巨塔探索
前方にようやく次の階層へと上がる階段が見えてきた。ここまで長い道のりだった。黒岩鬼が出てきた迷宮とは違った素材で作られた黒壁は、また別の素材の良さとやらを持っている。こういう無骨な回廊、俺は好きなのだ。
階段の目の前までたどり着き、重い脚をだらだらと動かしながら、三十段くらいある段差の大きい階段を上って行く。
上がれば次は4層目である。マンションよろしく右にパネルが貼られていて、そこに何層目かちゃんと書いてあるため、余程でなければ迷うことはない。
おまけに、パネルに軽く触れれば、横に大きな穴が開いて、そこに飛び込めばすぐさま塔の入口まで戻ることができる。いわゆる冒険の中断だ。と言ってもレイカがそんなことを死んでもするわけがないが。
「はぁ~…………。ようやく4層目かぁ……。つ……れたぁ」
現在の時刻は午後2時の少し前で、つい一時間程前に昼飯を食べたばかりなのだ。
隣を歩いているアズサが、ぐったりと言わんばかりに腰を曲げて、何も落ちていない階段を見ている。ちなみに、今回の昼飯は誰がどれを作ったか分かるほどの味だった。当たり付きの料理とは嫌なものだ。
なんだ……レイカとアズサに失礼だと!?
「さっきご飯食べたばかりじゃない!」
レイカが早速口を開けた。
「いやぁ……、さすがにこれは疲れるッス……」
「なかなかハードな……ゲームだね……」
「休みたいわぁ…………」
確かにアズサの手を見てみると、そこに装着している鉄製のナックルはいかにも重そうだ。ちなみに、彼女が付けているナックルはハーパンではない。
「こういう時に限ってモンスターが……」
と、ユイが言い始めた瞬間に目の前にモンスターが3体ポップした。さらに後方にも別種のモンスターが2体。すぐさま戦闘態勢に。
アズサもうなだれていた体に鞭を打って、拳をしっかりと構えて戦闘態勢に入る。
「前方は私たちがやる。後方は一体を二人がかりで抑えて!」
「了解ッス!」「あいよ~」
俺とゴウタが返事をして、素早く後方に現れたモンスターを一人ずつ襲った。しばらく遅れてアズサとヒデアキも戦闘に加わってきた。
今相手をしているモンスターの名前は≪デモニッシュ・ファルコン≫という名のモンスターで、外見は鳥人間でハリーのような黒い毛並みを持っている。簡単に表現するとハリーの隼バージョンと言ったところだ。しかし機動性がハンパなくてどうにも追いつけない。これだから一人だとだいたい一方的に狩られる。
ちなみにハリーは数体の強力なMobにボコボコにされて活力を無くし、現在休養中である。
「とぉ~っりゃぁぁっ!」
ゴスッという鈍い音が戦っているファルコンの背後から響いた。それと同時に隼がこちら側にわずかにふらついたが、素早く体制を整えて後方の自分を殴った存在を蹴散らそうとする。
しかし、俺にはディレイが発生していないので自由自在に行動できる。もちろん目の前の鳥人間に両手剣スキルを打ち込む。
水属性を持った、例のサメが獲物を食らうような剣捌きで、激しい六連撃を浴びせた。だがまだファルコンは地に伏せず、手と足の鉤爪を使って巧に攻撃を仕掛けてきた。
1回目と2回目はかろうじて弾き防御で防いだものの、蹴り上げが腹にもろに当たって大量の火花が散った。これはクリーンヒット判定になってしまったようだ。吐き気がしそうなほどの衝撃波なのだが、すでにそれは下層で何度も何度も体験している。
隼側の6発目の攻撃の時、ようやく後ろからスキルの爆音が響き渡った。アズサの拳術スキルが見事に入ったのだ。そしてそのままパウントへと持ち込む。大きく蹴り飛ばした後に彼女は大きくジャンプしてファルコンに接近、黒い毛玉野郎が這い上がるまで、ひたすら顔やら胸を殴り続ける恐ろしいスキル。
