32
(中身アラフィフ、外見14歳)
その夜、私はブローチをそっと机に置き、ペンダントを胸元に戻した。
記録者としての準備は整っている。
あとは、決定的な瞬間を捉えるだけ。
◇◇◇
気がつけば、ミレーヌが入学してから1年半近く経った。
学園も王宮も、すっかり“聖女様のための世界”に改装済み。
(乙女ゲームか漫画か知らないけど、作者、ミレーヌに肩入れしすぎ。サブキャラやモブの心情? そんなの背景の模様扱いよ)
彼女の言葉に酔いしれ、手相に未来を見たがる男子たち。
でも私は知っている。
その“未来”は、彼女が作った幻想。
(前世おばちゃんだった私は、こういう“自己中発光系女子”に仕事押し付けられまくった)
仕事の締切り前日に休んで「先輩、後、お願いします」とL◯NEで連絡
年上新人が「なぜ私が?」「なぜこの手順?」と質問攻撃
家の事情で残業不可 → 家で無給(残業)作業
そして、家事をすれば、父に「ご飯が遅い」と責められる。
残業して提出しても、誰からの感謝もなく。
むしろ誤字脱字やミスを探されてディスられる。
(あの頃の私は、精神的にも肉体的にも“すり減り職人”。しかも“感謝されないプロ”)
ミレーヌの笑顔が、あの自己中心的な人たちと重なる。
自分が正しい。自分が特別。
周囲は“自分を輝かせるための道具”。
(前世で何度も見たわ。“私は悪くない”って言いながら、周囲を疲弊させるタイプ。笑顔で地雷を踏ませてくる)
今の家族は、ちゃんと私を見てくれている。
今世の父は出世重視タイプだけど、前世の父よりは100倍マシ。
両親はいつも私の事を褒めてくれる。
「セレナ、今回の発明はすごいわね」
「お前の努力は、ちゃんと見てる」
(その一言で、おばちゃんは生き返るのよ。感謝って、魔法より効く)
ー記録補足:前世の記憶と今の心情ー
・前世:自己中心的な同僚+介護の板挟みで精神崩壊寸前
・今世:家族の愛情に支えられ、記録者として覚醒
・通信装置:イザベラとの連携確立。記録共有は可能。発信は封印
・音声記憶装置:試作成功。音声記録は次段階へ
リュシアンが、音声を記録できる装置として、ブローチ型通信装置をペンダント型に変えて録音機能を追加。
魔力の振動を音声として記録する術式が完成した。
「セレナさん。これで、記録に“声”が加わります。映像も記録できるように、今試作中です」
「さらに映像まで?」
「はい。以前のセレナさんのお話を聞いて、全て一つにした方がいいのかと思いまして」
(ありがとう、リュシアン。何も言わなくても察するなんて、流石にできる男子。 これで“未来が輝いてます♡”の音声も映像も、偽の聖女スマイルも証拠として提出できるわ。しかも波形付き。科学と魔法の融合よ)
ー開発記録:魔力検知計測器・通信装置(録音機能付き)ー
・形式:ペンダント型。音声記録可能
・成功点:魔力波形の安定化、音声保存 ・課題:魔力消費が大きく、長時間記録不可
・応用:ミレーヌの言動記録、王妃への提出資料
それから私は、学園でミレーヌの動きをさらに細かく観察しはじめた。
彼女は、いつものようにレオンに寄り添い、手相を見ながら囁いた。
「レオン様の未来は、王としての器に満ちています。私には、光が見えるのです」
(出た、“光が見える”発言。もはや照明器具よ。LED級の眩しさ)
すれ違いざまにペンダントを作動。
魔力反応は2.6倍。
録音はわずか数秒だったが、彼女の声は鮮明に記録されていた。
リュシアンが改良を重ねた魔力通信装置は、 音声の送受信だけでなく、魔力波形の安定記録にも成功していた。
(前世では“Wi-Fiつながらない”で絶望してたのに、今世は“魔力が乱れて波形が揺れてる”よ。文明の方向性、どこ向かってるの? 魔法とテクノロジーが交差して、もはや混線中)
試験運用では、学園内での会話を問題なく記録。 これなら王宮にいるイザベラとも連絡が取れるかもしれない
――そう思った矢先、彼女が久しぶりに登校した。
「イザベラ!」
思わず駆け寄りそうになったが、すぐに足を止めた。
周囲の視線が、妙に鋭い。まるで、誰もが“ミレーヌの目”になっているようだった。
(今、彼女に通信装置のことを話すのは危険すぎる。あの子の“聖女ネットワーク”、もはや盗聴レベル。盗聴どころか、盗視・盗感・盗心までフル装備)
そっとペンダントを彼女に渡した。
イザベラは「ありがとう」とだけ言って、静かに教室へ向かった。
顔には何の感情も浮かんでいなかったけれど、瞳の奥には、確かな怒りと悲しみが宿っていた。
ミレーヌは、今日もレオンにべったり。 手相を見ながら囁き、腕を軽く触れ、笑顔を向ける。 そのたびに、レオンは柔らかく微笑み返す。
(あの子、手相見てるんじゃなくて“恋愛スクリプト”読んでるのよ。しかも台詞が毎回「未来が輝いてます♡」って、辞書の“未来”のページだけ破って持ち歩いてる?)
