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Soul World  作者: Hamlet
第1章―魂の集う世界―
32/58

リスキー・デイト(後編)

「よし、前方の黒コウモリは任せたぞ!」


「了解~、私の拳ですべて蹴散らしてあげるわ!」


「ユイは右側から攻めてきてるゴブリンみたいなヤツを葬ってくれ!!」


「はーい!」

 この世界での経験がある意味一番長い、俺が指揮をとることになった。リーダー格なんて現実ですらやったことがないこの俺に、二人をうまく動かせるだろうか。と言いつつ今までリーダーみたいな役目をやったことは何度かある俺なんだけどな……。

 もし危険な状態になった場合に、性格の対立したユイとアズサを、落ち着かせて冷静に現状に対処できるだろうか。どうせならあの時8人の連携を確立させた、スズシロさんの指揮を見ておけばよかった。



 黒色のコウモリの後ろにいる3体のMobのうち、一番前に出ている個体に向かって突撃し、まずはスキルによる軽い硬直時間を作り、あとは拳でひたすら殴る。入口にいた目玉付き人間よりは断然弱いようで、殴り三発蹴り一発でその敵はあっけなく砕け散った。


 横から殴りかかろうと迫ってきた別の個体に肘入れし、腰に括りつけてあるナイフを抜いて逆手持ちのままナイフで連続攻撃を行う。5回目についたところでライフは2割程度、≪サマーソルト≫で顎を直撃して頭部から敵は砕け散っていった。


 そこに最後の一匹が迫ってくる。敵の殴りを右腕の二の腕あたりに受け、痺れるような感覚が右腕を襲う。ダメージもライフを3割も削るというなかなかの攻撃力を誇っているようだ。

 Mobの隙を素早く見つけ、そこに短時間にできる限りの力を溜めた拳をスキルで打ち込む。

 人間型の相手は大きく仰け反り、大口を開けて失神しそうになる。様子を見る限りだいぶ効いたようだ。さらなる拳撃を体のあちこちに入れてMobの体力を削りきった頃には、ユイやアズサもそれぞれのモンスターとの戦闘を終えていた。


「さて、そろそろ敵も強くなってきたしパートナー出して戦おうか?」


「そうだね。パートナーのレベルも上げてあげないと」

 その直後ユイは自らのパートナーであるナナを召喚した。肌の色に等しい薄ピンク色のシルエットが虚空に出現し、包み込む光がだんだん薄くなって完全に使い魔の召喚が終わる。

 俺も我が相棒ハリーを呼び出して、黒の閃光とともに闇の力を操る狼を繰り出した。


「へぇー、それぞれご主人様と似てるわねぇ~」

 パートナーをまだ持ってないアズサが言った。言われてみれば確かに、俺は全身真っ黒のシャープなボディの狼、ハリーにどことなく似ている。


 性格は殆ど違うが、外見からすればアズサの言うとおりだ。対してユイとナナの場合はあんまり似てないと思う。ユイがチークグリーンの色合いのウェーブという、変わった印象の存在なのでそういう点はナナににてなくもないが、パートナーの方は行動が予測できないような変なことをするので、しっかりしたユイと比べればそこは全く似ていないと指摘できる。


 結論、コイツは何を言っているんだということだ。と言いつつも共通点は少ないけどあったのだが。


「まぁー、一応こっちから懐いてきたんだし。ねぇーナナ」

 ユイが自分のパートナーに向かって声をかけると、ナナは理解したのかは知らないがこっくりとゆっくり首を縦に振った。


「そ、そうだな。なぁーハリー!」


「俺ハ、懐いタ、ンじゃ無イ。弟子ダ」

 きっぱりとした言動で俺に片言の言葉で返してきた。

「ハハ、そうだったなハリー。俺は師匠、お前は弟子だ」


「すごいわね。パートナーって喋るのがいるのね」


「いやいや、コイツは例外って感じだよ」

 するとハリーがむっとした表情をして俺を見てきた。

「何ガ、例外ダ。俺は普通ノ、パートナーダ!」


「いやいや、そういう訳じゃなくてな。喋るような知能の高いパートナーは、そうそういないってことだよ」

 あ……、しまった。こう言ってしまうと……

「何? ナナちゃんは知能が低いっていうの?」

 先の言葉を放った後にユイがすぐさま言うな、と察知した言葉が本当に来てしまった。

「はぁ……。まぁ、ナナも可愛いんだしいいじゃないか」

 無論この後ハリーから俺は可愛くないのかという言葉は飛んでこなかった。


「さ、もっと奥進むぞ」


「オウ」


「はーい」

 黒色の石でできた壁をぼーっと眺めながら先へと進んでいった。

 黒曜石を思わせるその石壁は、俺達にとって狂暴で気持ち悪い敵が頻発するこのダンジョンとしては、とても神秘的なものだった。



「…………。だいぶ進んだんじゃないかしら?」

 時刻は11時を回ったところだ。迷宮に入ったのがだいたい10時なので、およそ1時間迷宮に潜っていると推測できる。だが、壁の色も天井の色も、出てくる敵の種類も最初の辺りとほとんど変わっていない。