女の力を侮ってはならないのだよ……はやぶさくん……。
だが鳥はライフを半分も残した状態で、アズサを振り払って彼女の腹部に蹴りをいれた。後方に大きく吹き飛ばされた彼女は息が落ち着かなくて喘いでいる。
すぐさま俺は警戒態勢をとる。
「大丈夫か!」
「うっ……うんっ、問題ないわっ……!」
お腹を押さえつつも、ニッと笑って元気を証明して見せた。別に痛いわけではないのだが、ライフはもちろん減少しているので彼女には休んでいてもらおうか。
「おりゃぁぁぁああっ!!」
剣を再び構えてスキルの発動体制に入る。灰色の刀身に水色の尾が引き始めて、それが彗星のような軌道で敵を切り裂いた。言わずと知れた、彗星の名を冠した両手剣スキル。
特に迷うこともなく俺に襲い掛かってきたので狙いやすかった。鳥人間の胸部に一筋の切り口が入り、そこから少しだけ火花が散っている。
次はベーシックストライクで三連撃を見舞ったが、まだファルコンは倒れない。相手が爪を立てて横に振ってくるのを拳撃で迎撃し、一瞬怯んだ瞬間にレオパードストライクを打ち込む。無尽蔵に五回の攻撃を浴びせ、最後の攻撃でライフは2割以下になった。
こういう素早くて機動性の良いMobは、相手側の攻撃もしっかりと見切って防御しないといけないので、戦闘がやけに長引く。
もちろんそういう機動タイプは、大抵タフネスさが足りてない、もやし的体力なのだが……。
最後の斬撃で剣は下向きになっているので、このままでは防御に徹することができない。というタイミングでアズサがファルコンに攻撃を仕掛けてくれた。
≪スパーク≫に似たエフェクトを発し、落雷が轟くかのような音でファルコンに拳を一発入れた。火属性の拳術スキルがヴォルカニックなので、恐らくあれはライトニングやサンダーとかそういう名前なのだろう。
と、思った瞬間脳裏に技名が浮かんだ。それをなんとなくだが言葉に出してみる。
「サンダー……パンチ……ッ!!」
呟いたその瞬間から手にアズサの技と同様のエフェクトが発生し、剣を持ってない方の右手が青色や黄色の電気を発している。手をぐっと握ると、さらに力が発生したような気がして、放電が一層強くなった。
「おらぁぁっ、食らえ!」
力がいつも通り溜まってきたのを見計らって、≪デモニッシュ・ファルコン≫がアズサをマークしている横から、そいつの背中に雷を帯びたコブシの一撃を見舞った。
アズサのとき同様落雷のような音が響いてファルコンのライフはゼロになり地に倒れ伏せた。ようやく倒せた。
実はこいつ、さっきの機動タイプの例に入っていて、一応もやし的存在のMobなのである。それなのにこの体力を誇っているのは、明らかなレベル不足、お呼びに経験不足を表しているようなものだ。
今みたいに、2対1で倒せないこともないというわけではあるのだが。
「ベーシック……スラスト!」
背後ではゴウタが両手で握った漆黒のランスで、突き攻撃を相手に浴びせる。さすが槍術特技なだけはある。キレってもんがある。
最後の三発目が当たると同時に、後方に待機していたヒデアキが剣を構えて襲い掛かる。あのスキルは俺もよく使っている≪ベーシックスラッシュ≫だ。
まずは背中目掛けて剣を振り下ろして少量の火花が散り、それに気づいたファルコンは後ろを向いて攻撃の態勢に入る。その瞬間を見計らって差し出してきた右手を予測したかのように迎撃。
すっぱりと切り落とされることはないが、大量のエフェクトがそこから散る。ファルコンもやけに苦しそうだ。どうやら、クリーンヒット判定になったようだ。
痛みが走ったかのように鳥人間は仰け反り、それを確認したヒデアキはにやりと笑って、腹の真ん中目掛けて最後の3連撃目を突き攻撃で決めた。だが鳥人間は屈せず、爪を立てて突き攻撃でヒデアキを殺さんばかりに襲い掛かる。
