紺藤の証言
紺藤は眠りの中、記憶を辿っていた。
元々、空と高いところが好きで、最下層の街より上の仕事を探していた。
空色職人は面白そうだが、絵は得意ではない。
風読み師などの研究職も性に会わない。
体力と剣道には自信があったから、上空警察と空層階段の警備の採用試験を受けた。どちらも合格したが、迷わず警備を選んだ。
それは高い空にずっといられるから。
夢の中でも、空の階段にいた。
いつもと違って階段に座り、のんびりと星空を眺めている。星の光が特別明るい日は、制服にも星が写る。
腕に写ったカシオペアを見ていると、階段の下に誰かが立っていた。
子どものように小さな黒い影だ。
立ち上がったが、めまいを覚えて自分の体を支えられずに、階段に身を預けた。
さっきまであったカシオペアが、袖口から消えていた。雲でも出たのかと空を見上げると、その先には何もなかった。
いや、空の端から、暗闇に飲まれて行った。
その暗闇は、あの影から広がっていた。やがて紺藤も影に飲まれそうになり、必死で逃れようとするが、動けない。
誰かが遠くで、名前を呼んでいる。段々と声が近づいて来る。
「紺藤さん」
おれが3度目呼ぶと、紺藤さんは目を覚ました。
「起こしちゃってすいません。苦しそうだったんで」
「大丈夫ですか?」
「…青人と、山吹か」
紺藤さんはかすれた声で答え、天井を見た。
「…ここは?」
「病院ですよ」
紺藤さんは暗い窓の外を見やって言った。
「夢じゃない、か」
「夢ですか?」
山吹が聞くと、紺藤さんはゆっくりと、さっきまで見ていた夢を話してくれた。
「小さな影って、青人の見たって言う女の子じゃないですか?」
おれも同じことを思い出したが、紺藤さんは首を振った。
「どこまでが現実なのか分からないから、何とも言えないな。ただ、おれが気を失う前に、最上層の階段に予定外の人物が現れたのは確かだ。残念ながら、それが誰だったのか、何があったのか、よく思い出せないが」
そこまで言った紺藤さんは、ハッとした顔をした。
「葵さんは、無事なのか?」
おれと山吹はちらりと目を合わせ、重く頷いた。
「まだ訪ねていませんが、運ばれて来たのは見ました」
「…もし様子が分かったら、教えてくれないか?」
紺藤さんは俺たちと約束した後、安心したように目を閉じた。
廊下に出ると、山吹が口を開いた。
「どうするんだ?」
「…待つしかないよ」
本当は葵さんの病室も訪ねようとしたが、面会謝絶を言い渡された。
もう一度、葵さんの様子を聞こうと受け付けに向かう途中、背後から呼び止められた。
「君が青人くんか?」
振り返ると、2人組の警察官が近付いて来た。
何だか、ヤな予感がする。




