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Soul World  作者: Hamlet
序章
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第6話

「はぁ……はぁ……はぁっ……はぁぁぁぁぁぁあああっ!」

 居合いとともに発せられた短剣、ナイフ共通スキル≪ブラッディネイル≫が俺の目の前にいた二匹のワームに命中し、二匹とも消滅する1撃目はワームの甲羅を抉り、2撃目はもう片方のワームを両断して――


 パァァァァアアアアン……

 きらきらとダイヤンモンドダストのようにワームを構成していたものは空気中に塵となって消えていく――

 なんとも美しい風景だ。あっちの世界では見ることができない幻想的な現象だ。


「慣れてきたわね」

 後ろから十分聞き覚えのある声がした。声の主はもちろんレイカだ。


「ふぅー。ようやく通常個体の茶色のを複数倒せるようになったよ」

 ワームは個体ごとに強さが設定されているタイプのMobで、一番弱いのが灰色で順に茶色、黄色、赤色という段階で強くなっていく。特定のフィールドに住まうタイプのワームはそれ以外の色だが、草原などに住むワームは、だいたいこの法則である。


 さらに大きさごとの戦闘力の違いもあり、スモールが最弱、無記名、ラージ、ジャイアントという順番に強くなっていく。さすがにジャイアントの個体はここのフィールドには出現しないが。まあ、要するに名前を見れば戦闘力がわかるのだ。さっき倒した通常個体は無記名だったのでそれなりの強さとなる。


「うわっ!」

 突如目の前に黄色の個体と赤の個体が1匹ずつポップした。どうやら彼らは俺に休む事を与える気がないらしい。ならば倒すまで!

「赤は私に任せて。黄色はあんたが倒して!!」


「おうよ!」

 例の≪ブラッディネイル≫を黄色ワームに見舞う。ワームの体力は4割ほど減少し、三連撃目のただの斬り付けでワームはノックダウンする。



「とりゃあああああ!」

 態勢を立て直そうと試みるワームに向かって、ナイフではなく手甲……つまり最初に装備ポーチにあった≪チープレザーハンドプロテクター≫での体術専用スキル、≪アサルト≫でさらにワームを遠くに吹っ飛ばす。

 なんていうか、このスキル手を使わないんだよね。


 そのまま間合いを詰めて、またまた形勢を立て直す前にナイフ専用スキル、≪シークエンススラッシュ≫を打ち込む。敵が反撃するか、攻撃を自分からやめるまでか、プレイヤーがディレイを受けない限り……連続で切り刻む、プレイヤーの腕前に依存するというスキル。

 それが≪シークエンススラッシュ≫――


 ようやくスキル制ゲームらしい技がご登場した。六連撃まで続いた俺のスキルはワームのライフをすべて喰らい尽くしていた。

 刹那――薄汚れた黄色い甲羅持ち芋虫は砕け散って消滅する。六連撃といったらすごく少ないコンボ数だが、それでもワームの活力を奪い取るのには十分すぎたようだ。


「すごいじゃない! 初心者で六連撃ってなかなかよ!」


「へーそうなんだ。ありがと」



 あれからワームをかたっぱしから狩り続けて、現在レベルは9になった。パーティーで狩っているので経験値は追加で貰え、さらに攻撃的な赤と黄色が現れてもレイカが支援してくれるのでレベル上げは順調に進んだ。当然こんなのでは死ぬこともない。レイカの言った事とは違い、かなり軽々とレベルが上昇している。これからもこのペースをキーピングしてもらいたい気持ちだ。


「さーて、あと1レベルあげたら家に帰りましょうかね」


「そうだな」

 と言って、再び俺たちは無差別にワーム狩りを始めた。レイカは疾風のようにフィールドを駆け回り、かたっぱしからワームとやらを片付けてしまった。おかげで俺の周りには幼虫のようなフォルムの連中は皆無。