これにはヒデアキも対処は不可能かと思えたが。右手と左手の刺撃攻撃を華麗な剣捌きで見事に防ぎ、剣を逆手持ちに変えて、蹴り上げが来る前に腹部を切り付けたのだ。
そして素早く後方にバックステップし、剣を構えなおして片手剣スキルの発動に入る。
片手剣専用スキルである≪パワフルスラッシュ≫だ。その名の通り力強い攻撃がこのスキルの看板で、片手剣攻撃の代名詞とも言えるスキルである。
おまけに六連撃と片手剣にしてはボリュームのあるスキルだ。それも『パワフル』の一端なのだろう。
だけど、その反面扱いづらいスキルで、いい加減に動作をすると攻撃が中断してしまうという点がある。
しかし――このスキルは確か中級レベルのスキルはずだが、今日来たばかりのヒデアキはごく普通に使っている。
……四撃目が鳥人間の胸を捉え、五撃目が相手の心臓あたりを激しく穿つ。本当に出血したかのように、ぶわっと火花が散って、六撃目の薙ぎ払い攻撃がスキルの最後の一撃を飾った。
まだ鳥人間のライフはゼロに達していなく、大きく爪を振りかぶっている。その腕は、微かに震えていた。
しかし、ヒデアキが爪でぎったぎたにされる心配は皆無だ。
『ブレイブペネトレーション!!』
ゴウタの発動した槍術専用スキルがファルコンの体を串刺しにする。一度体から抜いて再び突き刺す動作を何回か繰り返して、ゴウタ達が相手をしていたデモニッシュ・ファルコンもライフをゼロにして地面に倒れた。
ちなみに、ファルコンから物を採取しようとしたが失敗した。何か専用のスキルでもあるのだろうか。
そんなことは割とどうでもいいことなので、レイカとユイとトラカの助けをしようと前を向いたが既に彼女らら戦闘を終えて一息ついていた。
「ちょっ、休憩しているのなら助けなさいよ!」
「そうッスよ……あの鳥結構疲れるッス……」
「いや? 俺はなかなか楽しいと思うけどなぁ~」
余裕交じりの表情でヒデアキが言った。彼が現実で何をしていたのかは知ったことではないが、かなりの戦闘のセンスがあるのは確かだ。あれほどの剣捌きができる人はなかなかいないだろう。初心者といえど舐めてかかってはならない存在になりそうな予感だ。
そんなことを思う俺も十分初心者の部類に入っている……のだけどね。
だいぶ歩いただろうか。外から差し込む日差しはオレンジ色に変わり、夕方になっていることを表している。現実より色の濃い夕日は少しばかり眩しい。
「もう5時半ね……。確か今は5層目だっけ?じゃあ6層目まで行って階段見つけたら今日の冒険を終えましょうか~」
「長……」
ぽつりとつぶやいたのは無論アズサである。1層目は文句を言わなかったが、2層目から30分に一回のペースで文句を呟いている。まさにわがままっ子そのものだ。親もさぞかし世話を焼いているだろう。
「あと30分くらいすれば階段が見えてくるわよっ!」
見えてくると言っているレイカだが、実際の設定上探していた階段が見えてくるわけではない。普通ダンジョンならば階段を素早く見つけて先へと進んでいく形状で、迷宮なら先に進むタイプか廃城迷宮の時のようにノルマと言われる、一定の条件をクリアすれば先に進むことができるが、この塔はそのどちらでもない。
この塔は一定の時間狩りを続けることで、階段が層のどこかに出現するのだ。ダンジョンだと狩り続ければハリーみたいな強力Mobが出かねないが、この塔の場合は安全地帯の小部屋から出て2時間以上歩いていないと、上に進んでいくことができない。
もちろん逃げ回って時間を稼ぐことも可能だが、倒さないと次から次へと湧き出すのでどっちにしろ狩るしかない。
「また出たわね……珍しいわねぇ……。ドライトードが出たわ」
「なんだそれ。強いのか?」
