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(中身アラフィフ、外見10歳)
弟が生まれ、家族の絆が深まった頃。
私の心に、突然、心に影が差すような話を聞いた。
「第二王子様は、今年で10歳。学園にも入学される年齢ですし、そろそろ魔法の適性検査があるそうですよ」
「聖女候補も、見つかったとか?血筋としては問題があるようですが…」
――聖女。
その言葉に、思考が止まった。胸の奥がざわつく。
この世界は、魔法と騎士、そして“聖女”と呼ばれる存在が絡むようだ。
まるで乙女ゲームのような舞台。
(もし、私がこの物語の“ヒロイン”じゃなかったとしたら――)
(だいたいこの系統って、逆ハーレムがあって、悪役令嬢の追放があって…なんだかんだ聖女のやりたい放題よね?)
(聖女が他人を追い詰めて追放したり、色々な男を手玉に取る時点で、聖女とは言えないんじゃない?)
(でも、きっと乙女ゲームはそういう誰かを貶める展開で、プレイヤーがスッキリする構造なんだろう)
(それだけ、私以外にも、気持ち的に疲弊していた人たちがいたんだな。人に見下され疲れたときに、きっとゲームの中でやり返すことが、ストレスの発散だったのかもしれない…。)
(人は自分より強い、弱いと判断して弱いものを見下すっていう傾向が強い人はいったいなぜなんだろう?自分含めてきっと疲弊してしまったと思うけど…。)
“聖女”というキーワードに、私は少しだけ怯え、さらに思考が目まぐるしく動いた。
もし私がその迫害される対象でないなら――イザベラが? カイルが? レオンが? グレイが? リュシアンが? 誰かが“巻き込まれる”のではないかという恐怖が、胸を締めつけた。
この世界では、聖女は特別な魔力を持ち、王国の守護者として崇められる存在らしい。
けれど、物語の中では、聖女が誰かを追放したり、陰謀に巻き込んだりする展開もある。乙女ゲームの知識がなくても、その“役割”の重さは感じ取れた。
その誰かが、物語の都合で傷つけられる未来を想像しただけで、胸が痛くなった。
(この子たちが、誰かの都合で傷つくなんて、絶対に嫌)
私は、彼らの笑顔を守りたかった。イザベラの誇り高く優しい心が曇ることも、カイルの知識に満ちた瞳が迷いを宿すことも、レオンの繊細な感情が踏みにじられることも、グレイのまっすぐな正義が利用されることも、リュシアンの静かな世界が壊されることも――全部、嫌だった。
私が、子供を産んだことがない。けれど、彼らの未来を願う気持ちは、きっと本物だ。
前世で子育てを終えた友人たちが言っていた。
「子どもは、血のつながりだけじゃない」と。
今なら、その言葉の意味が、痛いほどわかる。
私はこの世界で、“私自身の物語”を生きる。誰かの犠牲になるためじゃなく、自分の足で立つために。そして、私と関わった彼らの未来が、少しでも明るいものであるように。
そのために、私は学ぶ。
魔法も、歴史も、政治も。
誰かのために動けるように、誰かを守れるように。
そして、私は記録する。
彼らとの時間を、言葉にして残す。
お茶会の記録、庭での会話、そろばんの練習、剣の稽古、温室での魔法
――すべてが、私の宝物。
ページをめくるたびに、心が少しずつ整っていく。彼らとの時間が、私の中で確かな形になっていく。それは、ただの思い出ではない。
私がこの世界で生きてきた証であり、これからを生きるための灯火だった。
そして、私は決めた。
(もし“聖女”という役割が、誰かを苦しめるものなら――私は、その構造そのものに立ち向かう)
(この世界で、誰かが“物語の犠牲”になるくらいなら、私は“物語の外”からでも、守る側に回る)
その決意は、静かに、でも確かに私の中に根を張った。
春の風が吹く。新しい季節が始まる。学園の門が開かれ、私たちはそれぞれの未来へと歩き出す。
これは、私の転生人生の“第一章”の終わり。
そして、彼らと共に歩む“第二章”の始まり。




