第4話
「ふぅ・・・・・。」
課題の最後の問題を終えて、俺は深い溜め息を吐いた。やはりかてきょが帰ってから少しばかり、PCゲームに没頭してしまった。時刻は9時35分頃――
俺はさっさとお風呂に入って寝床に入った。そして目をつぶりあの世界へ魂をつなぐ呪文を唱える――
「……ソウルリンク」
30秒もたたないうちに意識は朦朧としてきて眠りに落ちた。そして、あの世界の扉を開いた。
視界が明るくなる目の前に約3時間前見ていた光景が飛び込んできた。だが、既に何度も現実で同じような光景を見ている俺には懐かしくもなんともない。まあ部屋にある物はガラリと変わっているが。
「あ。来た来た」
この世界に来て初めて会ったプレイヤーがアイテムストレージを整理しながらこっちに向いた。
「どう、わかった? 何か聞きたいこととかある?」
いろいろ聞きたいこと?……よし、あのことを思いっきり指摘してやろう。
「8冊目の本に、100レベルのプレイヤーは周期が回ったら来た初心者をリードすること。と書いてありましたけど?」
「う……あ……それは……」
彼女はとてつもなく困った顔をしている。コイツの性格は完璧なる放任主義だろう。ちょっと気にかけていたことを指摘されたから困っているという解釈で違いないだろうし。
「ごめんね、あの時急用があったから面倒見るのできなかったのよ、だったら今から手伝ってあげるよ?」
「じゃあレベル10ぐらいまであげるのを手伝ってもらおうかな」
「レベル10かぁ……かなり長引くけどそれでもいいの?」
「えと、どれくらい?」
「現実時間で3時間ってとこね。」
現実時間で3時間というこはこちらでは3日ということになる。たったレベルを9あげるだけなのにここまで時間かかるというのは流石プレイヤースキル重視のゲームだ。いや、世界だ。と考えるとこの場所がゲームなのか異世界なのか分からなくなってくる。
もしかしたらその中間なのか? いや……それだとゲームの要素が多く見れるし……でも妙なほど鮮明だし……。
俺の頭の中で回っているそんな思考を彼女の言葉が停止させた。
「君名前なんて言うの?」
「へ? 悠木輔だけど?」
この瞬間俺はしまったと思った。普通に考えて明らかに現実以外のところで本名を名乗るのはおかしいだろう。
「あの……リアルじゃなくてこっちのプレイヤーネームよ。」
「…………まだ考えていない。」
「なら……ユウスケなんてどう? 悠と輔をあわせてユウスケって!」
確かにいいネーミングだ。おれの輔という字は「すけ」と読める。
「いい……かもな。」
「よっし…!」
「じゃ決定! あなたはこれからユウスケね!」
こんな感じで俺のこの世界での名前は決まったのだった。なんと素早い流れだったんだ。
こんなてきとーで大丈夫なのかソウルワールド。
あ……。この人の名前聞いてなくね?
「あの~。あなたの名前はなん……「あ! ちょっとアイテム見してくれない?」ちょ……」
名前は後で聞くとして、俺は空中にIの字を書いてアイテムストレージを呼び出した、それの1番上にあるボタンを押して公開モードにする。そうすると、彼女が俺の後ろに来て俺のアイテム欄を覗き込む。
最初は消費アイテムポーチが指定されていて、そこに赤い液体が入った瓶のマークが横についた≪ライフポーション×3≫の表記だけだあった。
「えっと、じゃあ装備ポーチ押して」
……どうやらライフを回復させるっぽい液体に興味はないようなので、俺はその横にある装備アイテムポーチを押した。瞬間、さっきあった表記は消え、新たなアイテムの表記が目に飛び込んだ。
≪チープレザーハンドプロテクター≫
「え、これ手袋? 武器じゃなくて?」
俺は見た瞬間反射的にそう言った。どのゲームでもこの名前だったら手袋に見えるだろう。いや、そう見ないほうがおかしいと思う。まずハンドという文字からして……。
「違うわ。これは……近接特化型の武器ね。たしか格闘術の体術タイプの装備」
さすがにこれにはびっくりした。装備してみると手袋にしか見えないような代物がれっきとした体術の武器なんて……。というか体術って素手で闘うんじゃないのか?