「大したことないわ。でも肉が結構高値で取引されてたような」
「おいしいのですー?」
「おいしくてもレイカが料……フゴッ!」
途端に大きな手で口を塞がれた。この大きな手はもちろん大人の手でヒデアキの物だ。
「レディにそんなことは言っちゃだめさ、少年」
俺だけに聞こえるようにささやいて手を放した。眼鏡が夕日によって輝いているので、知的な印象を嫌というほど与える。まぁ言っていればレイカの双剣で命を失っていたのは間違いないが……。
「トードは前にいる4人に任せて。後ろにいる魔法生命体は3人がかりで倒して!」
ちょうど後ろにいた俺とヒデアキが、首をゆっくり回転させて背後の様子をうかがうと、そこには謎めいた浮遊する金属がポップしていた。名前は≪unknown≫と記されていて、正確なデータが表示されない。
「変わった敵だね、データが表示されないよ」
「へぇ~、ほんとだ。そんな敵もいるのね」
同じく後ろにいて謎の敵を倒しに向かうアズサが言った。
真ん中に顔らしきものが浮いており、右側が黄金……太陽を表すかのようにトゲのようなものが生えている。対して左側はつるりとしたアルミのような金属で、表面には何も生えておらず、形が弧を描いていて月を表しているようだ。そのほかに辺りには複雑な形状をした金属物質が大量に浮かんでいる。
魔法生物にしては、かなり目立つ部類のMobのようだ。
「フォーーーン」
謎めいた音を出して金属の一つが剣に変化してそれを3つ飛ばしてきた。
走っている一人一人に一本ずつ飛んで行って、俺にも迷うことなく飛んできた。俺はわざとらしい動作で、それを地面にたたきつけんばかりに剣を振るった。見事に剣はそれを回避してくるりと空中を回転して俺の首筋目掛けて襲い掛かる。
だが、これはあえてこの動作をとったのだ。理由は簡単、あのスキルの発動条件を満たすためである。カウンターに近い動作を考えれば発動することができるのだ。予期せぬ攻撃だろうと、攻撃が自分に来ることを知っている状況だろうとカウンターになれば容易に発動できるのだ。
予期せぬ斬撃を防ぐという看板を掲げる例のスキルだが、スキルの実態はカウンター。そういうことである。
振り下ろされていたはずの剣が素早く元の位置に戻って剣の腹を叩いた。剣は甲高い音を立てながらポッキリ折れて、そのまま塵となって消え失せた。
アンノウンはあきらめず剣を準備する。そんなことをしたって、あれがあれば容易にキャンセルすることが可能なのだ。突進攻撃発動!
≪プロロングアサルト≫を発動し、少し遠く離れた浮遊するモンスターに向かって突進する。相手の予期せぬ動きを察知して剣を作り出すのをやめたようで、薄い板のような金属のかけらを3個ほど使用して大きな盾を作り、それで俺の突進の衝撃を受け止めた。
案外大きな衝撃が跳ね返されて、思わず体制を崩しそうになったが、足を踏ん張ってその場に留まる。いつの間にやら作られていた、レイピア型の武器をとっさに回避。
2度目のレイピアの飛来をサイドステップで回避して、相手の懐に飛び込んで剣を振り回す。まずはベーシックで攻撃を入れて――次はレオパードの五連撃を浴びせる。ここまでで体力はほんの少し削れただけだ。
減らした総量は1割にも満たない。恐ろしい程固いようだ。
大体は予想できていた。こういう一番訳の分からな奴が、一番強いと――
次は隙をついて≪ヴォルカニックパンチ≫を放った。が、ライフがほとんど減少していない。どうやら拳撃には強いボディみたいだ。
剣もイマイチ、自慢の拳はほとんど通用しない……か。
後ろから声が聞こえたのでバックステップで後方に回り、飛び込んでいったヒデアキとアズサと攻撃を交代する。でもアズサだと殆どダメージが通らないんじゃないか?