「あのなぁ……、ダンジョンでも短い方で一層しかない奴をクリアするのに、ざっと30分は余裕でかかるぞ? ましてやトラップにかかったら…………」

 ガチャンという効果音が耳に飛び込んできた。

「あ~あ、トラップなんて言ったから発動しちゃったじゃない」


「無様、とはマサニ、この状態カ」


「ちょっとっ! ユウスケ、どうしてくれるのよっ~!」


「俺のせいにするなよ……」

 発動したトラップは基本的な部類で、落とし穴系統の奴だ。何故か穴の形が縦長の楕円形で、俺とアズサが見事にハマって、壁に近い場所を歩いていたユイは無傷だった。ライフを見ると1割程度減少している。およそ2メートル落ちたのでこの程度の傷で済んだのだろう。


 俺が自力で這い上がった後、アズサの手をつかんで引き上げた。

「よっ……、っとぉ!」

 しっかり彼女の手を両手で掴んで、しっかりと持ち上げる。案外重いのか……。アズサの手からでもその重さが十分に伝わってくる。これって現実の重さなのかなぁ?


「あんが……ッ…………、なんでもない。」

 思わず頭の思考が口を通して実体化しそうだった。危ない危ない……。

 これだから俺は……、ふぅ~。

「何? アンタ今、何か言おうとしたでしょ?」


「ハハ、だから何でもないって」

 隣ではユイがクスクスと密かに笑っている。どうやら俺がどんなことを口に出そうとしたのか、理解できているようだ。頼む、ユイ……、それを言うなよ。

 この状況下、俺は魔法使いの少女に向かってただ願う事しかできない。


「ねぇ、今ゼッタイ何か言おうとしたでしょう。ねぇ~!」

 俺の胸蔵を掴んで乱暴に体を揺らす。女子がこんなことをして良いのか……、と思いつつ、ひたすら言い訳の方法を頭の中から探る。そこへ、ユイが思いがけないものを投げ込んだ。


「多分アズサ重いなぁ~って思ったんじゃない?」

 あぁ、俺死んだ。絶対にこの後死ぬよ。


 アズサの顔は湯気が出そうなほど赤くなった。宵闇色の瞳は俺をしっかりと睨み付けている。

「なんですってぇ~! もう一度穴に落ちてしまえ!」

 俺は再び深さ2メートルの落とし穴に落ちたのだった。



 結局アズサにさっきの落とし穴に落とされて、なんとか穴から這いずり出た頃には、女性陣二人は30m先まで進んでいた。


「はぁ……。ヒドイな……。アズサ…………」


「穴から上がるノ、遅いナ。それデモ、我が師匠カ」

 我が弟子であるハリーは、自身の師匠であるこの俺を置いて先に行っていた。トンデモない野郎だ。

「アンタが変な事考えるから悪いんじゃない」


「あと一年くらい穴の中で反省してたら?」


「おいおい……。ユイまでそんなことを……」

 前の二人はお互い笑い合った。俺はもうさっきのことについては怒っていない。男ならそうあるべきだ、という訳ではない。


 二人が仲良くなってきたことがうれしいのだ。最初はユイもアズサも、薔薇のようにトゲを生やした存在でお互い傷つけあう、もしくは無視か軽蔑で全く相手を見ようとしなかった。だが、今は楽しく話をしてとても心地よい雰囲気が伝わってくる。トゲをしまって、つぼみから美しい薔薇へと進化させ、それをお互い褒めあっているかのように。


 しかしここはダンジョンの中ですな。

「む……」

 微かに不吉な予感が背後と前方からした。後ろを振り返ると、ダークグレーの体毛のゴブリン型のMobが6体。そこに紛れた紫色のいかにも毒々しい色の同種が2体。


 おそらく灰色の上位互換タイプだろう。前方にもモンスターがポップしたようで、こっちは黒コウモリが視認できないが数匹、そこに赤色の飛翔する物体、赤色のコウモリだ。別名『ミニドラキュラ』と呼ばれていて、その通称とコウモリ自身の色のとおり、吸血攻撃を仕掛けてくる厄介なMobだ。

 こいつとは今までに一度も遭遇していない。


「厄介そうだな……。ユイ、前方のコウモリ軍団は任せていいか?」


「もちろん」


「じゃあ、アズサとハリー。後ろのゴブリン集団を蹴散らすぞ!」


「りょうかーい!」「了解シタ」

 まずはハリーが後方にいる毒々しいゴブリンに突撃した。俺とアズサは≪アサルト≫で前の敵陣に突撃し、所構わず殴り倒していく。するとそこにアズサが…………


「どう? 私の拳捌き。あんたも格闘家ならしっかり見ておきなさい!」

 この世界の未経験者のお前に言われる筋合いはない。と言いたかったが、後で何か言われると面倒くさいのであえて言わなかった。


 確かにアズサの拳撃はしっかりしている。さすがボクシングをやっているだけはあると見えるが、それだけではない。足での攻撃もゴブリンの弱点をしっかりととらえている。無論このゴブリンの弱点は足のすねだが。

