表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「悪役令嬢は二度目の人生、自分を磨くことに忙しい」  作者: 月雅


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/10

第六話:王都に忍び寄る噂


三週間前、私は王都を追い出された。


その事実は、今や私にとって最高のギフトとなっている。

ロゼリア領の地下ラボでは、カイザルが手配した帝国の魔導精製機がフル稼働していた。


「お嬢様、王都の商人が門前で土下座しております!」


侍女のアンナが息を切らせて飛び込んできた。

彼女の肌は今や、白桃のように瑞々しく輝いている。

領民たちの肌が劇的に綺麗になった噂は、行商人を通じてあっという間に王都へ広がったのだ。


「土下座なんて、お肌に悪いからやめさせて。今は契約済みの分を作るので手一杯よ」


私は冷静にハーブの配合比率を調整する。

王都では今、異変が起きているはずだ。


一方、王宮の奥。

聖女リアナは鏡の前で悲鳴を上げていた。


「どうして! もっと粉を塗りなさい!」


彼女の肌は、長年の鉛入り白粉によって灰色にくすんでいた。

それを隠そうと厚く塗れば塗るほど、肌は乾燥し、ひび割れていく。


隣で見守るセドリック王太子も、眉をひそめていた。

リアナの顔は、まるで古い漆喰の壁のように粉を吹いている。


「リアナ、少し化粧を控えたらどうだ? 最近、なんだか……その、質感が不自然だ」


「殿下までそんなことをおっしゃるなんて! これは高貴な証なのですわ!」


リアナは泣き叫んだが、その涙がさらに化粧をドロドロに溶かしていく。

彼女は知っていた。

王都の令嬢たちの間で、ある「秘密の石鹸」が流行り始めていることを。


「ロゼリア領の泥石鹸……。あんな呪われた地のものを、皆こぞって買い求めているなんて」


リアナの瞳にどす黒い嫉妬が宿る。

彼女にとって、イリスは自分を美しく見せるための踏み台だったはずだ。

その踏み台が、自分よりも価値のあるものを作り出していることが許せない。


「殿下、あれは毒ですわ。人々の肌を一時的に白く見せ、後に腐らせる禁忌の魔術です!」


「……毒だと?」


「ええ。すぐに調査団を派遣して、販売を禁止すべきです。民が被害に遭う前に!」


リアナの嘘に、単純なセドリックは大きく頷いた。

彼はまだ、自分が捨てた婚約者がどれほどの革命を起こしているか理解していない。


その頃、私は帝国の技術者たちと新しい試作品を囲んでいた。

それは、肌のキメを整える「美容液」の原型。


「イリス、王都から兵が来るという噂があるが」


いつの間にか背後に立っていたカイザルが、低く言った。

彼の右頬の傷は、私のお手入れのおかげで驚くほど落ち着いている。

炎症が消え、今や精悍な顔立ちを際立たせるアクセントのようになっていた。


「あら、ちょうどいいわ。新作のテスターが必要だと思っていたところですもの」


「……お前は本当に、肝が据わっているな」


カイザルが呆れたように、しかし愛おしそうに目を細める。


「美しさは正義です。偽物の美を振りかざす人たちに、本物の輝きを見せてあげましょう」


私は不敵に笑った。

王都の兵が来るなら、彼らの顔もまとめて洗ってあげるまでだ。

洗顔の重要性を知らない男たちに、ロゼリアの洗礼を授けてあげよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