第1話
若干のグロ描写がありますので、ご注意ください。
全6話で毎日投稿予定です。
硬く、濡れたものの上を滑らせた。
手のひらの分だけ奥へ。そして、手前へと引いた。何度も、往復させた。
ふたつは密着していた。貼りつかないように気をつける。重ね合わせてしまうと、動きにくくなるのだ。少し、隙間を作るくらいがよかった。
薄い金属を砥石から引き剥がした。
手元に近いほうは、やや肉厚になっている。背のほうも同じだ。手のひらに収まるくらいのナイフだった。
注意深く点検して、わずかな歪みを見つけた。砥石に軽くあてて歪みを正した。薄い刃は、ちょっとした力の入れ具合で正しくもなり、悪くもなる。集中して磨く必要があった。
「できた」
満足の吐息が唇を湿らせた。清水に浸し、やわらかい布で水気を拭き取った。美しく、先鋭な刃がきらめいていた。
ネイザは目尻を下げた。刃物を見続けていると、吸い込まれそうになる。美麗な容姿の虜になりそうだった。
ナイフは紙のように薄かった。正面から見ていると、目の間がこじ開けられるような感覚を覚えた。
見た目は冷たい金属だったが、ずっと手に持っていると、温もりを感じるようになる。体温が伝わっているのだ。そう考えると、自分の身体の一部のような気がしてくる。
そっと、腕にあてた。肉に分け入った。皮膚の断層が見えた。すぐに赤く塗りつぶされてしまった。
舌先で傷を舐めた。口に含んだ。舐める。味わう。
「あら」
何度か続けるうちに、目が眩んできた。心臓の鼓動が早くなっていた。
笑った。
自分の行為が変だと思った。でも、やめられなかった。
ネイザは、部屋の片隅で目を見開いている少女に微笑んだ。彼女に見せていたのだ。
少女は猿轡を噛まされ、両手両足を縛られていた。コート掛けとベッドの脚の間で、身動きが取れない状態だった。
彼女の胸は激しく上下していた。恐怖を感じているようだった。想像の範疇で考えられる未来の情景が、ひとつしか浮かんでいないだろう。それは間違いではない。
「かわいいわね」
ネイザは少女の上を撫でた。ナイフがお仕着せの衣服を切り裂いた。ネイザは布の合わせ目を開いた。白い肌が露わになった。
少女は激しく首を振った。逃れようと必死だ。縄が絞まり、手首と足首が赤くなった。
「静かにして。あまり暴れると、死んじゃうかもしれないわ」
ネイザは優しく言った。少女の目は見開かれたままだったが、説得の甲斐があったのか、大人しくなった。ネイザの言動から、死なないですむかもしれないと気づいたのだ。
「大丈夫よ、ルゥ」
ネイザは幼い顔立ちの少女の腹の上に馬乗りになった。使用人の服を脇に押しやり、肌と肌を触れ合わせる。ネイザの太股の間で、柔らかい肉が押し潰された。荒い呼吸がネイザの体を押し上げていた。
「興奮しているのね」
ルゥの涙の筋が太くなった。助けてと懇願している。猿轡が湿っていた。乳房の間から汗が伝い落ちた。
手の中のナイフが温かかった。少女の命も手のうちにある。二つとも、自分のものだった。
ナイフで切る。
どこを切ろうか。
縄を切断すれば、解放することになる。肉に深く分け入れば、命を終わらせることもできた。
今は、どちらもしない。
ネイザは笑い声を聞いた。
自分の声だった。