しかし、俺の予想とは裏腹に攻撃はしっかり通っている。ヒデアキの攻撃でわかったことだが、突き攻撃に対しては高い耐性を誇るらしい。
突き出した剣が、ガキィィンという音とともに剣が弾かれて彼が仰け反ったので、恐らくその可能性は高い。
「硬いモンスターだね。おまけに攻撃力もあるなんて対処法はないのかなぁ」
剣を振りながらもぶつくさと文句を言っている。こんな状況でもかなり余裕があるようだ。
彼が手に携えた幅広の剣は、無情な輝きを放ちながらも、ヒデアキの威力とキレ、スピードを誇る剣閃についていく。あんなに振っていればかなり耐久値を消費するが大丈夫だろうか。
ましてや相手はどんな能力が備わっているかも分からないアンノウン。≪呪縛≫はあの姿からしてないと思うが、武器の耐久損耗を著しく加速させる能力とかを持っているかもしれない。まぁこれも外見の話で。
「攻撃に入るっ!」
俺は二人に声をかけて、アンノウンに飛び込む。
アサルトは防がれやすい攻撃だとさっきわかったので、今回は走りながらいつでも予想外の動きに対応できるように剣を下段に構えている。相手は剣を2個精製してこちらに飛ばしてきた。
まずはベーシックで片方を確実に落とし、残ったバスタードソードをアサシネーションブレイクで迎撃する。浮いている剣は儚い音を立てて、空中に四散して消滅した。
これって無限に武器を採集できるんじゃねぇ? と思ったが、すぐさまその思考を捨てる。拾った武器に呪われそうだ。
これでようやく本体に攻撃ができる。今度こそ本格的な構えに入って≪シャーク・エッジ≫を打ち込む。
金属のボディは剣と同様甲高い音を上げて、少量の火花を散らしながらライフが少しずつ減少していく。
まだまだ3割しか減っていない。どんだけ固いんだこいつ。
次はレオパードに持ち込み、怒涛の五連撃を相手に浴びせる。
それでもまだ残り6割の域には達していない。次は剣を水平に構えてコメットストライクを見舞う。
水色の光を帯びた剣閃がアンノウンに襲い掛かる……が、ひるむことなくそれを受けて、ライフをほんの少し散らしただけだ。クリーンヒット判定も出ないしクリティカルヒットの発動もない。
そもそもそんなのが起こらないから、こいつに回避するという考えがないのか……。
左手だけで両手剣を持つ。
今度は右手に力を貯め込んで、あの技を試してみることにする。力だけならどの拳よりも強い、長い時間を食うけど……。
≪ストロングブラキウム≫が月と太陽の顔の真ん中に命中するが、フォンという謎めいた声を上げただけで、ダメージに大きな減少は見られない。それでもかなり減った方だが。
そんな時、ふと後方に。
「下がってください。いけぇ! インフィニティ……デストロイヤー!!」
それと同時に発射音が響いて、後方からいつもの威圧感が迫る。とっさにアンノウンから離れて攻撃に巻き込まれないように逃げた……が。
「ヒデアキさんっ! 逃げて!」
「え?」
ヒデアキがまだアンノウンを切り刻んでいた。一応スキルの発動中だが、キャンセルすれば逃げることができるはずである。だが彼はまだ敵を斬っていた。そして、飛来する火の弾丸を見た瞬間彼は顔色を変えて……。
盛大なエフェクトが発生してアンノウンに直撃した。
もちろんヒデアキも被害を受けたはずだ。いや、あれで受けてなかったらいろいろとおかしい。
煙が消えると、そこにはかろうじて生存したヒデアキと、あと少しでライフが半分に達するくらいのアウノウンが残っていた。やはりさっきの耐性は属性か魔法によるものだったか。
「嘘でしょ!? 全然ライフが減ってない!」
「あいつは魔法耐性があるんだ!」
