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(中身アラフィフ、外見7歳もうすぐ8歳になる予定)
華やかな庭園に漂う紅茶の香りと、張り詰めた緊張感。その空気の中で、私は周囲を観察しながら、少しずつ自分の居場所を見つけていった。
レオンの不安にそっと寄り添い、カイルの知識に前世の経験を重ね、グレイのまっすぐな情熱にブレーキをかけ、イザベルの志に共鳴した。
けれど――一人だけ、まるで別の空気をまとった少年がいた。
銀髪に眼鏡、淡い緑の瞳。魔法使いの息子、リュシアン・ヴェルディエ。
彼はお茶会に参加していたものの、他の子供たちとはほとんど会話をせず、静かに紅茶の香りを楽しんでいた。
その姿が、痛いほど私の目に焼きついた。
(ああ…この子、前世の私だ)
会社では誰とも話さず、挨拶だけして黙々と仕事をこなし、ランチはいつも一人。
業務以外の会話はゼロ。誰にも話しかけられず、誰にも話しかけず、気づけば一日が終わっていた。
(誰かと話したい。でも、話しかける勇気がない。話しかけられるほどの存在でもない――そう思ってた)
リュシアンの姿は、まさにその頃の私だった。
静かで丁寧、でもどこか距離がある。紅茶の湯気の向こうに、誰にも触れられない心が見えた気がした。
彼の所作は、子供とは思えないほど洗練されていた。
背筋は常に伸び、椅子に座る姿勢も乱れない。
カップを持つ手は指先まで美しく、視線はまっすぐ。言葉遣いも、まるで書斎で育った老紳士のようだった。
私は思い切って話しかけてみた。
彼は少し驚いた顔をしながらも、丁寧に返事をしてくれた。
「私はリュシアンと言います。あまり甘いものは好みではないのですが、他に選択肢がなさそうですね」
その話し方は、年齢に似つかわしくないほど落ち着いていて、まるで“大人同士”の会話のテンポだった。
「セレナ嬢は…不思議な方ですね。話していると、父や母と話しているような感じです」
(この子…人をよく見ている。感覚が鋭くて、繊細で、言葉を選びながら話してくれている。とても優しい子。)
魔法の話になったとき、彼はこう言った。
「理屈より、感覚で捉える方が僕には合ってるかな。魔力って、感情と記憶に近いものだから」
(…この会話の内容、感覚が鋭いだけ?子どもがいうようなこと?完全に“大人同士”じゃない?)
ふと、私は聞いてみた。
「ねえ、リュシアン。もしかして…あなたも“転生者”だったりする?」
彼は一瞬だけ目を細めて、すぐに微笑んだ。
「“転生者”ってなんですか? よくわからないけど、僕は、ただ……人見知りがあるのと、少しだけ…、他の人より成長が遅れているだけです」
その言葉は、まるで霧のようにふわりと漂って、私の胸に静かに落ちた。
(動揺すらしない…この子、本当に転生者じゃないの?)
けれど、彼の瞳には嘘がなかった。だからこそ、私は思った。
(もし、前世の私と同年代だったら…きっと、すごく気が合っただろうな)
それから少しずつ、リュシアンとの距離は縮まっていった。王宮でのお茶会の後も、時々二人でお茶会を開き、庭で花を眺めたり、静かな図書室で本を読んだり。彼は騒がしい遊びよりも、静かな時間を好んだ。
「セレナさん、これ…魔法で育てた花です。よかったら、どうぞ」
「ありがとう。すごく綺麗…優しい魔法ですね」
「うん。魔法って、誰かを驚かせるより、癒す方が好きなんです」
(ああ…この子は、心で魔法を使うんだ)
魔法の世界なんて、前世では夢物語だった。
けれど、リュシアンといると、それが目の前にある。静かで、穏やかで、でも確かに“心が通う”時間。
春の風が吹くたびに、彼の言葉が思い出される。
「僕は、誰かの心に残る魔法を使いたいんです」
(リュシアン…あなたの魔法は、もう私の心に残ってるよ)