 決してボールとかいう物ではない。


「おっらぁぁぁ!」

 ゴブリンの顔面に向かって≪ヴォルカニックパンチ≫を浴びせる。左手に宿った炎のオーラが唸り声の如く重低音を放ちながら、ゴブリンの鼻と口の間にある、じんちゅうと呼ばれる場所へスキルを見舞う。


 クリティカルとクリーンヒットの同時押しが威力をさらに上昇させ、おまけに長い間威力を溜めた拳だったので、ゴブリンの7割近くあった体力は一瞬にして消し飛んだ。頭に蜘蛛の巣型のヒビが入り、そこから徐々に筋肉質の体が砕け散っていく。


 彫像が破壊されるようなその動きは、血しぶきのエフェクトをつければリアルに見えかねない程だ。



「このっ、このぉっ……、この怪物が!」

 そんな連続でスキルつかって大丈夫かと思っていたが、いざ様子を見てみるとゴブリンの胸板めがけてしっかり拳撃を入れている。しかもかなりのブーストがかかっているので、一撃一撃が重い。ただしスキルではなかったようだ。


 様子を見ている暇もなく、俺に3体のゴブリンが襲い掛かってきた。まだこんなにいるのに、よく俺を認識しなかったなぁ。と内心で不思議に思いつつ、背中に掲げられた俺の初めての両手剣でありながら強力な力を持つ剣、蒼剣≪オーシャンスライバー≫を両手でしっかり抜いて、左側からの薙ぎ払いで一薙ぎにゴブリンを屠る。

 斬撃属性には妙に弱いようで、拳の時より少しだけ多くライフが減少した。今度は垂直に敵を討って、真ん中にいたゴブリンのライフが大幅に減少した。


 どうやらクリティカルが発動したようだ。そのまま剣を構えなおしてさらに垂直に斬る。ライフがゼロに達したゴブリンは悲鳴を上ながら散った。残っ二つの個体を片方はベーシックで華麗に片付けて、後の一匹は≪レオパードストライク≫で猛獣のように力強い五連続切りを見舞い、血のような火花を散らせながらライフを一滴残らず奪い去った。


 少し遅れてアズサも残ったゴブリンを片付けて、後はハリーの相手をしているゴブリンと、向こうのユイが相手をしているコウモリ軍団になった。


「グッ!」

 ハリーの唸り声が聞こえた、それは苦しそうでもあり闘志にも満ちているようなものだった。しかし、様子を見てみると圧倒的な劣勢だ。

 大方の予想通り、紫色の体色のゴブリンは毒持ちだった。こんなことを予想していながら、ハリーに攻撃させた俺はかなりの悪だが、ここは知らなかったということにしておこう。

 毒はかなり嫌味なもので、なんと触っただけで毒にかかるようだ。なぜわかるかというと、今まさにアズサが毒にかかったからだ。


「きゃああーっ! 手が紫色になったぁぁ!」

 見ると、彼女の右手が見事なまでの紫ではないか。

「ハハハ、顔も紫色だぜ」


「いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 よく熟れたナスビのようにアズサの顔は紫色に染まっている。毒を治す方法は色々あって、解毒用のポーションを服用するか、治療魔法で綺麗さっぱり消すなどの方法がある。一番費用が掛からないのは時間経過だが。

 よく見るとハリーも紫色に染まっている。体力も残り2割をきっていて危うい。


「ハリー。大丈夫か!」


「アァ、全く大丈夫、ジャナイ!」

 解毒用のポーションを右手に召喚してそれをハリーに投げつける。肌に浸透する高価なタイプのポーションで、それを対象か自分につけるだけで毒が一瞬で消し飛ぶ。ちなみに割れた瓶で、ダメージは発生しない。


「ハリーちょっと休んでろよ!」

 召喚解除をしてハリーをポーチに戻した。ついでにもう一つ同じ薬を実体化して、今度はアズサに投げつける。

「ふぅー、なんか体が軽くなった気分ね。」

 そう言って、あろうことか再び拳を握りしめて紫色の毒々しいゴブリンに、喧嘩を吹っかけようとした。

「ちょっ……、バカか。また毒になるぞ」


「あ」

 ある意味恐ろしい反応速度で後ろに飛び退き、間一髪を逃れた。


 ふとユイの様子を見ると、かなり苦戦していた。なぜか赤コウモリ2体の体力が殆ど減っていない。残りのコウモリは数匹で、それに向かって≪バーニングブレイズ≫を放った。ユイの体力はかなり追いやられていて、ざっと残り2割程度だ。


「ユイ!」


「あっ……、駄目。このコウモリ魔法が効かないわ!」

 ユイの言うとおり、バーニングブレイズの炎が赤コウモリを包み込んでも、怯むどころかダメージすら殆どない。


「おそらくそれは鎧を着た熊と同じだ。俺に任せろ!」

 ユイは普通の黒コウモリを始末し終わると、すぐに後方に下がって毒持ちのゴブリンの掃討に向かった。俺は素早く動く小さな吸血鬼に向かっての突進の体制に入り、近距離の≪アサルト≫を打ち込んだ。


