第3話 終わらない遊び
土曜日の『決壊』以降、俺と美月の間には、両親の知らない秘密のやりとりが増えていった。
それは例えば、入浴前に、こっそりトイレで合流することだ。
「そのまま洗濯機に入れればバレないから」という、美月なりの合理的な理由に基づいた、彼女の『遊び』の場。
『……おにい、入って』
スマホにメッセージが届いたタイミングで、俺が中へ滑り込む。スカートに素足の美月がいた。
靴下は、汚さないように脱衣所のカゴに片付けてきたのだろう。
「見て。……学校でちょっとずつ出してみた」
美月は立ったまま、下着の中だけが見えるよう、膝付近までずり下げ、その『成果』を俺に向けた。
純白だったはずの綿の布地は、中央部を中心にいびつな琥珀色の濃いグラデーションが何層にも描かれている。
あえて白を選んでいるのは、このコントラストを目立たせるためだろう。
それは単なる汚れというより、彼女の一日の痕跡が地層のように積み重なった、粘り気のある色彩だった。何度も濡れては乾かされたことで生まれた、獣のような独特の匂いが立ち込める。
「いつか本当に漏らすぞ」
「絶対無いし。……今日も、押して」
下着を履きなおし、スカートをめくって、そのままトイレに座る、という本末転倒な姿を晒す。
俺はもう気に留めず、促されるまま、ヘソの下をゆっくりと押し込む。
「んっ……」
瞬く間に下着の中心が濃くなり、ぽちゃぽちゃぽちゃと、不規則に便器に落ちる雫の音と共に、すっかり慣れはじめた尿臭が立ち上る。
「ねえ……おにいも、してみる? 気持ちいいよ?」
「……いや、流石にそれはいい」
彼女の、熱を帯びたような表情に、これ以上引きずられないよう、声に明確な意思を込めた。
それは例えば、ある金曜日の夜。
美月からの「たまには手伝って」という一声で風呂掃除に呼ばれた日のこと。
湯気のこもる浴室で、俺たちは無言でタイルを磨く。換気扇の音が低く響き、外の世界の喧騒を遮断していた。美月は、すでに落ち着きがない。
デッキブラシを動かす手を止めると、浴槽の縁に腰をかけて足を開く。
「出る…見てて…」
相当我慢をしてたのだろう、いつものハーフパンツが、股間を中心に一瞬で黒ずんでいく。
――じゅあぁぁっ…………
お尻の両脇から、ハーフパンツの裾から溢れた奔流が、浴槽を滑り落ち、タイルの目地をなぞるように、前へ後ろへと広がっていく。
美月は満足したのか、シャワーの水を出し、俺の足元へと向けた。
シャワーの湯気と、彼女から溢れたばかりの鋭いアンモニア臭が混ざり合い、密室の空気は逃げ場を失って肺の奥まで重く沈殿していく。素足に触れる水の温度が、彼女の体温そのものであることに、俺は抗いようのない眩暈を覚えた。
ふと、考えがよぎる。
美月が感じている、この『解放』の瞬間。
あの土曜日、俺の目の前で全てを台無しにした妹の、あの恍惚とした瞳。
もし、俺が同じことをしたら?いや、男がやっても、こんなに濃密で、執着に満ちた匂いにはならないだろう。この、布地を通して立ち上る、生命力に満ちたツンとした熱気。
それは、美月という少女が、女性へと変わっていく過程で生み出す、彼女にしか許されない『遊び』なのだろう。
「……おにい、顔が赤いよ」
美月が、ついさっきまで股間を抑えていた、自身の出した汚れで濡れた指先で俺の頬をなぞった。
指先から伝わる、生温かい湿り気と臭い。
「私に酔っちゃった?」
俺は何も答えられなかった。
美月は、俺のその沈黙を『肯定』と受け取ったようで、満足げにシャワーを切った。
「……じゃあ、このままお風呂入るから出てって」
彼女は、俺を自分の汚濁に浸しきったことに満足したのか、急に興味を失ったような冷めた声で告げた。俺を壊そうとしておきながら、自分だけは平然と日常に戻っていく。その身勝手な残酷さに、俺は言葉を失い、美月に背を向け、風呂場から立ち去った。
妹が作り出す、この壊れた非日常。
終わりのない、エスカレートしていく危険な遊びに、俺はどう向き合うべきか考えあぐねていた。
だが、この温い停滞を切り裂く『終焉』は、思ったよりも早く、美月にとって最悪の形で訪れることになる。




