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(中身アラフィフ、外見13歳)
たった1か月で、ノートのページはびっしりと埋め尽くされた。
表紙には「観察記録」と書いたけど、実態は“監視”。
ミレーヌとエドワルドの言動、接触頻度、周囲の反応、そして私の心の揺れまで
――全部、記録済み。
(ええ、これは“恋愛茶番劇の監視ログ”。もはや学園版『情〇大陸』よ。
主演:聖女ミレーヌ、助演:脳内春祭り中のエドワルド。)
前世では、プライベートで日記や記録なんてつけなかった。
感情は飲み込むだけ。誰に何を言われたか、何を感じたか
――全部、心の奥に押し込んで、忘れたふり。
(日記を書く余裕もなかったし、記録しても誰にも言えなかった。話す相手もいなかったし、話す気力もなかった。感情は“消化”じゃなくて“放置”だったわ。)
でも今は違う。 この世界では、私は“自分の人生”を生きてる。
だから、その気持ちを記録したい。 何が起きて、誰が何を言って、私はどう感じたか
――全部、残す。
エドワルドの悪態はますます酷くなり、月一回のお茶会も「体調不良」でキャンセル。
それ以降、一切連絡なし。
(ミレーヌと一緒にいた時間とピッタリ重なってたから、嘘ってすぐわかるのに。詰めが甘い男って、嘘つくときも“雑”なのよね。せめてスケジュールくらい確認してから嘘つきなさいよ。)
エドワルドと会わなくて済むのはありがたいけど、“カマをかける”チャンスが消えたのは痛い。
婚約破棄の材料が欲しいのに、決定的な証拠が足りない。
エドワルドみたいな男、前世でも何度も見た。
下を見下し、上に媚び、弱い者には冷たく、自分を賢いと思ってる、詰めが甘い〇ネ夫タイプ。
私は、そういう男が心底嫌い。
なのに、彼とミレーヌは、私が“嫉妬してる”と勘違いしてる。
エドワルドの睨みには「俺を取られて悔しいんだろ?」っていう薄っぺらい自信が滲んでるし、 ミレーヌは制服のリボンを直しながら勝ち誇った笑み。
(違うのよ。私はあなたたちが嫌いなの。心底、軽蔑してるの。 “悔しい”じゃなくて“見てるだけで胃が荒れる”の。 叫びたいくらいよ。「あなたたち、恋愛じゃなくて茶番劇やってるだけだから!」って。)
言葉では伝わらない。
証拠にもならない。
だから、記録する。
冷静に、着実に。
ノートのページが増えるたび、怒りと冷静さが並走していく。
前世では記録してなかったから、何も残せなかった。何も戦えなかった。 でも今は違う。このノートは、私の“人生の証明”であり、“戦いの武器”。
(さあ、次の一冊を用意しなきゃ。戦いは、まだ始まったばかり。 ええ、これは“恋愛ファンタジー”じゃない。“情報戦”よ。 そして私は、記録魔にして、冷静な復讐者。 ミレーヌ、エドワルド――覚悟しておきなさい。)
制服姿でエドワルドの手相を見ながら、「素敵な未来が見えます♡」と囁くミレーヌ。
その声は、まるで“この世の砂糖を全て”なめさせられているかののように甘い。
エドワルドは、単調なことしか言ってないミレーヌの言葉に酔いしれ、 手を握られるたびに顔を赤らめる。
毎回、同じ反応。もはや条件反射(パブロフの犬)
対してミレーヌは、女子に対しては「忙しいので…」と相手にしない。
(男子には“運命”、女子には“時間がない”。偏りすぎてて逆に清々しいわ。 そのうち「女子は空気」って言い出すんじゃない?)
彼女の言葉遣い、間の取り方、仕草
――全部が計算済み。
“聖女”という肩書きで男子の心を掌握してるけど、それは“力”じゃなくて技術。
前世で何度も見た、“モテ技”の応用版。 しかも、宗教的免罪符付きの恋愛テクニック。ある意味、最強。
新しいノートを作ったはずなのに、また“エドワルドとミレーヌ観察日記”になってた。
私の気持ちを書くつもりだったのに、ページの大半は:
エドワルドの言動
ミレーヌの手相回数
睨まれた頻度
エドワルドからの冷遇
(これ、誰かに見られたら、さすがに引かれるわね。 “ストーカー”か“エドワルドに恋してる女”って勘違いされる可能性、爆上がり。怖すぎる。 でも違うのよ。これは恋愛感情じゃなくて、社会現象の記録。 “恋愛茶番劇の研究者”としての使命なの。)
私は冷静に記録する。 これは観察。
これは分析。これは、未来の証拠資料。
そして、必要なときが来たら――
この“聖女”の仮面を、制服ごとズルむけに剥がしてやるから。 ノートとペンで、ね。
◇◇◇
そんな矢先、事件は起きた。 昼休み、席を外して戻ると――イザベラが私のノートを手に取っていた。
「これ…あなたが書いたの?セレナの机の真下に落ちていたから、誰のか確認しようと思って中身を見たのだけど…」
「あっ…うん、みた? そう、私の観察記録。分析用…という名の、恋愛茶番劇の監視ログ」
イザベラは静かにノートを閉じて言った。
「…すごいわね。観察っていうよりもストーカーみたいになっているけど…。ふふふ。でも、観察用だとしたら、誰かに見られたら危ないわよ」
「わかってる。誰にも見せてない。ていうか、見せられない。内容が濃すぎて、もはや“ドキュメンタリー”」
「私も、誰にも言わないわ。でも、気をつけて。ミレーヌはただの聖女じゃない気がする」
「なぜそう思うの?」
「昨日、レオンが彼女に触れられた瞬間、彼の魔力が揺れたの。」
(やっぱり、あの“女”は何か仕込んでる。手相見ながら魔力操作って、恋愛と呪術のハイブリッドか何か?)
「王様から“聖女ミレーヌ様の学園生活を支えてほしい”って言われたの。彼女が学園で過ごしやすいように尽くすよう…」
「でも、王妃様からは、“彼女の態度が目に余るようなら、将来の王子妃として注意しなさい”って」
(王様は“聖女様をお守りください”って言ってるけど、王妃様は“調子乗ったら叱りなさい”って言ってるのね。夫婦間でも評価割れてるあたり、ミレーヌの“怪しい力”は家庭崩壊レベル。)
ただ、言葉の感じからしても、王妃様もミレーヌを良く思っていないようだ。
そして、私と同じように、イザベラもまた、孤独な戦いをしている。
「ありがとう、イザベラ…。観察ノート見られたのがイザベラでよかったわ。もし他の誰かだったら…と考えたら恐ろしい。エドワルドとかに見られたら、“俺に夢中なんだな”って勘違いされる未来しか見えない」
「ふふふ、そう言ってもらえるなら、拾った甲斐があるわ。ていうか、エドワルドに見られたら“ミレーヌとの関係に嫉妬している”と思い込むわよ、きっと」
イザベラが久々に登校したことも、嬉しかった。
最近は妃教育で、学園に来る日も少なくなっていた。
彼女がいない教室は、どこか空虚だった。
ミレーヌが来てから、幼馴染たちとも過ごす時間が格段に減った。
レオン、カイル、グレイ――あんなに一緒に笑っていたのに、今では彼らは、ミレーヌの周囲にいる。
(さみしいな…あの子、“聖女”っていうより“磁石”。特定の男だけ引き寄せる高性能。)
誰にも言えないその気持ちを、私はノートに書き綴っていた。
でも、イザベラと共感できたことで、少しだけ救われた気がした。
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