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(中身アラフィフ、外見10歳)
お茶会から学園に入るまでの2年間。
私は魔法という未知の力に惹かれ、静かに、でも確かに歩みを進めていた。そして、その私の歩みの隣には、いつもリュシアンがいてくれた。
ヴェルディエ邸の奥にある温室。
季節ごとに咲く花に囲まれたその場所が、私たちの“憩いの場所”だった。
リュシアンは、魔法省に勤める家の長男であり、彼自身も魔法使いだ。
だが、学園に通う年齢に既に達しているであろうが、学園には入学していなかった。
そして、彼の話を聞く限り、家族を除き、私以外とはほとんど交流を持っていないようだった。
彼の世界は静かで、規律正しく整っていて、そしてどこか孤独だった。
でも、私がそこに足を踏み入れると、彼は少しだけ表情を柔らかくした。
「魔法は、空気みたいなものなんです。あるけど、見えない。でも、触れようと思えば触れられる」
彼の言葉は抽象的すぎて、魔法そのものに触れるのが初めての私には、理解が追いつかないことも多かった。でも、彼の話を聞いていると、なぜか心が落ち着いた。
そんな会話を繰り返しながら、私たちは信頼関係を深め、私は少しずつ簡単な魔法を覚えていった。
薪に火をつける。
庭の花に水を撒く。
ほこりを風で集める。
前世ならスイッチひとつで済むようなことばかり。
でも、この世界では、それが“魔法”として成立している。
「セレナさん、火の魔法、安定してきましたね」
「ほんと?…でも、これってライターで済むんだよね…」
「ライターって何ですか?」
その瞬間、私は確信した。
リュシアンは、転生者ではない。
この世界で生まれ、この世界で育った、純粋な“こちら側”の人間だった。
彼は自分のことはあまり話さなかったが、私は彼にすべて話した。
魔法の話、前世の話、心の話
――それらが、ふたりの時間を少しずつ育てていった。
「僕は、セレナさんと話すと、新しい発見があって楽しいです」
「…それ、私も同じかも」
週に何度もリュシアンのもとに通ううちに、彼の家の使用人たちからは、生暖かい目で見られるようになった。
「お待ちしておりました。セレナ様」
「お茶とお菓子、お二人のお気に入りの場所に、いつものようにご用意いたしますね」
(…なんか、常連感がすごい。)
彼の家の使用人の律儀さが、なんだかおかしくて、つい笑ってしまう。
でもきっと彼が誰に対しても誠実だから、彼の家の使用人も誠実なのだと、私は知っている。
そんな風にリュシアンと魔法を通じての交流を深めていった。