「そんなっ!」
「任せてくださいです!」
そこにトラカが現れた。すぐさまトランスを発動して、今度は虎ではなく黒い毛並みが特徴的な鳥人間、さっきの≪デモニッシュ・ファルコン≫の姿に変わった。
トラカは滑空しながら敵に接近する。その手には人間の時に常時使っている太刀を携えている。
次の瞬間だった。
虎が視界から一瞬にして消えた。
その途端、後ろにワープしたトラカは戸惑っているアンノウンに太刀の連続攻撃を浴びせる。
相手が剣を装填して投げてきても、それを水でも払うかのような、余裕の動作で弾き、後ろからの不意打ちを狙って飛来する剣も素早く対処する。
吹き飛ばされて回転している剣は、目視も危ういほどのスピードで折って消滅させている。
そして、とうとう彼は刀スキルを発動した。刀専用スキルの≪竜刃斬≫だ。
刀スキルを見るのは初めて、トラカの太刀筋を見るたびにぞくぞくとする。まぁ、そりゃーかっこいいからだ。
まずは広範囲の薙ぎ払い攻撃、さらに切り上げでこれまた範囲が広い。そして最後の三撃目は水平切りを放った。アンノウンには相当堪えているようだ。
なんとなくだが、死神の≪エクゼキューション≫を思い出す。
……しばらく斬っていたが、不意打ちを急所に食らって、そのまま何度か攻撃を受けてしまい、トラカは撤退した。
そこにユイのデストロイヤーが飛来して少量だがダメージを与えることに成功。またもや壮大なエフェクト。今回はヒデアキは無事のようだ。
トラカに代わってレイカがアンノウンに向かって出た。
『ディメンドストレッタ!!』
あの技は俺との試合の時に使った突進系の双剣スキルだ。一陣の風のように地を疾走し、短距離の移動だがその突進が、空気を揺るがす程の威力の衝撃を生み出した。
耐え切れずアンノウンは仰け反って、空中でふらふらと、バランス感覚を失っているようだ。大きな隙に、レイカのトルネードオクターブが撃ち込まれる。きっちり十六連撃を受けた敵は、目を覚ましたかのように、負けじと剣を生成して飛ばしてきた。
それをツインタスクですべて迎撃。5本の剣が地面に転がって消滅した。そのままの勢いでアンノウンに襲い掛かり、ストレスを発散する感覚のような連続攻撃を浴びせる。
レイカは何回攻撃をしただろうか。100回は超えている気がする。相手のライフは残りほんの少しで、1割未満と言っていいだろう。そのタイミングでアンノウンは逃げ出した。
「逃げんなぁっ……! ≪アブソリューティーアラルガンド≫!!」
いくら逃げる動作に入っても、2秒のうちにあれの範囲内から逃げられなければ死ぬ運命にあるのだ。その攻撃は実行され、みんなが唖然とした表情で彼女を見つめる中哀れに逃げるアンノウンの息の根を断った。
敵は複雑に砕け散って長い間空中をキラキラと舞っていた。
やはり……相当なレアモンスターだったのかな?
「お疲れさんッス! スゴイ無双っぷりッスよ!」
「さすがレイカねハハァ……」
「恐ろしいおねえちゃんだなあの子は」
俺に向かってこっそりとささいてきたのはやっぱりヒデアキだ。
「こりゃあレイカに全部任せて大丈夫かもなぁ」
「何言ってんの。あんたたちの修行の為に来たんじゃない」
「こんなの修行にならないぜ……」
俺がさっぱりとそう言ってみると。
「じゃあ決闘して鍛える? ンン?」
「遠慮します」
こうなりました……。
その後数分狩り続けた後、階段が出現して6層目へと足を踏み入れた。あんな強いMobが出る癖にまだあそこは5層目なのだ。このままだと10層目でギブアップになるかもしれない。
レイカが鬼神になって乱舞してくれれば別だが。