 微かな手ごたえとともにコウモリのライフは…………

1割以下の数字だけ減少した――


「なっ…………、ウソだろ!?」

 有り得ない。たとえ打撃が効かないとしても斬撃なら効くはずだ。


 背中に手を回し、そこにある剣の柄をしっかり掴んで抜くと同時にスキルを発動。≪ベーシックストライク≫の3コンボが赤コウモリに襲い掛かる。まず垂直に剣を下ろす。ズサッ……、としっかり手ごたえを感じ、コウモリのライフを凝視する。だが、そこに表示されているゲージを見るや否や息を飲んだ。その次も同様。ラストの三連撃も同じだった。



「そんな……!? 斬撃ですら駄目なのか?」

 さっきのアサルトよりかはわずかに多く減少したが、残りの量はざっと7割はある。その時、右腕に今までにないほどの痺れが走った。


「あぁっ……あぁ……、ってぇ。なんだ!」

 片方のコウモリが俺の右腕に噛みついたのだ。そして、凄まじい勢いでライフが減少していく。みるみるうちにコウモリのライフは戻っていき、マックスになると俺の腕から離れた。

「畜生……、何が効くんだよ……。このコウモリは!」


「あーら、苦戦してるの。だらしなーい!」

 アズサの嘲笑うかのような声が聞こえてきた。ならお前もやってみろよ…………、と呟いてアズサの様子をうかがった。その瞬間、思いがけない光景が飛び込んできた。


あれは弓だ。アズサが手に持っているのは明らかに弓だ。ロングボウよりもかなり小さくて、ショートボウ系統に属される低レベルの弓のはず。


「くっらぇっ……。≪スナイプショット≫!!」

 大きく弦を弾いて手を放すと同時に恐ろしい速度で矢が空を切り、一点に吸い込まれていくかのように赤コウモリの喉元に命中。キィィという甲高い奇声を発してコウモリが床に力なく落ちて行き、パタパタと動かしていた羽根が動かなくなると木端微塵に消滅した。


 そして、体力がマックスになっているもう片方のコウモリに向かって、更なる矢を相手の喉元めがけて放った。流星のように虚空を引き裂いて進んでいき、狙った通りに急所にあたってクリーンヒット判定でコウモリは一撃で死んだ。


「どう、今の見てた? これが私の実力よ!!」


「へー、そりゃすごいな。まさか弓術スキルを使えるとは」

 俺はアズサ自体の実力を褒めたわけではない。この中で弓術を使ってくれたことに対して褒めたのだ。

それでも彼女の弓の腕前はすごいと言わざるを得ない物だった。


 アズサの特技は拳術と指定されているが、まさかサブスキルとして上げたのが弓だとは思いもよらなかった。もしかしたら、アズサがレベルを3しか上げられなかったのは、弓術の修行をしていたからなのかもしれない。彼女の腕前は見る限りかなり上等なものだと思える。ちなみにミヤノさん曰く、弓術は一番クセがあって扱いにくいけど、玄人になると最強になるとか。



「何その意外だ~、って意見は。私だってこんな器用なことできるの!」


「何がですか?」

 そこに紫ゴブリンを始末し終えたユイがこっちに歩いてきた。その後ろにナナが一緒についてきている。

「ふふーん、アナタは魔法が使えるから良いわよね。私は弓を使わないといけないのに!」


「何ですって? 私だって魔法が特技になったから使ってるのに。近接無いのよ?」


「へぇー。魔法が特技ってことは近接ができないビビりさんなのかしら?」


「何ィィィィ!」


「おいおい、二人ともやめろ!」

 落とし穴に落ちたときはお互い笑いあって楽しそうだったのに、今では同極同士を向け合った磁石のようにお互いを嫌と言うまで引き離しあっていた。この際俺が混じっても意味がないだろう。女の喧嘩はそういう物だと母から聞いた覚えがある。


「ユウスケは黙ってて。あなただって私がいなかったら、さっきの紫ゴブリンは処理しきれなかったじゃない!」

 いつにも増して、鋭いユイの声が俺のハートを突く。

「そーいえばそうだなぁ……、ぁ……」

 反射的にそう言ってしまった。もう、次にアズサから飛ぶ言葉はだいたい予想が出来た。


「ユウスケ……アンタ、ユイに味方するの?」


「な…………、うぁ…………それはな」

 ユイもアズサも俺を蛇睨みの如く、俺をジロジロと見つめる。現実でこんな状態になったことは一度もない俺にとって、こんな状況どうしたら良いのかわからない。


 だが、巻いてしまった種はどうにかして処理しなければならない。せめて両者が傷つかないような意見を述べなければ……。だが、そんな有用な意見は存在するのだろうか? 俺の頭の思考をフル回転させてそれを探り始める。


