めた。
何だろ。
おれはますますヤな予感がして、心臓がどくどくして来た。
「青人、しっかりしろ」
山吹が声を掛けてくれて、少し落ち着いた。
誰もいない部屋に入ると、年長の警察官が聞いて来た。
「灰谷と最後にあったのはいつかな?」
「灰谷さんとは地上研修に行って以来、会っていません」
「となると、天上に帰っていたことも知らないんだな?」
「帰って来たんですか?」
研修は、実務経験2年以上で行ける。最も空が美しく見えると言う地上におり、空を観察するのが目的だ。だけど地上を嫌って、希望を出す人はごく稀だ。
研修の期間は確か、半年間と言ってたから、まだ帰って来るはずがない。
「最後に会った時、変わった様子はなかったか?」
「いえ…」
若い警官が手帳に何やら書き込んでいる。
「どうして灰谷さんのことを調べているんですか?」
「今日、捜査に回ったところ、最上層の投写室で倒れていた灰谷を発見したんだ」
「最上層の投写室に…?」
「今回の事件に関与している疑いがある」
言われた瞬間、言葉も出なかった。重い沈黙が目の前を漂う。
「…灰谷さんはこんな事件に関わるような人じゃありませんよ」
だって誰よりも空が好きな人だから。
「倒れてただけなら、他の警備員と変わらないでしょ?」
と、ずっと話を聞いていた山吹が口を挟む。
「警備以外にいたのが、灰谷だけなんだ」
若い警官が手帳をめくりながら答えた。
「今、灰谷さんは警察にいるんですか?」
「いや、逃げたんだ。救急車に乗せる時になって、運んだ担架はカラになってたらしい。気を失った振りでもしてたんだろう」
「今でも起きない人がいるのに、か」
と山吹は呟いた。
余計なこと言うなよ。とおれがにらむと、山吹は悪い、と目を伏せた。
「何か思い出したら教えてくれ」
と警官は連絡先を残し、去って行った。
「青人、また顔色悪いぞ」
「…大丈夫だよ」
灰谷さんは、どうして最上層にいたんだ?何かあったのか?
何かがあったとすれば…地上?
「山吹、帰ろう」
「あ?ああ」
「…休みたいんだ」
山吹が意外に思っても無理はない。
おれは一人で行きたい所があるから。




