第7話
聞きなれた音が俺の耳に飛び込んでくる。
言わずもがなレベルアップの音だ。頭上に大きく『Level Up!!』と出るのはもう慣れてきた。それと同時に湧き出るオレンジカラーのエフェクト。花火っぽい物ではなく、ほんわ~と空気中に広がる気体のようなものだ。
こればかりはどう表現したらよいかわからない。気体に着色したとでも言えば良いのか?
「ようやくレベル10になったわね……約二日かぁ」
意外にも時間が節約できた。
「レベル上げって現実のゲームと違ってしんどいなぁ……。あれはスパスパいくのに」
「あれとこれとは全然違うわよ? あんなのゲームって言えないわ!」
「へーぇやったことあるんだなレイカも」
「中学生のときちょっとね~」
そんな会話をしているうちに、彼女の家についた。現実という名目に置いては俺の家であるのだが、フィールドで何時間も狩り続けていたせいか、とてもなつかしく見える。旅行帰りでありがちな感覚だ。
「じゃあ夕食作ってくるね」
そういえば朝に例のブルーベリージャムトーストを食べたきりだったなぁ
。っと、いけないことを思い出してしまった。
あれはひどかったなぁ………。どうしたらあんな不味い料理が出来上がるか、直接本人に聞いてみたい。聞いたら首が吹っ飛びそうだけど。
30分ほどして、キッチンからこれはこれはおいしい匂いが漂ってきた。
現実でも嗅いだことのあるスパイシーなこの芳香…………これはっ!
「カレーっ!」
その感動のあまり口に出してしまった。レイカはその言葉に反応したようで、
「あーらよくわかったわねぇ、私もこれだけは得意なのよ。」
さらに数十分煮込んで、俺の大好物であるカレーは出来上がった。
スパイシーな香りを常時放つブラウンルーが、美しい装飾が施された皿に注がれてゆく……。ルーを注ぎ終わったところで、レイカはトースターらしき物が置いてある場所へ行き、朝食べた食パンを2枚取り出した。
レイカは料理をテーブルの上にすべて並べると俺を呼んだ。
「できたわよー」
こうなるとレイカが実母みたいに見えてきてしまう。彼女の髪型はどう見てもポニーテールで、髪色はクリムゾン。年齢も20代くらいの大学生みたいでとうてい母に見えないが、どことなく家庭的な雰囲気がする。
「うぉっ! じゃあいただきます!」
スプーンでルーを思いっきりすくい、パクっと口に入れた。その味は現実でのそれと同じ味わいだ。やや辛みは強いものの、カレー風味が口いっぱいに広がってとてもおいしい!
「うん。これめっちゃうまいぜ! 毎日食えるかも!」
「本当!? スキルの修練値も多いし毎日作ろうかな?」
「ぜひぜひ!」
まぁ根本的な理由はあの砂糖だらけのブルーベリージャムを二度と食べたくないということだが。それはさておき。
「ところでさ、レイカさんは何歳なの?」
「へ、私? 18歳だけど?」
「むぅ……てっきり20代かと……」
「失礼ね。まだ女子高生よ!」
「え……だったらなんで4時にここにいたの?」
「あぁ、もう推薦で大学決まってるからね。ところであんたは何歳なの?」
「へー……俺は……15歳だ。フツーの中学生」
「まー厨房な顔してるからそんな気したけどねー」
こんな会話を続けているうちに、皿の中のカレーは瞬く間に空っぽになった。俺は手を合わせてご馳走様と呟いて、こたつ部屋へと向かった。食べたあとに寝るとよく牛になるとか太るとか言われるが、ここは異世界であり、食べたものは体にほとんど影響を与えないため、食べ物はだいたい娯楽に分類される。
満腹感も空腹感もちゃんとあり、食べないと餓死してしまうということはないが、精神的に死にそうになるかもしれない。
俺はいつものこたつに入って、ぬくぬくとその温もりに埋もれながら眠りに落ちた。