「さっき紫ゴブリンがどうとか言ってたけど。それなら赤コウモリだって私がいなければ、永遠に血をチューチューされてたじゃないのっ!?」


「ぬぐぐぐぐぐぐ……ッ……」

 赤コウモリか……。確かにかなり有効だった弓術がなければ、処理することは難しかったはずだ。逆に紫ゴブリンもダメージ自体は通るが、毎回触るたびに毒になって赤字確定の消耗戦になる。こないだユイと闘った黄色と赤の巨人だってそうだ。


 俺が近接に弱い黄色巨人を抑えて、ユイが魔法に弱い赤色巨人を相手にしてくれたからあの時ダンジョンを晴れてクリアできたのだ。

 つまり……、要するにお互いの連携ってことか…………。



「つまりさ、お互い助け合えば良いんじゃね……?」

 これはいける。と思ったことを率直に口に出してみた。

「冗談じゃないわ。こんな緑髪のオバサンチックなオンナと協力するなんて!」


「何ですって!? 私だってなりたくてこの色になったわけじゃないのよ。私だっていつでも偉そうにしてるマダムみたいなアンタに言われる筋合いは無いわ!」


「な……、いまなんて言ったぁ……! このババァがぁ!」


「やめろ! それは言い過ぎだぞ!」

 これ以上エスカレートしたら迷宮内で対立して、先の攻略が果てしなく気まずいものになってしまう。迷宮から抜け出すには最後の部屋にたどり着くか、ここから入口まで戻らなければならない。

 もし二人が対立して迷宮から出る方と進む方に分かれたら、とてもじゃないが女性一人にするわけにはいかない。いつ何が起こるかわからない危ない場所で、安全に巡行できる実力を持ち合わせてないメンバーが別々で行動したらそれこそ危険すぎる。


「もう、あなたの顔は見たくないわ! アンタは帰って!」


「はぁ? 私がここに来たいって言ったんじゃない。だったらあなたが迷宮から出て行きなさいよ!」

 予想していた悪夢が現実になってしまった。俺は深々とため息をついてその場に座り込んだ。

「私だって最後まで進んでみたいのよ!」


「んじゃー、結局一緒に行動したいんだな……?」

 そこに俺が無茶ブリながら乱入をした。

「違うわよ!…………じゃあこうしましょ。アンタは私から5メートル以上離れて歩く!」

 おい、なんか変なゲームが始まったぞ。

「いいですよ? じゃあ言った通りちゃん離れなさいよ!?」


「いいですわよ」

 ここに一つ、問題が生じた。そう、俺はどうするんだ!?

 そんなことを考えている暇もなく二人は早速行動を開始して、アズサが前方を歩き、その5m程後ろにユイが続く。どうやら対立しても前衛(フォワード)後衛(バックアップ)の関係は変わらないご様子だ。


「ちょ……、二人とも……」

 二人ともあ、という声を漏らしてこちらを向いた。そこには戸惑った顔で二人を見る、まさしく今の俺の姿が映りこんでいたことだろう。


「……じゃあ、ユウスケは私の前ね」

 先にそう言って口を開いたのはアズサの方だった。言われたとおり前に行くとそこにユイの言葉が飛んできた。

「ちょ……、何よっ! 私が危険な目に遭ったらどうするの!?」

 俺は生命保険の一種か、と心で彼女の発言に突っ込み、アズサが再び口を開いた。

 それにしても頼りない生命保険になってしまうな。


「だって、罠が来たら危ないじゃない。だからユウスケが囮になって行けば!」

 だから俺は生命保険じゃないって、と同様の突っ込みを心の中でアズサに向かって放つ。


 その前に、コイツらの考えがえぐい。


 結局俺が近接一色のスキル構成という理由もあり、前衛(フォワード)として一番前にでて、何故かアズサの左斜めあたりを歩くことになった。アズサ曰く、横と縦のトラップに対応できるからだとか。無論このことにはユイも反抗したが、アズサのお嬢様のような嫌味口調でユイは戦意をなくしてしまい、現在に至る。




「はぁ……、だいぶ進んだよなぁ」

 現在昼の12時を回っている。そろそろボスの部屋が見えてきても良い頃だと思うのだが、一向にそれらしき物は見えてこない。

「はぁ……、はぁ……、そろそろ疲れてきたわ……。昼食にしない……?」

 それを提案したのはアズサだ。


「そ……、そうだな」

 俺も実はヘトヘトになっている。数多のモンスターとの戦闘で身も心も疲れ切っていた。当然現実世界では身体的には何にも害はないのだが。


「そろそろランチにしましょう。」


「でもどこで食べるんだ?」


「あそこ、見て」

 見るとそこには、是非休憩してくださいと言わんばかりに開けた場所があった。ゲームだと新手の罠かもしれないが、情報メールにはこのようなタイプの罠は無いので安心して休憩を取ることができそうだ。