 唯一いるのは俺が今手につけている黄色ワームだ。黄色といえばなかなか手ごわいようで、攻撃的かつ攻撃力もそれに比例している為か、前の灰や褐色と比べるとやけに高い。


 まぁ、さっきから何度か討伐しているんだけど。


「おりゃあっ……! ≪ベーシックスラッシュ≫!」

 さらなる追撃で格闘術専用スキル≪サマーソルト≫を見舞う。左足を大きく上げて遠心力を利用し、一回転して相手を蹴り飛ばす。若干のノックバック効果がワームに発生した。こんな芸当は現実の俺には到底できない。それができるこっちはなかなか爽快な場所だ。


「ギギギアアァ……」

 小さな悲鳴を上げたワームは塵となって消し飛んで行った。

 その数秒後、再びフィールドにワームがポップする。自分の目の前に数匹のワームが現れた。体色は茶色が三匹で……んん……!?


 さっき述べたように、このフィールドにワームは4種類の色しか出現しない。だが、視界に飛び込んできた五匹の中の一匹のみはその例に含まれない色だった。


「白……色……?」

 甲羅は白熱灯の光を帯びたような輝く白で、午後6時には沈みかけている夕日が反射し、より幻想的な雰囲気を醸し出すその白ワームは、他のワームを押し切って圧倒的な存在感を持っていた。数々のゲームをしてきた俺にとって、このような展開は大方理解できる。


「……はっ!」

 まずは厄介な黄色ワームをとっとと始末する。幸いなことに群れの中に一匹しかいなかったそれを、俺は比較的安全に倒すことができた。


 残った灰色一匹と茶色三匹をレイカには及ばないが、迅速に殲滅した。残るワームは一体、体色が白の固体のみ。

 白ワームは警戒しているようで、シャーッ! と、蛇に似た鳴き声で威嚇してくる。コイツのAIは他のワームと変わらないようだ。


 行動パターンも一緒で手こずらなさそうだが、油断は禁物。行動だけ同じで実はIA超過を即発させる即死級の攻撃力や、どんなに強い刃で切っても傷一つつかないほど堅牢なボディを持っているかもしれない。



「そいじゃ、狩らせてもらうぜ!」

 とりあえずは行動だ。

 そう言い放ち、今できる最大級の技、≪シークエンススラッシュ≫を目前の美しい発行体に向かって放つ――

 なんとか五連撃まで続いた攻撃は、俺の身に起きたディレイの発生とともに止まった。しかし、ワームの体力はまだ2割程度しか削れていない。残り8割残ったのだ。やはり予想通り固いボディだったようだ。まぁ刃が一方的に破壊されるほどのチート級の物ではなかったから安心した。


「固いな……」

 その後も騎士の鎧のようなボディに、次々と斬撃の舞いを入れる。 


 なんとかして半分まで体力を削った……すると、ワームは一気に間合いを取り始めた。


「野郎……逃げさせねーぞ!」

 突進技の体術スキル≪アサルト≫で、一気にワームとの間の間合いを詰めて己の力を存分に発揮する≪シークエンススラッシュ≫を放つ。

 そして――残り四分の一程度に陥ったワームの弱点、昆虫でいう胸と腹の間あたりに渾身の一撃の≪ブラッディネイル≫を見舞う。狙いがいまいちよく分からない弱点だが、当たり判定の範囲は広いようなのでよく決まる。


 攻撃は二発ともクリーンヒットで命中し、ワームと同じ色の白い塵と化して空気中に昇華していった。どこか……今までのワームとは消滅エフェクトがいろいろと違っていた。

 白い塵が雪のように宙を舞い、それが10秒間空気中に漂っていた。

「あんた……そのエフェクトは……。まさかホワイトワーム倒したの!?」


「うむ」

 大きくゆっくりと首を縦に振る。するとレイカは、

「……っ、 それレアモンスターよ! フィールドに二百分の一でポップするノーマルモンスター強化タイプの!」

 やはりそんなんだったか。


「確かに並みのワームより強かったな」

 俺の予測通りである。普通に考えて、そのフィールドで見たこともないようなモンスターがいきなりポップした場合、それはレアモンスターかボスモンスターというのはRPGの常識ともいえることだ。ましてや攻撃して異様にステータスが高かったらそれは決定的な証拠となる。


