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(中身アラフィフ、外見14歳)
中庭のベンチで一人ランチを食べていた私の少し前を、エドワルドとミレーヌが並んで歩いていくのが見えた。 彼女は、彼の腕に軽く触れながら笑っていた。
「エドワルド様の瞳、今日もいつも以上に輝いていますね。未来が楽しみです♡」
(また“未来”か。何回目よ。未来未来って、あなたの語彙の少なさはなに?前世で誰かが白色は100種類あるって言っていたけど、未来って言葉、百通りあった?)
私が視線を向けると、エドワルドは露骨に顔をしかめた。
そして、ミレーヌが私に気づき、勝ち誇ったように微笑む。
(あの顔…“私の方が選ばれてる”って言ってるわね。ええ、選ばれてるわよ。“脳内単独春祭り”の主役に)
私は、ノートに新しい記録を追加した。
ー観察記録:エドワルドの態度ー
・3月5日(火)中庭にて
・ミレーヌと接触時:笑顔、柔和な態度、積極的な会話
・私に対して:無言、睨み、避ける行動
・婚約継続理由:発明による特許収入の維持
・婚約破棄不可理由:グランディール侯爵の意向、私の特許の利益
(つまり、私は“金づる”。愛情ゼロ、利益100。エドワルドにとって私は“嫁”じゃなくて“打ち出の小槌”しかも自動で特許料がチャリンチャリンと出てくる高性能型)
(あの顔で睨んでくるけど、こっちは“睨まれ耐性”レベルMAXよ。前世で上司に理不尽に怒鳴られた経験がある女をなめるなって話)
(そしてミレーヌ。あの“勝ち誇りスマイル”は、前世の婚活パーティーで見たわ。隣の男が高収入ってわかった瞬間に出るやつ。ええ、あれは“勝者の顔”じゃなくて“狩人の顔”)
私は、今日も冷静に記録を続ける。
これは嫉妬じゃない。
これは分析。 これは未来の証拠資料。
そして、いつか来る“婚約破棄の日”のための準備。
(私は“未来が楽しみ”なんて言わない。けど、“未来をぶった斬る準備”なら、もう完了間近)
◇◇◇
放課後、いつものように私はリュシアンの家へ向かった。
彼は、ノートをさらに改良してくれていた。 ページの開きが滑らかになっていて、記録しやすくなっていた。
「ありがとう。これ、すごく使いやすい」
「セレナさんのノートに記録されていることは、僕の研究にも役立ちます。だから、僕のためでもあります」
(ああもう、そういうとこよリュシアン。恩着せがましくない優しさって、心に染みるの。“僕のためです”って言いながら、ちゃんと私のために作ってくれてるの、知ってるから)
「以前、イザベラ様がおっしゃっていた、ミレーヌに触られると魔力の揺れを感じた話から、魔力の反応を測る装置を試作しました」
「これができれば、彼女に近づいたとき、数値が変化するか確認できます」
私は目を見開いた。
(リュシアン、ほんとに頼りになる。ていうか、私の観察日記がガチの科学捜査記録に進化しる?)
「それ、もう使えるの?」
「まだ不安定ですが、試してみる価値はあると思います」
私はノートを開き、次のページに「魔力検知計測計画」と書き込んだ。
観察は、次の段階へ進む。記録から、検証へ。
リュシアンは静かに笑った。
「セレナさんが記録してくださるので、過去の情報を思い出しながら、冷静に考えられます。…ありがとうございます」
その言葉に、胸が少しだけ温かくなった。
(リュシアンが私の側にいてくれて、本当によかった。前世では“孤独な傍観者“であり、“搾取される者”だったけど、今世は“共同研究者”がいるの最高ね。)
◇◇◇
私はペンダント型の試作機を制服の襟元に忍ばせ、学園へ向かった。
見た目はただの飾り。でも、中には魔力反応を記録する小型石板が仕込まれている。
(見た目は可愛いけど、中身はガチの調査兵器。これ、恋愛バトルじゃなくて情報戦よ)
昼休み、“偶然”を装ってミレーヌの近くを通る。 彼女はエドワルドと並んで座り、例のごとく手相を見ながら囁いていた。
「エドワルド様の運命線、やはり大物になると出ています。未来が輝いています♡」
(またそれか…“未来が輝いてる”って、何回言えば気が済むのよ。語彙力、過去に置いてきた?)
エドワルドはどうでもいい。
でも、レオンやカイル、グレイと話していると、不自然なくらい、何度も何度ミレーヌが現れて、彼らとゆっくり話すことができなない。
イザベラも妃教育で、ほとんど学校に来ない。
(…私の毎日の日課は、目下嫌いなカップルの観察日記。もう、精神修行の為の苦行の域)
勝ち誇った顔で私の横を通り抜けたミレーヌと、すれ違いざまに私はペンダントに触れる。
石板の表面が微かに光った。
数値は通常時の約1.8倍。確かに、何かが揺れている。
その後も、彼女が男子に触れるたびに数値は跳ねた。
・レオン:3.3倍。
・カイル:2.9倍。
・グレイ:2.7倍。
・エドワルド:なんと20.5倍。
(男性だけ数値が跳ね上がるのはなぜ…? そしてエドワルド…ダントツ。もはや“聖女”じゃなくて“エドワルド特化型魔力増幅装置”?)
放課後、リュシアンに結果を報告すると、彼は静かにうなずいた。
「予想以上ですね。これだけ魔力の反応があるなら、彼女の力は本物かもしれません」
「でも、“聖女”って…こんなに男子にだけ反応するもんなの?」
「それが不自然なのです。魔力というのは、本来、対象を選ばないはずですから」
私はノートを見つめながら考え込んだ。
ミレーヌの力は、男子にだけ強く働く。
女子には、ほとんど反応がない。
まるで、意図的に“魅了”しているかのよう。
(これは…“聖女”じゃなくて、“魔女”の力じゃない? ていうか、“恋愛特化型魔女”って新ジャンル?)
◇◇◇
私とリュシアンが共同開発した“記録用ノート”は、今や学園で販売されている。
ページが均等に開き、綴じ目がしっかり補強され、表紙も頑丈になった記録対応の特製ノート。 これでノートを持ち歩く私の行動も怪しくなくなった。
そして、特許費用は、もちろん、私とリュシアンに入る。
(夜なべの成果が収益化。大半がリュシアンのおかげだけど…。前世の残業代より、よっぽど割がいい)
エドワルドは、ここ最近、更に超不機嫌。
睨むどころか私をその眼力で打ち殺すレベルにバージョンアップ。
理由は、「ノートの特許は、婚約者の自分と共同で発表すべきだった」らしい。
(いやいや、あなた何もしてないじゃない。ペンすら握ってないでしょ?“婚約者”ってだけで手柄横取りしようとするその根性、もはや貴族界のジャ◯アン。)
そしてミレーヌが、その怒りをあおる。
「婚約者なのにエドワルド様の名前が載っていないなんて…不公平です」
(出た、“不公平”マウント。前世でも聞いた。会議で手柄横取りされたときのやつ。あれね、“貢献ゼロで主役気取り”の典型)
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