これつけても素手と変わらないと思うけど。
「ま、使えるものは使おうかね」
彼女の方をおもむろに見ると、彼女は気難しい顔で考え込んでいた。
「君……変わってるね、特技が体術ってそうそういないわよ」
嫉妬のつもりで言ったのか、それとも偏見のつもりで行ったのかわからないが、自分は現実でもかなりかわった性格だし、この世界でもこんな設定になるのは不思議じゃないだろうな……。
意外と傷ついたかもな。俺の変人認定。自分で認めちゃってるけど。
「まーそういうことで体術を訓練しようか!……というわけにはいかないんだよね」
「え? どういうこと?」
「この周辺のフィールドのMobは、体術が持つ攻撃属性≪打撃属性≫と≪拳撃属性≫があまり効かないのよ……」
「つまりこれは、運が悪いってことだよな……。」
「まあ、そうね。でも大丈夫。特技以外ももちろん訓練できるから心配ないよ」
まあ、当たり前だろうな。スキル制ゲームで自由が拘束されるって悲しいだろ……。
「じゃあどんなスキル上げる?」
「いや……、あげるとかいわれても、ナニあるか知らないし!」
「ああ……ごめんね。初心者相手に慣れてないんだ私……」
こんな人によく例の周期とやらが回ってきたものだ。そんなことを考えると管理者が悪い気がしてくる。無通告っていうのはさすがにプレイヤーに迷惑だろ……。
「じゃあ好きな武器とかある?」
ふと、当たり前かのように思考が湧き上がってくる。
今現実でやっているスキル制とレベル制が混ざったMMOゲームでは、格闘家と剣術を組み合わせて戦っている。しかしながら、さっき言われた通り不幸が舞い降りたらしく、格闘術は使えないときた。さてどうするか?
ちなみにそのゲームは剣自体に制限はなく、短剣や両手剣、刀、片手剣にそれを両手に持って二刀流もできる。
だがどれも、ただ攻撃速度の違うそれらの武器は使い慣れている。一番好きなのは両手剣だが、リアルの体に近いこの世界でそれを自由自在に操れる気がしねぇ……。
「じゃあ私のやってる双剣やってみる?」
彼女は背中に装備された二対の双剣を両手に掴んだ。
そして、ゆっくりと呼吸するかのように、湾曲した剣を鞘から抜いて、こちらに見せてきた。
右手側の剣は赤に少しだけ黒を足したような赤銅色に近い色、左手側の剣は群青色で、深い海の色を表したかのような剣だ。
対になった色合いの剣を再び手に取り、彼女は左側の剣を逆手に取る。すると何かを囁いた。
『トルネードオクターブ!!!』
突然剣が光を放ち、虚空に八回転の十六連撃を放った。技が終わるのに5秒もかからなかっただろう。それほどまでに速い連続攻撃だった。というか最初は何が起こったかよくわからなかった。
「どう双剣は? なかなかカッコイイでしょう?」
「確かにかっこいいけど。難しくないかそれ」
「あぁ……そっか……私、特技双剣だから難しくないのかな?」
なんだ今の自慢か? だったらさっきの偏見なのか!?
「まあ双剣やるんだったら短剣かナイフ鍛えるのが先ね。ま、片手剣でもいいかな?」
ナイフ……俺はその言葉が、今の彼女の言葉の中で一番印象に残った。理由は俺がやっているあのゲームでは、ナイフはでてこないからだ。一応『ナイフ』という物は出てくるが、それは別カテゴリの武器になっていたり……と、ナイフは優遇されていないのである。
別にナイフしか出てこなさそうな、FPSゲームに興味を持っていたわけではない。
それで、短剣が攻撃速度早めなら片手剣はやや早めか普通になっている。ならナイフはどうなるのか……それに対しての好奇心が頭の中を幼い子供のような勢いで駆け回る。無意識に好奇心がとうとう言葉として露になり、ついつい放ってしまう。
「…………ナイフやってみたい!!」
こうして俺の目指す一つの場所が決まったのだった。
そういえば名前どうなったんだ?
裏設定
双剣専用スキル『トルネードオクターブ』
音程の八段階を表す八回転で相手を主に水平に切り付ける攻撃です。十六連撃なのは剣が二本あるからという訳ですね。
斬りつける速度はスキルの種類の中でも高速で、ユウスケにとってはとっても難しい事だと見えたのでしょう。
実際双剣は特技以外の人が使うのは難しいスキルが多いという現状なのです。