「あぁ。ホワイトワームからなんかドロった?」


「ちょっと見てみる」

 このゲームでドロップアイテムはモンスターの存在した場所に落ちるか、個人取得として勝手にポーチに入るかのどちらかになる。ちなみに、モンスターのいた場所には何もなかった。

 ポーチのほうを確認してみると何も変わった物はなかった……。モンスターの素材みたいな物もなく、原料タブにも新規のものはなく、消費タブにはかろうじて≪ライフポーション×2≫が追加されたのみ……だと思われた。


 俺はこんなところに入るわけないよなぁ。と思いながら半ばは期待を寄せつつ装備タブを開いた。

……あろうことかそこに新規入手品のマークがついたアイテムがあった。

 

 ≪雪姫の指輪≫

「な……なんかあったぞ。雪姫の指輪って……」

 見たものの名前を報告した瞬間、レイカは目を真ん丸にした。そんな、彼女が驚くほどの装備なのか? とこの装備に期待と疑念をぶつけた。


「そっ、それはホワイトワームを倒して20%の確率で入手できるレアアイテムじゃない!」

 20%ときたら5体倒して1体でるという低確率だ。それがたくさん出るMobだったら良いが、こいつはさっき確認した通り、れっきとしたレアモンスターだ。

 つまりワームを1000匹殲滅して手に入るというような高級品……それが装備タブに大げさに居座っていたのだ。


 はははは……。知らないうちに討伐数がそれくらいに達してしまったのかもしれない……。


 それとも、もしかしたら運使ってSP消費しちゃったかなぁ、とも思った。やっぱり今まで入手したポイント分、ちゃんとソルの合計金額の下に書記されてた。ようするに本当のラックが発動したみたいだ。

 リアルラックという名の純粋な運気が仕事をして。


「魔法使いの間でかなりの高値で取引されるよそれ!」


「いや! べつにまだ売るって決めてねぇし!」

 指輪の能力値ウィンドウを開くと効果は魔力+15、丈夫さ+5、経験値+5%と書いてあった。これはこれでなかなかの効果を持つアクセサリなのかもしれない。魔力+15も高い性能なのだろう。どれほど高額かは気になるところだが……。

「経験値プラスされるみたいだぞこれ!」


「まーそれも高い理由かもね。今使うのもいいかな」


「そいじゃこれは使いますかね」

 今まさに育ちざかりという年代……レベル代の俺なので、これは有効に使わせてもらうことにした。ウィンドウの一番下の「装備する」ボタンを押すと、左手の中指に指輪が出現した。美しい雪色のリングに、純白の宝石がはめ込まれていた。見た目も美しい。


 さっきの白いワームみたいだな。



裏設定

短剣、ナイフ共通スキル『ブラッディネイル』

 クリティカルヒットが発生しやすい初歩的なスキル。もともとの威力はそれほどなので、いかに急所に当てるかがこのスキルのキモとなってくる。



体術専用スキル『アサルト』

 ぶっちゃけ言うとただの突進。体術のスキルにはこういう感じの、ストレートなスキルが多いことで有名である。少しだけ進行方向を変えることができるが、素早く動くモンスターに対してはとっても当てにくいスキル。



ナイフ専用スキル『シークエンススラッシュ』

 作中の説明の通り、プレイヤーの技量によって攻撃数が変化する癖の強いところを前面に押したスキル。

 技量によっての止まる条件は、最後にした攻撃と次にする攻撃の間に間が空くこと。当たり前といえば当たり前だが。ユウスケは六連撃という記録を出した。これはレイカの言葉通りなかなかで、普通なら慣れてない武器の反復運動に疲れてしまうという人が多い。


 こう考えるとユウスケはナイフの素質があったりするかもしれない。

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