 広間に出てみると、そこは細長い青いラインが通路の壁より多く繊細に入っていて、まるで夜の水族館のように思える。深海生物の展示フロア的なやつだ。


「わぁー、綺麗……」


「落ち着くわね……。迷宮内も捨てたもんじゃないわ」


「ほほぉ~。こりゃすげぇ~……」


「さてと、飯飯!」

 俺からそう言うと、ユイが今日の朝こしらえてきたサンドウィッチを合計6個ポーチからつまみ出して、それを2個ずつ俺達に渡した。


「そのベージュ色の包み紙がハムサンド、もう片方が卵サンド」

 卵サンドの方を手に取って、包み紙を荒々しい手つきで開ける。中にはまことにおいしそうな卵サンドが入っていた。思わず食欲を抑えきれなくて思いっきりかぶり付いた。


「んっ……、んまぃ!」

 たまに母が弁当として作ってくれる卵サンドよりとても美味しかった。母にはすごく失礼だが、母が作るサンドより星2つ分は上を行っているような気がした。やはり何事もスキルだな。


「あー、飲み物もね」

 配給されたものは町で売っている天然水だった。青色の保冷ポットに入れられた水はキンキンに冷えていて、喉に送るたび体中の疲れが取れていくようだ。だが、ユイとアズサの仲だけは元には戻ってない気がした。と言っても最初から仲が悪かったと言えばそれまでなのだが。


 10分程で食事は終わり、天然水もしっかり飲み干した。再び歩き出す頃には元気全開で今まで使ってきた魂霊力も完全に戻った気分だった。

 俺達は再び歩き出す。


「わぁ……、見えてきた……」


「これが、ボスの部屋の扉・・・!」


「やっぱり迷宮のは、スケールが違うなぁー」

 そこには壁の色と同じ黒色の扉が立ちはだかっていた。扉には恒例の彫刻が入っていて、プロの細工師総出で施したような質感でとても美しい。現実のどこの国に行っても、これに勝るものはそうそういないだろう。


「じゃあ、心の準備…………、と武器、道具の準備ね」

 俺の後ろにいるユイがアズサに近づいてきたが、アズサはさすがにここに来てまで嫌悪する様子はなく、真剣にユイの話に耳を傾けている。


「……えっと、武器はこれで良し。あぁ、余ってるマナポーションを私に譲ってほしいんだけど」


「あぁ、良いぜ」

 俺は前の廃城の迷宮のときと同様、すべてのマナポーションを彼女に譲った。ユイはにっこり笑って、それをすべて受け取りポーチにしっかり格納した。そして手持ちとして所持できる最大数をローブの裏についたポケットに突っ込んだ。



「それじゃあ……、心の準備をして……」


「あぁ、行くぞ!」

 扉を軽く押し、ギギィと軋む音を立てながらいつものようにゆっくりと開いていく。一体どんなモンスターが出るのだろうか。今までの敵のパターンからして出てくるのは、ゴブリンのリーダー格の奴か目玉人間を大きくしたようなモンスターと言ったところか。

 後者は是非出てきてほしくないとここにいる全員が思っているだろう。理由はただ一つ、キモイからだ。


 ズトンという固定されたような音が響き、扉は全開のまま停止する。そして俺達がゆっくり中に入ると扉は閉まらずそのままになった。


 迷宮やダンジョンの扉は閉まるものと閉まらないものに分けられていている。閉まるものは比較的ボスとしては弱い部類の物か、逆に攻撃力が恐ろしいほど高いボスが出現して、閉まらない場合は全体的に強い奴か攻撃力こそ少ないものの、耐久性があるボスが出現する場合が多いとギルドの人たちから聞いている。

 ちなみに例外もあるらしい。



 俺達の目先にはボスの姿はない。もしかしたら廃城のスケルトンウロボロスのような、暗黒から出でしモンスターが現れるのか。それとも、上から…………


 途端ずどーんという重低音が部屋中に響き渡った。俺のたった今の予想通り、上からボスが降ってきたのだ。ボスの名前と容姿は……


モンスター名は≪黒岩鬼(こくがんき)≫、全身は岩というよりごつごつした荒い皮膚と言った感じで、確かに質感的には似ているがそこまで硬そうには思えない。

 目は赤色に輝き、頭からは一本の角が天井にめがけて生えていてまさに鬼そのものだ。人間のように毛もきっちり生えていて、その毛は胸まで垂れている。爪はもちろん鋭利にとがっていて、圧倒的な殺意を感じ取れる。



「ゴォォォォォッ!!」

 恐ろしい声を上げて大きくジャンプした。数秒後にその場で固まっている俺達めがけて落ちてきて、全員がその場で硬直する。動こうと思う意思を邪魔してまでそれは続く。おそらく既に設定されたコイツのスキルなのだろう。


「くっ……、えーい! ≪スパーク≫!」

 ユイのワンドの先端から一気に光が放たれて、それが電撃と化して黒岩鬼に襲い掛かる。しかし、さすがにボスなだけあって、その程度の攻撃で怯んだ様子はない。ここで麻痺は解けて俺達は動けるようになったので、鬼の股を駆け抜けて後方に回り、拳術スキルの準備に入る。



「うぉぉぉぉ……、食らえぇっ!」

 両腕を力ませて力を溜める。手に意識を集中させ、両手にそれぞれ使用するスキルを設定しておく。対して鬼の方はアズサに標的を向けて、彼女は危なっかしい回避を行ってどうにか攻撃を避けている。