イザベラは、ミレーヌとレオンの様子を遠くから見ていた。
妃教育を受けている彼女は、表情を崩さない。 けれど、指先がわずかに震えていた。
(彼女の心、どれだけ傷ついてるんだろう。ていうか、王妃教育って“耐える力”まで鍛えるの? それ、修行よ。イザベラなら悟り開けそう)
リュシアンの家の地下室で、今日録音したものを再生。
「…王としての器に満ちています。私には、光が見えるのです」
リュシアンは眉をひそめて言った。
「この言葉、魔力の波形と一致しています。精神干渉の兆候がある。彼女は、言葉に魔力を乗せている」
「つまり、“言葉による魅了”」
「そうです。これは、証拠になります」
ー記録補足:ミレーヌの言動(録音)ー
・発言:「王としての器に満ちています。私には、光が見えるのです」
・魔力反応:2.6倍。精神干渉の波形あり
・対象:レオン。反応後、表情が変化
・評価:魅了系魔力の言語干渉。証拠として有効
ペンを置いたとき、私は確かに“手応え”を感じていた。
◇◇◇
私は、王宮でイザベラが一人になる時間を狙って、ペンダント型の通信装置を起動。
通信は、ほんの数分。録音機能の追加と、ミレーヌの魔力波形の記録を伝えると、彼女は静かに息を呑んだ。
「…それ、本当に記録できたの?」
(ええ、録ったわよ。“未来が輝いてます♡”の魔力付きボイス。波形までバッチリ。盗聴犯罪してるけど)
「言葉と魔力波形、両方揃ってる。精神干渉の兆候もある」
「それなら…王妃様に提出できるかもしれない」
「でも、イザベラ、私が王宮に直接届けるのは危険すぎる」
「わかってる。私が動く。王妃様に、慎重に渡す」
その言葉を最後に、通信は途絶えた。
それ以降、イザベラからの連絡はない。
あれから、王宮の空気はミレーヌ色に深く染まりつつある。
王様はミレーヌを“聖女”として崇め、侍女たちは手相を見てもらうために列を作る。
(王宮、もはや“聖女テーマパーク”。手相見てもらって未来が輝くなら、私も並ぶわよ。)
イザベラが表立って動くには、あまりにも危険すぎる。
通信装置は双方向だけれど、王宮では誰が何を見て、何を聞いているかわからない。
伝え漏れ聞く話では、ミレーヌは王宮の人々の心をどんどん掌握している。
(あの子、魔力だけじゃなく“人心操作”までフルコンボ。もはや“聖女”じゃなくて“王宮版インフルエンサー”)
だから、私は沈黙を選んだ。待つしかない。
前世でも、私は“待つ”ということに苦しんでいた。
後輩に進捗確認 → 「やってます!!」の刺々しい返答
締め切り直前に休まれ → 「先輩お願いします」引き継ぎもなく電話のみで一方的に
通知 暇そうな新人に仕事を振ろうとすると → 「なぜ私が?」の自己主張三連コンボ
家では父に「ご飯遅い」と責められ → 無給残業で精神すり減り
(あの頃の私は、限界突破してたわ。心も体も“ブラック企業のエネルギー源”だった)
でも、今の私は一人じゃない。
リュシアンがいる。
家族がいる。
イザベラがいる。
それだけでも、充分幸せだ。
お読みいただきありがとうございます。
よろしければ、下の☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると大変励みになります。




