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「悪役令嬢は二度目の人生、自分を磨くことに忙しい」  作者: 月雅


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第七話:騎士団の洗顔


「待ちなさい。その汚れた手で商品に触れないで!」


私の鋭い声が、工房の入り口で響き渡った。

そこにいたのは、王都から派遣された重装備の騎士団だ。

先頭に立つ小隊長が、抜きかけた剣を止めて目を剥いた。


「なんだと? 我々は王太子の命を受け、この地の有害な薬物を取り押さえに来たのだ」


私は一歩も引かず、小隊長の顔を正面から指さした。


「薬物よりも先に、ご自分の鼻の頭を見なさい。油と埃で毛穴が詰まり、真っ黒ではありませんか」


「……は?」


「そんな不潔な手で私の最高傑作に触れるなど、美容顧問として断じて許しません。今すぐそこへ並びなさい」


騎士たちは顔を見合わせた。

彼らは数日間の行軍で、汗と砂にまみれている。

鎧の中は蒸れ、顔はテカテカと光り、見るからに肌環境は劣悪だ。


私はアンナに目配せをした。

彼女は心得たように、たっぷり泡立てた特製クレイソープの桶を運んでくる。


「何をするつもりだ!」


「いいから黙って顔を出しなさい。これは公務執行妨害ではありません。人道的なスキンケアです」


私は動揺する騎士たちの顔に、容赦なくもこもこの泡を乗せていった。

前世のテクニックを駆使し、素早く、かつ的確に。

指先で小鼻の横をくるくるとマッサージする。


「お、おい……なんだこれ、冷たくて気持ちいいぞ」

「顔の熱が引いていくようだ……」


強面な騎士たちの顔から、次々と毒気が抜けていく。

仕上げに、ハーブを精製した冷たい蒸留水を霧吹きでたっぷりと浴びせた。


「あぁ……生き返る……」


一人の騎士が、うっとりと目を閉じて呟いた。

洗顔を終えた彼らの顔は、見違えるほど明るくなっている。

くすみが取れ、清潔感溢れる「美しき近衛騎士」の姿がそこにあった。


「さて、まだ私の石鹸が『毒物』だと言い張るのかしら?」


私が腕を組んで問いかけると、小隊長は赤くなった顔で俯いた。


「……いや。これほど清々しい気分になったのは初めてだ。肌が呼吸しているような、不思議な感覚だ」


「でしょうね。あなたたちの肌は、悲鳴を上げていたんですもの」


工房の影で、カイザルが呆れたように笑いながら姿を現した。

彼は仮面を外した素顔を堂々と晒している。

その滑らかになった右頬を見て、騎士たちが驚愕に目を見開いた。


「ヴァレリウスの皇帝陛下……!? なぜここに……」


「俺はこの地の商品の、独占契約者だ。貴殿らが持ち帰ろうとしているのは、我が帝国の財産ということになるが?」


カイザルの冷徹な圧に、騎士団は蛇に睨まれた蛙のように硬直した。

王太子の命令よりも、目の前の圧倒的な実力者と、自分たちの肌に起きた劇的な変化。

どちらを信じるべきか、答えは明白だった。


「も、申し訳ございません! 調査の結果、毒物の疑いは晴れました! 直ちに帰還し、報告いたします!」


騎士たちは洗顔のお礼にと、自分たちの食料を置いて逃げるように去っていった。


「ふふ、これで王都にも本物のクレンジングの素晴らしさが伝わるわね」


私は満足げに頷いた。

美容液の精製は、もう間もなく完了する。

次は、王都の厚化粧な貴婦人たちを、私の虜にする番だ。

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