 力をある程度のラインまで溜め終え、大きくジャンプして背中目掛けて二つの拳を打つ。右手は≪ストロングブラキウム≫、左手は≪ヴォルカニックパンチ≫を炸裂させて、黒岩鬼は大きく前方に仰け反る。


「ゴァァッ!」

 鬼は素早く体制を立て直して、恐ろしい速度で回し蹴りを俺にぶつける。これはただの回し蹴りではない。スキルとして設定された回し蹴りの格闘術スキル≪ロークック≫だ。それをもろに打撃を食らった俺は大きく吹き飛ばされながら壁に激突し、残りのライフはあと一撃で死亡というラインにまで落ちてしまっていた。そのまま背中から地面に落ちて体の力が抜ける。


「はぁ……はぁ……。畜生……」

 声にならないような唸り声を上げながら、どうにか体を動かしてポーションを召喚し、一口ずつあおる。とくとくと口の中に流れ込む甘酸っぱいポーションを3本飲み終えると、俺の現ライフはなんとか全開にまで戻っていた。


「ゴォォォォッー!」

 今度はアズサに拳が直撃して地面にたたきつけられる。そこに更なる追撃をしようと両手を振りかざして、今にも彼女を叩き潰そうとしている。彼女のライフ残量は1割以下……、このままではIA超過でリアルで死亡する可能性が高い――


「させるかぁぁぁぁあああああっ!!」

 燃え盛る闘志を身に纏いながら全速力で突進。スキルとなって発現したそれは、鬼の足に命中して巨体は体制を崩す。俺の方向によろけてきた鬼の背中に向かって≪クラッシュ・アッパー≫を放ち、爆裂音とともに鬼は幾秒か空中を舞う。


「逃げろアズサ! 危ないぞ!」


「な……、あ……。言われなくてもわかってるわよ!」

 俊敏な動作でアズサは後方に飛び退き、回復体制に入った。もともとアズサがいた場所に、鬼が落ちてきた。俺とユイはひたすら鬼を叩かなければ……。ところでユイの調子はどうなのだろうか。


『ヴィント・シュタルク』

 冷静な透き通る声で、風属性の魔法≪ヴィント・シュタルク≫を発動。強風は俺にも吹いてきて、俺は5メートルほど吹き飛ばされた。


「ごめんね、ユウスケ。私が次の魔法の準備するまで時間を稼いで!」


「おぅよ!」

 再び突進してわずかなダメージを与え、そこからナイフでの機動性重視の戦闘を行う。俺の基本的なナイフ戦闘はひたすらスキルをつなげて切り刻むものだが、前にどこかでそのような戦いの方が主流だと知ったので、俺はこちらも練習してみることにした。


 無論こちらは機動性なので、ゲツガから教えてもらった弾き防御と、『アレ』は有効でないが。


「はぁぁっ、せやぁぁぁっ、とりゃぁぁぁっー!」

 シークエンススラッシュを撃ち込み、コンボが危うくなったらそこで中断して一旦距離をとって、相手が突進してきたら素早く後ろに回り込んで背中を壁のように駆け上がり、首筋を狙って≪ブラッディネイル≫を打ち込む。

 真紅の火花を大量に散らしながらクリティカルに特化した二つの斬撃が首筋を抉る。


「グル……、ゴァァァァァァァァ!」

 俺の攻撃に気づいた黒岩鬼が素早くこちら側に向き、横から手を開いた状態で俺に迫る。おそらくビンタだろうが、俺達にとってはそんなレベルで済むような代物ではない。手を≪ローキック≫でなんとか迎撃し、軽く体制を崩した鬼の腹に向かって飛び掛かり、そこに荒々しい≪サベージネイル≫を見舞う。


 少し発動が遅れたものの、全部の斬撃をしっかり見舞って俺は再びアウェイする。少しだけ遠ざかる鬼の周辺に火花が散っていた。



 その時回復を終えたアズサが、鬼に向かって複数の攻撃を行う。あれはおそらくパウントだ。俺はかなりスキルレベルを上げないと手に入らなかったのだが、彼女はもう既に手に入れている。彼女のスキルレベルは100未満なのは確かな事だ。それなのに手に入れている。


 彼女が拳術特技なせいなのか……、はたまた別の理由なのか……。


「とぉぉっりゃああああ!!」

 スキルのフィニッシュが決まり、鬼は大きく体制を崩す。だが、地面に手をついて回し蹴りの要領で再びスキルを発動させてアズサを吹っ飛ばそうと襲い掛かる――


 しかし、ここは前衛(フォワード)が二人いることを忘れないでほしい。回し蹴りによって頭が下がっているので、そこに向かって怒涛のナイフスキルを発動させる-


「うぉぉぉぉ……! シークエンス……、スラッシュッ!」

 速く、より速く……、もっと速く……。今までの中で出せる最大速度で攻撃を入れなければ、アズサに蹴りが命中して不快な思いを与えてしまうだろう。だから……もっと素早く! 加速してくれ、俺の右腕よ。


