望み見る
朝早く、けやき寮の全員が集まった後、寮母さんから休講の知らせを聞いた。2週間の期限が延長され、またいつまでになるか、未定らしい。
無理もない。だって、朝の時間が来ても、空は真っ黒なんだもの。
朝日が出ないなら、もはや朝なんかじゃない。
見たことのない現象を面白がる子もいたけど。一歩出れば、完全な闇だ。
こんな闇を誰かが描いたのかしら?それとも、何かの事故?
みんな口々にひそめき合う。
課題が延期になっても、やることがないために落ち着かない。
空の色一つでこんなに不安になるなんて思わなかった。
「みどり」
わたしを呼んだのは桃枝だった。
「大人しく、ここにいる?」
「出掛けようって言うのね」
闇の中をわざわざ出掛けるなんて変な提案だけど、寮にいたって仕方ない。
「何が起こるか分からないわよ。闇に転じて泥棒とか出るかも」
「だったら逃げるだけよ。こんな真っ暗じゃ、見つかりはしないわ」
危ないことを言う子だ。
「…わたしも行くわ。モモ一人じゃ心配だもの」
と言うのは建前で、怖いもの見たさの心がわいてしまった。
「それで、どこに行くつもりなの?」
「昨日行かなかった、2年生の実習棟よ。学校に行けば、誰か何か知ってるかも知れないわ」
確かに、空色職人の先生なら、この深い闇について知っているかもしれない。
学校が通常通り開いているのかは分からないが、他に行く当てもない。
「何があっても、後悔しない?」
わたしは桃枝に、慎重に聞いた。真っ暗闇から何が現れても、不思議じゃないだから。
「うん。みどりは?」
「わたしも後悔しないわ」
ただ待っているより、闇の中にも希望が隠れている気がした。




