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「空色の授業」  作者: 翠野希
Ⅱ.異端の空
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疑いのグレイ

「君が青人くんか?」

おれを呼び止めたのは、上空警察の2人組だった。数秒黙っていたが、素直に答えることにした。

「はい」

「君の先輩の、灰谷について聞きたいんだ」

「灰谷さん、ですか?」

おれが聞き返すと、警官はちらりと周囲を伺い、

「別なところで話を聞こう。一緒に来てくれ」

と歩き始めた。


何だろ。

おれはますますヤな予感がして、心臓がどくどくして来た。

「青人、しっかりしろ」

山吹が声を掛けてくれて、少し落ち着いた。


誰もいない部屋に入ると、年長の警察官が聞いて来た。

「灰谷と最後にあったのはいつかな?」

「灰谷さんとは地上研修に行って以来、会っていません」

「となると、天上に帰っていたことも知らないんだな?」

「帰って来たんですか?」


研修は、実務経験2年以上で行ける。最も空が美しく見えると言う地上におり、空を観察するのが目的だ。だけど地上を嫌って、希望を出す人はごく稀だ。


研修の期間は確か、半年間と言ってたから、まだ帰って来るはずがない。

「最後に会った時、変わった様子はなかったか?」

「いえ…」

若い警官が手帳に何やら書き込んでいる。


「どうして灰谷さんのことを調べているんですか?」

「今日、捜査に回ったところ、最上層の投写室で倒れていた灰谷を発見したんだ」

「最上層の投写室に…?」

「今回の事件に関与している疑いがある」

言われた瞬間、言葉も出なかった。重い沈黙が目の前を漂う。


「…灰谷さんはこんな事件に関わるような人じゃありませんよ」

だって誰よりも空が好きな人だから。


「倒れてただけなら、他の警備員と変わらないでしょ?」

と、ずっと話を聞いていた山吹が口を挟む。

「警備以外にいたのが、灰谷だけなんだ」

若い警官が手帳をめくりながら答えた。


「今、灰谷さんは警察にいるんですか?」

「いや、逃げたんだ。救急車に乗せる時になって、運んだ担架はカラになってたらしい。気を失った振りでもしてたんだろう」

「今でも起きない人がいるのに、か」

と山吹は呟いた。

余計なこと言うなよ。とおれがにらむと、山吹は悪い、と目を伏せた。


「何か思い出したら教えてくれ」

と警官は連絡先を残し、去って行った。


「青人、また顔色悪いぞ」

「…大丈夫だよ」

灰谷さんは、どうして最上層にいたんだ?何かあったのか?


何かがあったとすれば…地上?


「山吹、帰ろう」

「あ?ああ」

「…休みたいんだ」

山吹が意外に思っても無理はない。


おれは一人で行きたい所があるから。

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