 計二十一連撃、今までの記録を大いに更新して新しい自己記録が生まれた。だが、まだ鬼の動きは止まっていない。攻撃を取りやめて足を地面についたものの、そこから立ち上がるのと同時にまたもやアズサに向かって攻撃を行おうとしている。あれはおそらくアッパー系の技……。


 まだ俺の攻撃は終わってはいない。≪サイレント・スタブ≫を脇腹に打ち込み、鬼はそれに驚いたように飛び退いてちょうど俺の真後ろに来る。


「ゴァァァァァアアアア!!」


「ユウスケ、そこから退避して! いっけぇっー、≪インフィニティデストロイヤー≫!!」

 俺は必死に走って鬼から逃げようと試みた。それと同時に少し先にいるユイが炎の魔方陣を空中に召喚してそこから巨大な大砲が出現、まさに音だけでなくスキルの発動も艦砲射撃だ。同様の音が響き渡り、凄まじい速度で俺の真上を火の大砲が過ぎる。刹那後方から凄まじい大音響が響き渡り、鬼の叫び声が聞こえた。


「……ッ、まだよ。まだ鬼はやられてない!」

 ユイの言うとおりそこには残り1割程度を残した黒岩鬼の姿があった。幸いバーサーク化する様子はない。


「ゴオオオオオォォォッ!!」

 叫び声とともに、その巨体からは想像できないような動作で、黒髪の少女に殺意が向けられた。アズサはその場できょとんとしたまま、動く様子がない。


「何やってんだ! はやく回避行動をとれ……、アズサッ!」

 俺が叫んだ時はもう遅かった。やっと彼女が体を動かしたのもつかの間、鬼の右拳がアズサを直撃して彼女は大きく宙を舞う。そこに左手の追撃が迫る――



(させない!)

 声にならない叫びが心の中でこだまして、足に力を込めて飛びかかる。現実ではありえないような速度で、迫り来る鬼の前に立ちはだかり左拳を迎撃する準備に入る。腰が下がっている今の俺の体勢では、到底ローキックは放てないだろう。ならば、その代わりを放てばいい。

 要は縦に向かって蹴ればいいのだ。


「吹っ飛べぇ……!」

 小さく呟いて俺は≪サマーソルト≫を、目の前に鬼の拳が来た状態で打ち込む。予定通り拳は上向きに飛んでいき、鬼はよろよろとしているだろう。そして、縦向きの一回転の蹴りと同時に後ろにバックしてアズサを回収する。



 ところが、俺の計画したことを崩すような事が起きた。

「ゴォォォォォ!!!」

 祈祷する動作に似たその動き、まさしく硬い両手を床に打ち付ける動作だ。このままではアズサの命は皆無になるに等しい。俺は気絶気味のアズサに一番薬効の良いポーションを飲ませ、≪ベーシックパンチ≫で思いっきり吹っ飛ばす。アズサは予定通り宙を舞って飛んでいき、そして――


 鬼の両拳が俺に打ち付けられた。


 俺の意識はそこで途絶えた。






「……………………ッ!」


「………………スケッ!」

 誰かが俺を読んでいる――

「…………ユウスケッ!!」

 この声……懐かしいような……。


「ユウスケッ!」

 涙を浮かばせ俺の体を揺さぶっているのは見覚えのある人物だ。そう、一緒にあの怪物を倒したウェーブショートの女性、黄色と灰色のコントラストの一風変わったローブを身に着けた……。

 ユイ…………。


「どぁっ……、何があったんだ?」

 重い体をなんとかして動かしながら、上体を起こす。

「何って……、ユウスケが失神したままだったのよ!」

 涙を瞳いっぱいに浮かばせながら、俺に向かって訴える様に叫んだ。

「え……。どれくらい?」


「えっと……、多分20分くらいかなぁ……」

 な……、長くないですか。

「そうよ……、全く、私を殴ってまで庇おうとして……。アンタってホント馬鹿だわ」

 声が聞こえた方向に立っていたのは、ともに戦ってきた黒髪の少女、アズサ……、だ。


「アズサがぼーっとしてるからだろ? ちゃんと動いてくれよ」


「悪かったわ……」


「ところで、黒岩鬼は?」

 そういえば、やけに静かだ……。 

「私が……、残りの体力を……、すべて削りきったわ」

 ユイが震える声で呟いた。

「おぉ……、ありがとな。たっく…………、危険な一日だったぜ」


「それを言うなら危険なデートとでも言ったほうがよくない?」


「……は?」


「ほーら、男一人で女一人だったらまさに……」

 アズサが何かを言おうとした。


 今日の狩りでアズサがだいたいどんな性格なのか分かった。エルザさんほどではないが男勝りで尚且つ口喧嘩が強い。もちろん対抗したユイもかなりのものだが、ユイより覇気を持っている……。こんな性格でギルハンに混ぜて大丈夫なのか、ギルドで性格合う人が出るか……。


 黒髪の少女は二人が腰を下ろしている中で、腕を組んで天井を見上げていた。


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