21
(中身アラフィフ、外見12歳)
レオンとイザベラの婚約内定を祝うお茶会から帰ると、母が「楽しかった?」と聞いてきた。
私はいつものように「普通だったよ」と答えた。
……けれど、心の中では“普通”なんて言葉じゃ到底片付けられない感情が、胃のあたりでぐるぐる渦巻いていた。
ミレーヌの登場は、まるで舞台の幕開け。
白いドレスに、計算された微笑み。間の取り方は完璧、セリフは“聖女風味”。 あれね、完全に“狙ってる系”。しかも、男たちがまんまと釣られてるのがまた腹立つ。
エドワルドが「聖女みたいだ」って言ってたけど、聖女かどうかはともかく、“何か持ってる”のは確か。 そしてレオンもカイルもエドワルドも、彼女の前では妙に従順。
まるで「この人、裏で何か握ってるんじゃ…」って顔してるのよ。
(あれって、“特別枠”に弱い男たちの典型的な態度よね。前世でも見たわ。
肩書きと雰囲気だけで判断するタイプ。)
極めつけは、手相タイム。
「運命が見えるんです」って言った瞬間、私、紅茶吹きそうになったからね。
運命?手相?それ、前世で何回聞いたと思ってるのよ。
「私、手相見れるんです」
「もしかしたら、あなたが、私の運命の相手かもしれません…♡」
って言って、男の手を握りしめて上目遣い。はい、出ました。
恋愛詐欺の初期フォーム。 悩み相談で「〇〇さんしか相談できなくて…」って言われて、何人の男が“俺だけに心開いてくれてる”って勘違いしたか。
(そもそも、彼氏の話を赤の他人の男に二人きりで相談するって、どうなのよ?それを真顔で受け止める男も男よ。何人に同じセリフ言ってるか、数えてみなさいっての。)
(恋愛を“感動の物語”として楽しんでる男たちへ。こっちは“恋愛テクニック大全”を前世でコンプリートしてるのよ。あの手この手、全部見た。むしろ、あの手法に名前つけて教科書に載せたいくらい。)
……と、心の中のおばちゃんが、今日も元気に毒を吐いていた。
そして、エドワルド。 彼は、私を褒めたことなんて一度もない。
私の発明に対しても、毎回「へー、で、利益は?」のみ。
興味があるのは、私じゃなくて、利益のみ。
まるで前世で旦那をATM扱いしていた妻たちのようだわ。
でも、ミレーヌの話には満面の笑みであいづち連打。
彼女が手を握って「エドワルド様ってすごいですね」なんて言った瞬間、彼の顔は完全に“落ちた男”のそれ。 目がとろけてたわ。チーズかと思った。
(見るだけで寒気がするのよ。あの二人の世界、こっちは入場拒否したいのに、強制観覧させられてる気分。愛情なんてこれっぽっちもないけど、嫌いな人同士の茶番を目の前で見せられるのは、もはや精神的拷問よ。しかもノーギャラ。)
母は、私とエドワルドの間に漂う氷点下の空気にうっすら気づいている。
でも何も言わない。父も何もしない。私も、何も言わない。 というか、言えない。証拠がないから。 今さら言ったところで、何かが変わるわけでもないし。
父はグランディール侯爵家との縁にウキウキ。
使用人たちは「お嬢様、さすがですわ〜」と目をキラキラさせてるけど、 そのキラキラ、私の内心のドロドロを照らしてくれるライトにはならないのよ。
私は冷静に状況を分析していた。 ミレーヌの登場、エドワルドの態度、レオンたちの微妙な反応。 全部が、何かの“前兆”にしか見えなかった。
ミレーヌが本当に聖女かどうかは知らない。
でも、それ以上に気になるのは――彼女の“演技力”。
(あの子、絶対なんか企んでるわよ。おばちゃんの勘がビンビンに反応してる。あれは“天然”じゃない、“計算”よ。しかも関数レベルのやつ。)
私は、エドワルドの言動をさらに細かくメモに残すようになった。
日時、言葉、表情、鼻の伸び具合まで。まるで刑事。しかも恋愛事件専門のベテラン捜査官。
自分で言うのもなんだけど、証拠集めのスキル、転生前より上がってる気がする。
でも、それくらいしないと、この婚約は“破談”に持ち込めない。 感情じゃなくて、証拠で殴るのが貴族社会のルール。
「なんかムカつく」じゃ通用しないのよ。
だから私は、笑顔を保ちながら、心の奥で静かに“その日”を待っている。
婚約が崩れる日。私が自由になる日。
そして、ミレーヌの“聖女ごっこ”の正体が明らかになる日。
そのとき私は、“おばちゃん”としてじゃなく、“セレナ”として、 この世界に生きる人間として、堂々と立っていたい。
(そうじゃないと、私が転生してきた意味がない。今回こそ、自分の人生を生きるって決めたんだから。前世では空気読んで黙ってたけど、今世では空気より証拠を読んで動くのよ。)
(ちなみに、エドワルドの“とろけ顔”は、今日だけで5回も見たわ。ミレーヌが「すごいですね♡」って言うたびに、彼の脳内に花が咲いてるのが見える。あれ、もう“脳内花畑”よ。)
(でもいいの。私は記録してる。冷静に、着々と。 そのメモ帳、最終的には“婚約破棄のための完全攻略本”になる予定だから。)
広告の下にある☆☆☆☆☆から、作品の率直な評価をよろしくお願いします。
また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、大変嬉しいです(>ω<)




