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「空色の授業」  作者: 翠野希
Ⅱ.異端の空
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紺藤の証言

紺藤は眠りの中、記憶を辿っていた。


元々、空と高いところが好きで、最下層の街より上の仕事を探していた。

空色職人は面白そうだが、絵は得意ではない。

風読み師などの研究職も性に会わない。


体力と剣道には自信があったから、上空警察と空層階段の警備の採用試験を受けた。どちらも合格したが、迷わず警備を選んだ。


それは高い空にずっといられるから。


夢の中でも、空の階段にいた。

いつもと違って階段に座り、のんびりと星空を眺めている。星の光が特別明るい日は、制服にも星が写る。


腕に写ったカシオペアを見ていると、階段の下に誰かが立っていた。

子どものように小さな黒い影だ。


立ち上がったが、めまいを覚えて自分の体を支えられずに、階段に身を預けた。


さっきまであったカシオペアが、袖口から消えていた。雲でも出たのかと空を見上げると、その先には何もなかった。

いや、空の端から、暗闇に飲まれて行った。


その暗闇は、あの影から広がっていた。やがて紺藤も影に飲まれそうになり、必死で逃れようとするが、動けない。


誰かが遠くで、名前を呼んでいる。段々と声が近づいて来る。


「紺藤さん」

おれが3度目呼ぶと、紺藤さんは目を覚ました。

「起こしちゃってすいません。苦しそうだったんで」

「大丈夫ですか?」

「…青人と、山吹か」


紺藤さんはかすれた声で答え、天井を見た。

「…ここは?」

「病院ですよ」

紺藤さんは暗い窓の外を見やって言った。

「夢じゃない、か」

「夢ですか?」


山吹が聞くと、紺藤さんはゆっくりと、さっきまで見ていた夢を話してくれた。

「小さな影って、青人の見たって言う女の子じゃないですか?」

おれも同じことを思い出したが、紺藤さんは首を振った。


「どこまでが現実なのか分からないから、何とも言えないな。ただ、おれが気を失う前に、最上層の階段に予定外の人物が現れたのは確かだ。残念ながら、それが誰だったのか、何があったのか、よく思い出せないが」


そこまで言った紺藤さんは、ハッとした顔をした。

「葵さんは、無事なのか?」

おれと山吹はちらりと目を合わせ、重く頷いた。


「まだ訪ねていませんが、運ばれて来たのは見ました」

「…もし様子が分かったら、教えてくれないか?」

紺藤さんは俺たちと約束した後、安心したように目を閉じた。


廊下に出ると、山吹が口を開いた。

「どうするんだ?」

「…待つしかないよ」

本当は葵さんの病室も訪ねようとしたが、面会謝絶を言い渡された。


もう一度、葵さんの様子を聞こうと受け付けに向かう途中、背後から呼び止められた。

「君が青人くんか?」


振り返ると、2人組の警察官が近付いて来た。

何だか、ヤな予感がする。

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