はじまりの授業
この世で1番の芸術家は誰だと思いますか。
画家、映画監督、それとも建築家?有名ブランドのデザイナー、ダンサー、ロックバンドのアーティストはどう?
わたしはね、空の職人だと思いますよ。
知りませんか? あ、地上の皆さんはご存知ないでしょうが、空の上の人たちには周知の仕事ですよ。毎日の朝、昼、夜、世界中の空を彩る職人たちが沢山たくさんいるんです。
特徴的な空色をご紹介しましょう。
南の海に囲まれた島国は、霞がかってぼんやり優しいグラデーションです。青から紫、橙へと、大きく分けて3色ほど見られます。
北国の山々に囲まれた里は、とても淡い色使いです。冬の透き通るような薄水色は、切なくなるほど空の広さを感じます。わたしが特に好きな空色は、吹雪の続く厳しい冬の晴れ間の柔らかな水色ですね。
空を描くこの仕事は、とてもロマンがあり、人気な職業です。だけど、大変厳しい修行を乗り越えた限られた人しか空色職人にはなれません。毎年、試験で合格するのは5人いるかどうか、といったところです。
その試験を受け、職人になるために勉強するのが「空色職人学校」です。あ、ほら、あの空の片隅で、空色の授業が始まっていますよ。ちょっと覗いて行きましょうか。
「1年生の諸君、空を描く前に、最も大切なことを教える」
空の学校長が言いました。新入生の初めての授業のようです。
「毎日、空を見なさい。自分が見たい空、憧れた空をよく見つめることだ。そして、仲間とその空がどうして美しいのか、語り合いなさい」
1年生はわくわくしながら聞いていました。素晴らしい言葉です。常に目標を見据え、辿り着く道を友人たちと共に歩んでゆく。皆、目を輝かせて頷きます。
その目たちに、学校長もたくわえた白髭をなでながら、深く頷き返しました。と、次の瞬間、柔和な細い目をカッと見開き、
「第1の課題を言い渡す」
と鋭く言葉を発しました。1年生達は学校長の変貌に驚き、つられて目をパッと見開きます。
「2週間後までに空を1つ提出しなさい。以上」
その後、皆、ぽかーんとしました。一時静まると、口々に不安が飛び交います。
描き方は? 道具は? 基本のルールも何もないの?
もとの優しい目に戻った校長は、ざわめきの中、はっきりとした声で言いました。
「空は描き方も、道具も自由だ。ルールは今後の授業でゆっくり教える。まずは何ものにもとらわれず、好きな空を描いて来なさい。2週間後の今日までだ。いいね?」
再び、しんと静まり、1年生たちは真剣な眼差しで頷きます。なおも不安な目、考え込む目、やる気に燃える目......様々な目の色が、その想いを物語っています。
これが、空色職人学校の記念すべき始まりの授業です。




